6 / 8
森林波瀾篇
『おうち』に帰って
しおりを挟む城に戻るのは3日ぶりである。
この3日間、森に野宿していて、あっちの世界の布団に慣れたユウキの体は、瞬く間に筋肉痛やらになっていた。
でも今日からは違う……
そう!お城だよ!?フカフカのお布団があるに決まっているではないか!!
幸せなことこの上ない!
僕はこんなことを考えながら長い長い廊下を歩いていた。
ちなみに、ゼピュロスはと言うと、何やらブツブツ唱えていた。
恐怖だったことは忘れてあげようと思う。
最初に来た客間(?)に入った。ゼピュロスがカオスを呼んできてくれるそうだ。
(にしても、ここやたらでかいよな。)
(あぁ、そりゃそうだろ。何てったって、『神様のおうち』だからな。)
(まあ、そうか。)
このときユウキは、この『神様のおうち』というものの意味を捉え間違えていた。
……あ、そうだ。
(ところでさ)
(あ?)
(お前って名前とかある?名前ないと呼ぶ時に『おい』とか、『お前』になるんだよ。それ、僕が嫌なんだよね。)
おい、とかお前と呼んたり呼ばれたりするのは、いじめがフラッシュバックするからやめたかった。
(あ?まあいいが、俺に名前はねぇぞ?)
……え?
(え?ないの?なんで?)
(なんでって…俺は!あの訳の分からんところにいたの!!名前なんて付くわけねぇだろ!!)
なんでこんなにキレてんのさ……
(じゃあいいや。勝手に付ける。)
(……へ?)
なんだこいつ。さっきと違ってすげーとぼけた声だしたぞ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
(お前のことは『シャドウ』と呼ぶ。いいか?)
(……お、おお!『シャドウ』か……今日から、俺の名前は『シャドウ』…………気に入ったぞ!!)
影=シャドウってかなり安直に考えたが、気に入ってくれたようでなにより。
あ?なんか文句あんのかよお前ら。
「やあ、ユウキ。遅くなって悪いな。早速で悪いが、修行の成果はあったか?」
「は!?お前、デッドウルフを3日で倒したと言うのか!?……というか!なんで『呪文改変』まで出来てあるのだ!?」
いや、そんなこと言われても知りませんよ神様。
「え?いや、出来たものは出来たんだけど……」
「……ふむ。よく分からんな。……まあよい。喜べ。明日は休みにするぞ。明後日からはまた修行じゃ。覚悟せい。」
「……は?」
あ、そういえばゼピュロスが、「今回は」とか言ってたな。それってこういうことだったの?
(お前、なんも分かってなかったのかよ……)
おっと、シャドウさんからツッコミが入っちゃったよ。
こりゃ、僕はだいぶ重症なようだ。養生したいな……
てか、普通に考えて修行が3日とか短すぎるか。
「まあ、もう今日は遅い。明日もゆっくり休めばよいが、今日ももう休め。」
「あ、はい……」
使用人のメイドが僕が泊まる部屋に案内してくれるそうだ。
メイドさんに付いて歩いていった。
かなり美人だった。正直、仲良くなりたい。
そう思い、部屋に歩いているときに話しかけたものの、非常に淡白な反応しか返ってこなくて悲しんでいた。
しかし、そんな悲しさは、部屋に辿り着くと薄れるのだった。
「お、おおお!!!」
なんだこの部屋は!!
「では、ごゆっくり。」
メイドさんは、そう言って部屋を出て行ってしまった。
そのままこの部屋にいてもらっても良かったのに……
……いかんいかん!!なんでこんなことを考えている!!!
…………
この部屋には、今日の夜の分だと思われる食事と、フカフカ(想像です)のベッド、テーブルにイス、トイレに、それに…えぇっと、……おおお!!!風呂まであるじゃないか!!しかも、結構なサイズ!!!
僕は大興奮であった。
テレビがないのは、現代っ子として遺憾に思うが、それ以外を考えると、東京の一流ホテルのよりもよい待遇を受けている気がする。
流石は神様。やるね。
この後、食事を一瞬にして食べ終わり、優雅にお風呂に入った後、すぐさま眠りに落ちたのは言うまでも無いことだ。
※※※
それを聞いた時、カオスは驚きを隠せなかった。
(は?3日間でデッドウルフ討伐?え?『呪文改変』までしたの???)
それは当然だ。なんせ、デッドウルフはランクBの魔物。
そもそも、魔物のランクわけは、ギルドの冒険者ランクに則っているのだ。
何を言いたいかというと、ランクCの魔物はランクCの冒険者が1人でなんとか倒せる。ランクBの魔物はランクBの冒険者が1人でなんとか倒せる。こういう分け方になっているのだ。
ランクは、基本的にAからEの五段階、Eを最低としている。
ランクEとは、一般人とあまり変わらない。
つまりギルド内であれば初心者。
さて、そんな推定冒険者ランクEの人間がデッドウルフを倒せるわけがない。
このランク分けはこの土地の人間が勝手につけたのだが、カオスはそれを気に入っていた。
しかし今、カオスは混乱していた。
(デッドウルフを倒したとなると、彼奴の推定冒険者ランクはBとなる。が、3日間でそんなに成長できるものか。……となると、怪しいのは『風の化身(ウィンドアバター)』だな。
……ゼピュロスは、彼奴にウィンドカッターを教えていると、急に『呪文改変』をしだして、一度で成功させたと言うが、にわかに信じ難い。)
そう。そもそも、呪文改変とは、その魔法の境地に達した者が、「より唱えやすく」、「より強力に」、「より良い魔法に」するためにする、いわば苦肉の策であって、むしろ一般には邪道と言われている。
(《下級魔法》すらまともに発動できなかった若造に、そんな芸当ができてたまるか。ましてや呪文改変した後の魔法は、《中級魔法》、能力レベルは《上級魔法》相当だったと聞く。そんなバカな話あってはならんのだ。)
カオスは、魔法には自信があった。それは、自分しか出来ない《神術》空間翔転移(テレポート)
と、《神術》空間操作がある、というのと…………
そんなカオスであっても、『呪文改変』や『無詠唱』という極地に達することは容易ではなかった。
それを、こんな異世界人にいとも容易く成し遂げられたことに、カオスは憤りすら感じていた。
なぜ私に出来なくて奴に出来る、と。
神とは人間どもに君臨し、支配するものだ、と。
そんな者共が私の上に立ってはならない、と。
ふざけるな。
だが、こんな感情を全面に出しては、今から築こうとしているものが築けなくなる。
だから、だから…………
▲▲▲▲▲
その丸テーブルの周りには、テーブルを囲うように10人の人間がイスに座っていた。
「…………ということで、本件の決定に異論のある者は挙手を。」
その会議は、大柄な男が取り仕切っていた。
挙手をする者はいなかった……が、
「少しいいか?その作戦だと、あの《太陽神》アポロと敵対することになるぞ?それは大丈夫なのか?」
今度は、小柄な男が大柄な男に質問した。
「そんなことは些細なことでしかない。アポロを潰し、屈服させればいい話。」
「しかし、そのようなことが我々にできるのか?我々がいかに兵力があろうと、アポロが自ら乗り込んできたりしたら、土地ごと燃やし尽くされるぞ?」
「それすらもさせないのだ。そうする自信がないのか?フランよ。」
「……」
フランと呼ばれた小柄な男はこれ以上の言及を避けた。いや、出来なかった。
「ならもうよいな?フランよ。他にはいないな?質問等は受け付けるが。」
誰も、何も喋らない。それどころか、微動だにしない。
それは、この会話に恐怖しているわけではない。フランの意見に賛同できないから、質問する必要がないからだ。
「それと、前回決めた件であるが、近日中に実行する。では、今日はこれで解散とする。」
大柄な男がそう言うと、みんな、足早にその部屋を去って行った。
だが、1人だけそこに留まった。そして、部屋には大柄な男ともう1人が残っていた。
「さて、この作戦がうまくいけば、『あの方』の野望にかなり近くなるな。」
「ああ。だからこそ、次の失敗は許されない。」
「そうだね。」
2人は、こんなことを話しに残っているわけではない、ということは理解していた。
「……奴か?」
「ああ。その可能性は高いだろうね。ここの人間は、自分たちの勝利しか見えていない者がほとんどだ。なのに、それを疑った。これは疑問だ。」
「あいつはどうする?始末しとくか?」
「いや、やめておいた方がいい。今はね。フランが犬だったとしたら、あっちだって、ここに部下を派遣しているってことぐらいわかるだろ。それなのに、その部下が殺されたら、一目散に怪しまれるのはここだぜ?」
「あー、それも一理あるな。だが、その場合、生かしておくとなると、奴らに情報を渡しておくことになるぞ?」
「うーん、それは問題ないでしょ。だって、会議で話さなければいい話だもん。実質、『あの方』の部下は僕ら2人でしょ?ま、"十戒"の変更だとか言って追放するのが無難かな。」
「……それもそうか。」
もう1人の男は、大柄な男が自分の発言に一瞬だけ、そう、ほんの一瞬だけ首を傾げたのを見逃さなかった。
(こいつも後で報告しとくか。場合によってはこいつも……)
その男は、こいつだけは殺したくないと思い悩むのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
一流冒険者トウマの道草旅譚
黒蓬
ファンタジー
主人公のトウマは世界の各地を旅しながら、旅先で依頼をこなす冒険者。
しかし、彼には旅先で気になるものを見つけると寄らずにはいられない道草癖があった。
そんな寄り道優先の自由気ままなトウマの旅は、今日も新たな出会いと波乱を連れてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる