婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第7話 「チョコと食料とチョコを買います」

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◇◇◇

 澄んだ空気が肺に流れこむ。私は深呼吸して綺麗な空気をいっぱい吸い込んだ。

幸いルッカ村の中でもフェルタ街に近い位置の家をお父様が買ってくれたので、徒歩でも街に行くまでに時間はかからなかった。
 そして、フェルタ街に行くまでに思ったのは……


 モフモフ獣人と、すれ違う!


 兎の耳が生えた可愛い見た目の男性とか、虎の耳が生えたムキムキの男性とか、ちょっと垂れ気味の犬耳が生えた女の子とか……。

 フェルタ街で買い物して帰る途中だったり、草原に寝っ転がってお昼寝したりしてて、王都で見かける獣人よりよほどリラックスしている。

 時々ぴくっと動く獣耳やゆらゆら揺れる尻尾が、私は可愛くて仕方なかった。

 ……すみません、触ってもいいですか。モフモフさせてください。

 って言いたいところだけど、急に言われたら獣人の方だって困るし、見世物みたいで向こうは嫌な気分になるよね。

 徒歩十数分でたどり着いたフェルタ街でも獣人がいっぱい。
 ああ! 今すぐモフモフしたい!

「……はっ」

 市場に入って我に返る。
 ……私はモフモフを眺めに来たのではない。食料を買いにきたのだ。
 まずはチョコレートを買おうかな。

 市場を歩いているとクッキーやマドレーヌなどが並べられたお菓子売りを見つけた。奥でおばさんが椅子に座ってお菓子に値段を貼っている。この人がこの店の商人なのだろう。

 店のなかはお菓子で敷き詰められている。甘い香りが私の鼻腔を刺激した。

「いらっしゃい」

 おばさんが私に気づいて笑顔で挨拶してくれた。
 ここなら、チョコレートはあるかな……?

 狭い店なのだが、お菓子がありすぎてなかなか見つからない。飴だけで大量に積まれてるし……。かといってがさがさ探したらおばさんも嫌だよね……。
 天井の方まで積まれたお菓子を見て、探して、見て、探して。

 ……上を向いて下を向いてって繰り返したら、だんだんくらくらしてきた。

 どこを見ても、チョコレートがない! いや、私が見逃してるだけかもしれないけど!

 諦めて別の店を探そうかと思ったとき、おばさんに声をかけられた。

「何かお探しかね?」
「あ……」

 おばさんがにこにこと細い瞳で私を見つめている。

「その、チョコレートを探していて……」
「チョコレート? ああ、それならここにあるよ」

 おばさんは椅子から立ち上がり、飴が大量に入った箱をどかした。飴の箱の下にはもう一つ箱があり、チョコレートが姿を現した。

 こんなの、見つけられないんですけど!

「いつも売れ残るからお菓子の箱の下に置いちゃうんだよねぇ。何枚だい? 一枚?」
「えっと……じゃあ、全部お願いします」
「全部!?」

 今まで落ち着いて話していたおばさんが急に大声を出した。
 箱の中に置いてあるチョコレートは三十枚以上ある。こんなに一気に買う人はいないのだろう。

「全部って……そんなにチョコレートが好きなのかい?」
「……そうですね。私はチョコレートが好きです」
「物好きだねぇ。そんなに何に飾るんだい」
「いえ、私はチョコレートのお菓子を作ろうと思っていて……」
「チョコレートのお菓子ぃ?」

 おばさんは片眉を釣り上げ、怪し気に私を見つめた。私も真剣におばさんを見つめる。

「……」
「……」
「そうかい。じゃ、銅貨三十六枚だよ」

 私の視線に折れたおばさんが手を私に差し出す。私は革袋から銅貨をつかみ取って、渡した。

 これで数日はチョコレートに困らないわ!




 しばらく市場を回り、肉と野菜も買ってある程度食料は揃えられた。
 市場を回っている間、モフモフ獣人とすれ違うことすれ違うこと。

 獣人が商人を務めている店もあって、思わず買いに行ってしまった。その獣人は熊の耳が生えていて、私が商品を買うとぴこぴこ動いてくれた。なんて可愛いの……。

「はぁ……モフモフしたい……今すぐに……」

 そんな独り言をつぶやいていたら、家に着いてしまった。
 最後にモフモフしたのはいつだろう。
 前世で飼っていたリリーが脳裏に浮かび、会いたい衝動に駆られる。
 今どうしてるのだろう。リリーは強いから、きっと生きてるよね。大丈夫だよね。

「……」

 今考えても仕方のないことだ。ぶんぶんと頭を振って別のことを考える。

「とりあえず、チョコレートのお菓子を作ろう」

 私はリリーのことを考えないように、買ってきたチョコレートを袋の中から取り出した。

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