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第五十四話「留学へ」
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時は過ぎ、留学する当日。
春休みの終わりごろ。
パスポートは元々持っていたし、更新済みだ。
理事長や三城先生、寮監、そして父さんにも挨拶をし、荷物もしっかりまとめて、今空港にいる。
父さんは仕事で見送りにこれないと言われた。
謝られたけど、気にしていない。
向こうに行ってもSNSで連絡を取ればいいし。
もうすぐチェックインの時間になる。
俺は隣にいる『運命の番』――蒼馬のほうを向いた。
「じゃあ、行ってくる」
「う……」
「蒼馬?」
「う~~~~、みなとぉぉ………」
返事が「う」だったから何かと思えば、蒼馬は空港の人だかりが多い場所で号泣していた。
大粒の涙をぼろぼろと床に落とし、わんわん泣き喚いている。
周囲の人々がこちらを一瞬だけ見て『ああ、恋人と離れ離れになるだけか』という冷めた視線を送られた。
子どもじゃないんだから……と俺は泣き止まない蒼馬を抱きしめた。
俺たちの抱擁に周囲の人たちは呆れて通り過ぎていく。
「一年、会わないだけだから」
「うう、俺もオーストリア行く~~~!」
「駄々をこねるな……」
俺の肩口にぐりぐり頭を押しつけてくる。
蒼馬ってやるときはやるのに、こういうときは本当犬だよな……。
頭を押しつけすぎて眼鏡が落ちそうになったとき、チェックインのアナウンスが鳴った。
「じゃあ、もう行かないとやばいから」
「……うん。俺、待ってるから。湊が帰ってくるのをずっと待ってるから」
「うん。ありがと」
蒼馬が鼻を啜って、お別れの手を振る。
俺も荷物を持って蒼馬に手を振り、彼から離れていく。
蒼馬だけ寂しいって思ってるわけじゃない、俺だってすごくすごく寂しい。
……でも、夢のため、将来のためだ。
留学中に蒼馬が死んだりしない限り、この選択をして後悔する日はやってこないだろう。
遠くで「待ってるからね~~~!」と蒼馬の大声が聞こえてきて、恥ずかしくなって振り向かずに歩を進めたのだった。
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