In Another World〜異世界で送る新人生〜

勝田美雪

文字の大きさ
5 / 8
森林波瀾篇

いわゆるボス戦?

しおりを挟む
「ところでユウキ様。この修行の目的、覚えておられますかな?」

 ゼピュロスは、ユウキがそれを忘れてるであろうから、一応叩いておくことにした。

「ん?目的?僕の強化じゃないの?」

 やはりだった。

「はぁ。まあ、良いでしょう。これの当初の目的は、『邪悪な魔物の討伐』です。おそらくの査定ではありますが、《中級魔法》である風の化身(ウィンドアバター)を会得した貴方様なら、難なくクリアすることができるでしょう。」

「えぇ……僕、そんなことしないといけないの?」

「えぇ。しなければなりません。これも修行の一環なのです。」

 ゼピュロスは、ユウキを諭すように言った。

 ゼピュロスが見るからには、その効果はあった。まあユウキからしたら何のことやら、なのだが。



 ……?え?また?



「チッ。しょうがねぇか。いいよ。やるよ。んで、誰を殺ればいいんだ?」

「お、乗り気ですね?いいですよ。今回はですね、ランクBのデッドウルフです。ランクが上がっていることからも、先ほどのウルフより強いのは分かるとは思います。まあ、その他については戦闘中に気づいてもらいましょうか。」

 ゼピュロスはこう説明した、のだが、

「ん?今回?てことは、次回もあるのか?」

「……え、えぇ。まあ、邪悪な魔物は数多存在している故。」

「なるほど」

 その後、そのデッドウルフの元に向かうのであった。



 ◆◇◆◇◆

「いましたいました。あそこにいるのがデッドウルフです。では、私はいつものようにしているので、ユウキ様。健闘を祈りますよ。」

 そう言うと、ゼピュロスはまた空間から消えた。

「チッ。やるっきゃねぇか。」

 "俺"もやる気を出すことにした。そして、いつものように枝を構える。

 デッドウルフもこちらに気づいたようで、今にも走りだそうとしているところだ。

(なんで走らないんだ?)

 単純に疑問に感じた。

 そう。これまでの大概の魔物は、こちらを発見するやいなや、攻撃を仕掛けてきたのだ。なのに今回はそれがない。

(怯えているわけでもなさそうだし、てことは……)

 RPGでは、自分よりレベルが低いモンスターとのエンカウント率が下がる、という仕様が時たま見られる。

 ユウキは《中級魔法》風の化身(ウィンドアバター)を会得しているので、ある程度格は上がっているだろうし、戦闘力自体はこのデッドウルフよりも大きいだろう。

 つまり、その方式がこの世界で採用されているのならば、自分よりも弱い相手ならば、怯えて逃げ出すのだ。

 しかし、このデッドウルフにはそれがない。

 ゼピュロスが俺に闘わせるんだ。素人と闘わせる魔物には、そう強い魔物ではないだろう、……あ、ランクBだっけか?そんなの、、忘れた。気にしない…

 ここで、ユウキは考え、ある1つの結論に辿り着く。

(こいつ、自我があるのか?)

 魔物の大概は、自我を持っていない。それは幾多の魔物との戦闘で分かっていた。

 しかし、こんなに思考が飛躍していていいのだろうか。

 いいんだよ!!

 ここは異世界だぜ?何でもありなんだ。




 俺は戦闘を始めることにした。


 俺がデッドウルフへと走り出すと、デッドウルフがそれを待っていたかのように走り出した。

 俺は、いつものように『お手製レイピア』でデッドウルフを突き刺す。

「!?チッ」

 なんと、『お手製レイピア』がデッドウルフに通用しなかったのだ。

 確かに突き刺した。それは間違いない。しかし、手応え0。相手の傷0。つまり、ダメージを入れられないようだ。

 ここで、"僕"は自身のRPGの知識を活かすことになる。

(デッドウルフ?デッド?死?もしかして、霊体なのか?それなら、物理攻撃が効かないのは納得だけど)

(風の化身ウィンドアバターを使ったとしても、あれは身体を覆うだけ。結局行うのは物理攻撃だ。俺は、どうやってもあいつに勝てない、のか?)

 "俺"は、迫り来るデッドウルフの襲撃を何とか捌きながら思考する。


(物理攻撃がダメなだけでしょ?風の化身(ウィンドアバター)が無理なんて決まってないじゃん。)


 ……!?"僕"は、考えていただけなのに、なぜかそれは僕の中で言葉として表されたのだった。

(さっきも言っただろ。風の化身(ウィンドアバター)を使用したとしても、結局は殴ることになるんだよ。……てかお前、なんで喋れてんだ?)

(そう!なんで!!??)

(知るかよ)

 そう。そんなこと、俺の知ったことじゃねぇ。

(僕、ほんとになんで君に干渉出来てるの?今までの戦闘って、全部僕見てただけなんだけどさ。)

(どうせ、《中級魔法》を取得したから、精神の扱いも容易に出来るようになったんだろ。俺は、"精神体"だからな。)

 そう。今僕と話しているのは、もう1人の僕だ。

(精神体?)

 当然、前の世界ではこんなことはなかった。だけど、こっちの世界に来て、こいつが僕の中に現れたのだ。

(まあ、それはいっか。)

(あぁ。今は目の前の敵に集中することだ。)

(ところでそれなんだけどさ、風の化身(ウィンドアバター)って風を纏うわけでしょ?なら、その纏ってる風を手に着けて、それで殴ればいいんじゃない?それって魔法で殴ることになるでしょ?)

(……そうか?まあ、やってみるだけやってみるわ。そもそも、それが技術的に出来るか分からんけどな。)

(それは大丈夫!)

(なんでだよ……)

(こういうときって、大概新しいこと出来ちゃうんだよ!?)

(…………)

 俺は、唖然として声すら出なかった。

 俺は、意識をデッドウルフに完全に向けることにした。

「風の化身となり、我に力を与えよ!!風の化身(ウィンドアバター)!!」

 そう放つと、ユウキの身体はみるみるうちに風に包み込まれていく。

 そして、自分の腕に意識を集中させる。といっても、デッドウルフは依然としてこちらに殴りかかっているので、それを回避しながら、だ。

(腕については僕がやる!お前は回避に専念してくれ!)

 俺は一瞬戸惑ったが、

(あぁ。分かった。早いとこやってくれよ?)

(もちろん!)



 僕は、風を腕に纏わせることに集中した。

(まず、腕に意識そのものを集中させて、身体の風を移動させるイメージで…………ん?あ!!これじゃだめじゃね!?)

 このやり方の致命的な箇所に気がついた。

 それは、腕に風を纏わせることで、身体を覆っていた風が薄くなるのだ。

 そんなこと、当然攻撃力と防御力の両方が求められるRPGでやってはいけない行為だと考えていた。

 ワンパンとか嫌だし。

(……さて、どうしようか。)

(…………)

(…………あ、また呪文改変すればいいんじゃね?)

(………………よし。たぶん大丈夫。)



 俺は、デッドウルフに意識を集中させてはいるが、デッドウルフの攻撃は速く、重い。正直、弾くだけで精一杯だった。

 それと、疑問に思ったのが、なぜこちらの物理攻撃が通じずに、あちらは物理攻撃を撃つのか。

 まあ、これはゼピュロスを問いただせばいい話。俺はデッドウルフについて考えることにした。

(考えるにしても、あいつが早いとこ腕に風を纏わせる方法を探ってもらわないと、なんともならんな。)

 あいつを待つとしよう。



(出来たよ!)

(おお!思ったより早かったな。早いとこやってくれ。)

(ああ。)

「風よ、我が『四肢』に纏え!!能力付与-風(ウィンドエンチャント)!!」

 ユウキがそう言い放つと、ユウキの四肢、手足は風の塊で覆われた。

「おお!なんだこれ!?」

(僕たちの手足の風の層を強化した。これであいつを殴れるだろうし、たぶん僕らのスピードも上がっていると思うよ。この手のものは大概そうなんだ。)

(そ、そうか。まあ、足はさておき、手は完了ってわけだ。んじゃ、サクッと終わらせますか。)

(んだね。)

 "2人"は、その後、デッドウルフを一瞬にして倒したのだった。




(おい!すげーじゃねぇかあれ!手もそうだけど、足だよ足!!!スピードが半端じゃなかったぜ!?)

(まあ、そうだろうね。)

 あいつの反応を聞いて楽しんでいたかったが、そんな余裕はなかった。

「ユウキ様。今のはなんです?何をしたのです?」

 そう、ゼピュロスへの対応である。



 デッドウルフと交戦しているときに、

(そういえばお前、あのゼピュロスって奴、あんま信用しない方がいいぜ?奴からはお前、いや、俺らに対する嫌悪、憎悪が流れ出てる。だから、俺はあんまり相手にしたくはないんだが…)

(え?そーなの?そんなこと全然感じなかったけど)

(異世界にいて、魔素とは無縁の生活をしていたお前は間違いなく感知出来ねぇだろうよ。こっちの普通の奴らでもたぶん無理だ。俺は特別なんだよ。)

(特別?)

 疑問に感じた。いや、元々感じていた。そもそも、なぜこんな存在がユウキの中に発生したのか。

 ゼピュロスがユウキに対して憎悪を抱いているなど、考えられもしなかった。

(ああ。なんせ、俺はお前が通ってきた、あの有象無象が漂うなかに、一緒に漂っていた『物』の1つだからな。)

(ん、えぇっと、まあ、そうでもないと、この世界に来て僕の中に現れた理由なんてないか。)

(ああ。俺はな、…………まあいい。あの中は特別でな。この世界だって、あっちの世界だって見れるし、特殊能力だって発現する。というか、あそこで発現するんだよ。)

 仕方ないか。こうなったら、昨日今日会った人よりも、自分を信じよう…って、こいつとも最近会ったばっかじゃね?というか今だ!!

 ……まあいっか。

(そうか。まあ、お前はもう1人の"僕"だし、お前の方を信じるよ。)

(ああ。だからな。俺の存在をゼピュロスに言わないで欲しいんだ。)

(え?なんで?)

(なんでってお前……まあ、その~、あ!俺の勘だ。信じろ。)

(そんなむやみに信じられはしない…けど……てか、なんで言うのに悩んでた!?……うーん、まあいいよ。その方向性で行くよ。)

(お前のその納得の仕方には不満だが、まあいい。)

 というやり取りをしていた。

 どうやら、彼いわく、ゼピュロスは何やら危ない存在らしい。僕は、それを加味して行動することにしよう。

 その途中、枝について聞いてみた。

(なぁ、なんでこの枝こんなに硬いんだ?)

(あ、あぁそれか。この世界には魔素が充満している。それは、物質に影響を及ぼすんだ。この枝の場合は、魔素によって硬化しているんだよ。)

(へぇ。)

 なんとまあゲーム仕様なのでしょうか。

 ……そんなことはどうでもいっか。枝は硬い。それだけで十分なのだ。

 …………

 そんなのでいいわけがない。

「あれ?枝で突いてもどうにもダメージが入らなかったみたいだったから、手に風の層を作って、それで殴った。まあ、要は魔法で殴ってたんだな。」

 ユウキはこの部分に関しては本当のことを話した。なんてったって、ここは普通に話していいことだし、隠してもバレることだし、そもそもゼピュロスは隠すことに違和感を覚えるだろうから。

「!?なるほど!それは素晴らしい。私は、ユウキ様はデッドウルフに倒されると思って、回復魔法の準備をしていたのですが、無駄足だったようですね。」

 おっと、ゼピュロスさんは僕のために回復魔法の発動の準備をしていてくれたようだ。

 ……ってまて。それって僕が倒される前提じゃねぇか!

 まあ、そんなことはいいや。

「さて、デッドウルフ討伐も完了したことですし、今日はこの辺で城に帰りましょうか。」

「ああ。もう疲れた。帰ったらすぐ寝る。」

「おほほ。体力はまだまだのようですな。これは鍛え甲斐がありそうです。」

 僕は、ゼピュロスが不敵な笑みを浮かべたが、それは見なかったことにした。

 そして、2人、もとい"3人"で城に帰ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...