甘く謳う二重奏~氷の天才ヴァイオリニストは執着アルファに溺愛される~

翡翠蓮

文字の大きさ
18 / 68

第十八話「花火大会とクリーム」

しおりを挟む
◇◇◇

 花火大会当日。俺と臼庭は二駅ほど電車に乗り、目的地へと到着する。
 屋台も出ていて人混みが多く、臼庭は背が低いから埋もれてしまいそうで、俺は臼庭の肩を掴んで引き寄せた。

「臼庭、もっとこっち寄って。はぐれちゃうよ」
「別に、はぐれない」
「はぐれるって。俺の腕に捕まってて。行きたい屋台があったら言ってくれる?」
「……うん」

 さすがに人が多すぎると感じたのか、臼庭は素直に俺の腕を片手で掴んでいた。

 腕から臼庭の体温が伝わってくる。
 俺の腕を掴んでいる臼庭の手は、俺よりも小さくて細い。
 指先が硬くなっているのは、ヴァイオリンの弦に毎日触れているからだろう。

 俺の下に臼庭の頭がある。
 小さくて可愛くて、そのまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られてしまう。

 場所取りをして焼きそばとアイスキャンディー、後は臼庭が行きたがっていたコンビニで新作のパンケーキを買い、俺たちはその場に腰かけた。

「お前は帰省しなくて良かったの?」
「臼庭が帰省しないから、少しでも多く過ごしたくて」

 溶けないうちにと二人でそれぞれのアイスキャンディーを頬張る。
 臼庭に触れて熱くなった身体を冷ましてくれる、良い食べ物だ。

「少しは親孝行くらいしろよ」
「大丈夫。毎日授業のこととかLIMEしてるし、写真も送ってるから」
「……仲良いんだな」
「そりゃ、大事に育ててくれた両親だし。……たくさん、お世話になったから」

 いじめられていた中学のころとか。
 あのときは本当に世話になった。

 両親共に気力のない俺に何度も話しかけて、母さんは俺が少ししか食べなくても毎日たっぷりご飯を作ってくれたし、父さんは無理やりピアノ教室を休んで家族旅行にも行ってくれた。

 両親の支えは、今も心に響いている。

「……お前は親が自分のことを愛してない家庭に生まれてたらどうする?」
「え……?」

 突然の問いに、俺は戸惑ってしまった。

 突拍子もない質問だったけれど臼庭からの質問だし、臼庭も真剣そうな声音で言っているからちゃんとした答えを言いたい。

 しばらく悩んで、それから口を開く。

「……悲しいな。毎日泣いてるかも。家に自分の居場所がなかったら、高校生になったらバイトのシフトたくさん入れて少しでも家にいないようにしたり、こうして寮生活してるかもしれない」
「……そうだな」

 臼庭は一言頷いただけで、それ以上その話で膨らむことはなかった。

 アイスキャンディーも焼きそばも食べ終わって、臼庭はガサゴソとコンビニのビニール袋を漁り、パンケーキを取り出す。

「これ、チョコミントなんだけど食べれる?」
「食べられるよ。チョコミントって苦手な人多いよね」
「まあ、ミント感強すぎると本当に歯磨き粉の味に似てるしな」

 袋を開けてお互いのパンケーキを一口食べる。
 チョコミント味のホイップクリームは思ったより甘くて、焼きそばの後にちょうど良かった。

 ちらりと臼庭を見ると、焼きそばやアイスキャンディーのときよりも目を輝かせてぱくぱくと口に運んでいる。
 美味しそうに頬張る姿が愛らしくて、ずっと見つめてしまった。

「……そんな見られると、食べづらい」
「ご、ごめん。……あ」
「え……っ、ちょ、なに」

 臼庭の口元にホイップクリームがついているのに気づいて、俺は臼庭に近づく。
 本当にホイップクリームだよな、と至近距離で臼庭を見ていたら、肩を押された。
 ふいっと顔を逸らされてしまって、夜だから暗いしどんな表情をしているかわからなくなってしまう。

「近いってば。なに、どうしたの?」
「臼庭、クリームが口の横についてるよ」
「えっ」

 臼庭は口元を拭い、上目でこちらを見てきた。

「とれた?」
「もう少し上。……ここ」
「……っ!」

 俺が近づいて口元についているクリームを指先で拭ってあげる。
 そのままぺろっと舐めると、臼庭は「そんなことすんな!」と何故か怒ってきた。

「どうしたの?」
「だ、だから、別にクリームくらい自分で取るから、」

 そのとき、花火がドーン! と上がった。
 一瞬だけ辺りが明るくなって、臼庭の顔が間近で露わになる。

 臼庭は――顔を赤くして、困ったようにこちらを見つめていた。
 耳まで赤くなっている。
 もしかして、クリームを俺が拭ったのが恥ずかしかった……?

「……花火上がってるから、そっち見ろよ」
「ううん。照れてる臼庭が可愛いから、臼庭を見てたい」
「な……っ、照れてなんかない!」
「嘘。顔赤いよ? 俺のこと、少しは意識してくれたの?」
「全っ然してない! 勘違いすんな、馬鹿」

 言えば言うほど臼庭の顔はどんどん赤くなっていって、少し面白かった。
 臼庭が少しでも意識してくれているなら、望みはあるんじゃないかと思ってしまう。

 臼庭に肩を掴まれて無理やり見せられた花火は、今までに見たものより美しくて、そして花火に照らされる臼庭が、何より綺麗だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸
BL
 逃げ出してしまった乎雪(こゆき)にはもう後が無かった。これで人生三回目の家出であり、ここにきて人生の分岐点とも思われる、苦境に立たされていた。    手持ちのお金はまったく無く、しかし、ひとところに留まっていると、いつの間にか追いかけてきた彼に出くわしてしまう。そのたびに、罵詈雑言を浴びせられるのが、心底いやで気力で足を動かす。  けれども、ついに限界がきてそばにあった電柱に寄りかかり、そのまま崩れ落ちて蹲った。乎雪は、すぐそこがゴミ捨て場であることにも気が付かずに膝を抱いて眠りについた。  目を覚まして、また歩き出そうと考えた時、一人の男性が乎雪を見て足を止める。  そんな彼が提案したのは、ペットにならないかという事。どう考えてもおかしな誘いだが、乎雪は、空腹に耐えかねて、ついていく決心をする。そして求められた行為とペットの生活。逃げようと考えるのにその時には既に手遅れで━━━?  受け 間中 乎雪(まなか こゆき)24歳 強気受け、一度信用した人間は、骨の髄まで、信頼するタイプ。  攻め 東 清司(あずま せいじ)27歳 溺愛攻め、一見優し気に見えるが、実は腹黒いタイプ。

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~

伊織
BL
高校1年生の蓮(れん)は、成績優秀で運動神経も抜群なアルファ。 誰よりも大切に想っているのは、幼い頃からずっとそばにいた幼なじみのオメガ・陽(ひなた)だった。 初めての発情期(ヒート)──それは、蓮と陽の関係を静かに、でも確実に変えていく。 「陽が、知らない誰かに抱かれるのは嫌だ」 その言葉をきっかけに、陽は蓮だけに身体を預けるようになる。 まだ番にはなれない年齢のふたり。 触れ合えば触れ合うほど、高まる独占欲と焦燥、そして不安。 ただ一緒にいられる今を、大切に過ごしていた。 けれど、優しくあるはずのこの世界は、オメガである陽に静かな圧力を与えていく。 気づけば、陽が少しずつ遠ざかっていく。 守りたくても守りきれない。 アルファであるはずの自分の無力さに、蓮は打ちのめされていく。 番じゃない。 それでも本気で求め合った、たったひとつの恋。 これは、ひとりのアルファが、 大切なオメガを想い続ける、切なくて愛しい学園オメガバース・ラブストーリー。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

処理中です...