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第十八話「花火大会とクリーム」
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◇◇◇
花火大会当日。俺と臼庭は二駅ほど電車に乗り、目的地へと到着する。
屋台も出ていて人混みが多く、臼庭は背が低いから埋もれてしまいそうで、俺は臼庭の肩を掴んで引き寄せた。
「臼庭、もっとこっち寄って。はぐれちゃうよ」
「別に、はぐれない」
「はぐれるって。俺の腕に捕まってて。行きたい屋台があったら言ってくれる?」
「……うん」
さすがに人が多すぎると感じたのか、臼庭は素直に俺の腕を片手で掴んでいた。
腕から臼庭の体温が伝わってくる。
俺の腕を掴んでいる臼庭の手は、俺よりも小さくて細い。
指先が硬くなっているのは、ヴァイオリンの弦に毎日触れているからだろう。
俺の下に臼庭の頭がある。
小さくて可愛くて、そのまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られてしまう。
場所取りをして焼きそばとアイスキャンディー、後は臼庭が行きたがっていたコンビニで新作のパンケーキを買い、俺たちはその場に腰かけた。
「お前は帰省しなくて良かったの?」
「臼庭が帰省しないから、少しでも多く過ごしたくて」
溶けないうちにと二人でそれぞれのアイスキャンディーを頬張る。
臼庭に触れて熱くなった身体を冷ましてくれる、良い食べ物だ。
「少しは親孝行くらいしろよ」
「大丈夫。毎日授業のこととかLIMEしてるし、写真も送ってるから」
「……仲良いんだな」
「そりゃ、大事に育ててくれた両親だし。……たくさん、お世話になったから」
いじめられていた中学のころとか。
あのときは本当に世話になった。
両親共に気力のない俺に何度も話しかけて、母さんは俺が少ししか食べなくても毎日たっぷりご飯を作ってくれたし、父さんは無理やりピアノ教室を休んで家族旅行にも行ってくれた。
両親の支えは、今も心に響いている。
「……お前は親が自分のことを愛してない家庭に生まれてたらどうする?」
「え……?」
突然の問いに、俺は戸惑ってしまった。
突拍子もない質問だったけれど臼庭からの質問だし、臼庭も真剣そうな声音で言っているからちゃんとした答えを言いたい。
しばらく悩んで、それから口を開く。
「……悲しいな。毎日泣いてるかも。家に自分の居場所がなかったら、高校生になったらバイトのシフトたくさん入れて少しでも家にいないようにしたり、こうして寮生活してるかもしれない」
「……そうだな」
臼庭は一言頷いただけで、それ以上その話で膨らむことはなかった。
アイスキャンディーも焼きそばも食べ終わって、臼庭はガサゴソとコンビニのビニール袋を漁り、パンケーキを取り出す。
「これ、チョコミントなんだけど食べれる?」
「食べられるよ。チョコミントって苦手な人多いよね」
「まあ、ミント感強すぎると本当に歯磨き粉の味に似てるしな」
袋を開けてお互いのパンケーキを一口食べる。
チョコミント味のホイップクリームは思ったより甘くて、焼きそばの後にちょうど良かった。
ちらりと臼庭を見ると、焼きそばやアイスキャンディーのときよりも目を輝かせてぱくぱくと口に運んでいる。
美味しそうに頬張る姿が愛らしくて、ずっと見つめてしまった。
「……そんな見られると、食べづらい」
「ご、ごめん。……あ」
「え……っ、ちょ、なに」
臼庭の口元にホイップクリームがついているのに気づいて、俺は臼庭に近づく。
本当にホイップクリームだよな、と至近距離で臼庭を見ていたら、肩を押された。
ふいっと顔を逸らされてしまって、夜だから暗いしどんな表情をしているかわからなくなってしまう。
「近いってば。なに、どうしたの?」
「臼庭、クリームが口の横についてるよ」
「えっ」
臼庭は口元を拭い、上目でこちらを見てきた。
「とれた?」
「もう少し上。……ここ」
「……っ!」
俺が近づいて口元についているクリームを指先で拭ってあげる。
そのままぺろっと舐めると、臼庭は「そんなことすんな!」と何故か怒ってきた。
「どうしたの?」
「だ、だから、別にクリームくらい自分で取るから、」
そのとき、花火がドーン! と上がった。
一瞬だけ辺りが明るくなって、臼庭の顔が間近で露わになる。
臼庭は――顔を赤くして、困ったようにこちらを見つめていた。
耳まで赤くなっている。
もしかして、クリームを俺が拭ったのが恥ずかしかった……?
「……花火上がってるから、そっち見ろよ」
「ううん。照れてる臼庭が可愛いから、臼庭を見てたい」
「な……っ、照れてなんかない!」
「嘘。顔赤いよ? 俺のこと、少しは意識してくれたの?」
「全っ然してない! 勘違いすんな、馬鹿」
言えば言うほど臼庭の顔はどんどん赤くなっていって、少し面白かった。
臼庭が少しでも意識してくれているなら、望みはあるんじゃないかと思ってしまう。
臼庭に肩を掴まれて無理やり見せられた花火は、今までに見たものより美しくて、そして花火に照らされる臼庭が、何より綺麗だった。
花火大会当日。俺と臼庭は二駅ほど電車に乗り、目的地へと到着する。
屋台も出ていて人混みが多く、臼庭は背が低いから埋もれてしまいそうで、俺は臼庭の肩を掴んで引き寄せた。
「臼庭、もっとこっち寄って。はぐれちゃうよ」
「別に、はぐれない」
「はぐれるって。俺の腕に捕まってて。行きたい屋台があったら言ってくれる?」
「……うん」
さすがに人が多すぎると感じたのか、臼庭は素直に俺の腕を片手で掴んでいた。
腕から臼庭の体温が伝わってくる。
俺の腕を掴んでいる臼庭の手は、俺よりも小さくて細い。
指先が硬くなっているのは、ヴァイオリンの弦に毎日触れているからだろう。
俺の下に臼庭の頭がある。
小さくて可愛くて、そのまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られてしまう。
場所取りをして焼きそばとアイスキャンディー、後は臼庭が行きたがっていたコンビニで新作のパンケーキを買い、俺たちはその場に腰かけた。
「お前は帰省しなくて良かったの?」
「臼庭が帰省しないから、少しでも多く過ごしたくて」
溶けないうちにと二人でそれぞれのアイスキャンディーを頬張る。
臼庭に触れて熱くなった身体を冷ましてくれる、良い食べ物だ。
「少しは親孝行くらいしろよ」
「大丈夫。毎日授業のこととかLIMEしてるし、写真も送ってるから」
「……仲良いんだな」
「そりゃ、大事に育ててくれた両親だし。……たくさん、お世話になったから」
いじめられていた中学のころとか。
あのときは本当に世話になった。
両親共に気力のない俺に何度も話しかけて、母さんは俺が少ししか食べなくても毎日たっぷりご飯を作ってくれたし、父さんは無理やりピアノ教室を休んで家族旅行にも行ってくれた。
両親の支えは、今も心に響いている。
「……お前は親が自分のことを愛してない家庭に生まれてたらどうする?」
「え……?」
突然の問いに、俺は戸惑ってしまった。
突拍子もない質問だったけれど臼庭からの質問だし、臼庭も真剣そうな声音で言っているからちゃんとした答えを言いたい。
しばらく悩んで、それから口を開く。
「……悲しいな。毎日泣いてるかも。家に自分の居場所がなかったら、高校生になったらバイトのシフトたくさん入れて少しでも家にいないようにしたり、こうして寮生活してるかもしれない」
「……そうだな」
臼庭は一言頷いただけで、それ以上その話で膨らむことはなかった。
アイスキャンディーも焼きそばも食べ終わって、臼庭はガサゴソとコンビニのビニール袋を漁り、パンケーキを取り出す。
「これ、チョコミントなんだけど食べれる?」
「食べられるよ。チョコミントって苦手な人多いよね」
「まあ、ミント感強すぎると本当に歯磨き粉の味に似てるしな」
袋を開けてお互いのパンケーキを一口食べる。
チョコミント味のホイップクリームは思ったより甘くて、焼きそばの後にちょうど良かった。
ちらりと臼庭を見ると、焼きそばやアイスキャンディーのときよりも目を輝かせてぱくぱくと口に運んでいる。
美味しそうに頬張る姿が愛らしくて、ずっと見つめてしまった。
「……そんな見られると、食べづらい」
「ご、ごめん。……あ」
「え……っ、ちょ、なに」
臼庭の口元にホイップクリームがついているのに気づいて、俺は臼庭に近づく。
本当にホイップクリームだよな、と至近距離で臼庭を見ていたら、肩を押された。
ふいっと顔を逸らされてしまって、夜だから暗いしどんな表情をしているかわからなくなってしまう。
「近いってば。なに、どうしたの?」
「臼庭、クリームが口の横についてるよ」
「えっ」
臼庭は口元を拭い、上目でこちらを見てきた。
「とれた?」
「もう少し上。……ここ」
「……っ!」
俺が近づいて口元についているクリームを指先で拭ってあげる。
そのままぺろっと舐めると、臼庭は「そんなことすんな!」と何故か怒ってきた。
「どうしたの?」
「だ、だから、別にクリームくらい自分で取るから、」
そのとき、花火がドーン! と上がった。
一瞬だけ辺りが明るくなって、臼庭の顔が間近で露わになる。
臼庭は――顔を赤くして、困ったようにこちらを見つめていた。
耳まで赤くなっている。
もしかして、クリームを俺が拭ったのが恥ずかしかった……?
「……花火上がってるから、そっち見ろよ」
「ううん。照れてる臼庭が可愛いから、臼庭を見てたい」
「な……っ、照れてなんかない!」
「嘘。顔赤いよ? 俺のこと、少しは意識してくれたの?」
「全っ然してない! 勘違いすんな、馬鹿」
言えば言うほど臼庭の顔はどんどん赤くなっていって、少し面白かった。
臼庭が少しでも意識してくれているなら、望みはあるんじゃないかと思ってしまう。
臼庭に肩を掴まれて無理やり見せられた花火は、今までに見たものより美しくて、そして花火に照らされる臼庭が、何より綺麗だった。
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