婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第6話 新しい家です

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 翌日、ルッカ村に行く前に部屋でリーナに髪を切ってもらった。
 素性をわからなくするためだ。

 ルッカ村に着いて王太子に婚約破棄されたシェイラだとわかったら、私の立場はなくなるだろう。
 肩に髪の先がちょっとつくくらいのボブ。この短さで公爵令嬢だと思う人はいないよね。
 
 その後、身支度を整え、十時に家を出て、馬車に揺られて三時間。ルッカ村に到着した。

 家を出る前にお父様がこれは持ったか? とかあれは持ったか? っていちいち聞いてきて、ちょっと面倒くさかった。お父様って意外と心配性なのかな……?

「シェイラ様の家は、こちらになります」

 私をルッカ村まで連れて行ってくれた御者のリネスが掌で目の前の家を指す。
 私がこれから住む家——反省したら王都に戻されるかもしれないけど——は、二階建てで大きく、若葉のような綺麗なグリーン色の屋根が特徴的だった。
 昨日言っていた通り、お父様が買ってくれた家だ。

 門を抜けて小さな階段を上りドアを開ける。部屋は十人くらいは入れそうなリビングルームで、壁一面が窓になっていた。

 窓の外は色とりどりの花が咲いている広い庭があり、私とリネスが抜けた門が見える。
 一階はリビングルームとキッチンで、二階はシャワールームとトイレ、そして二つの部屋があるとリネスが言っていた。一つは自分の部屋にしてもう一つは物置に使えばいいですよと言われたので、ありがたく使わせてもらおうと思う。

 ……にしても、一人でこの広さの家に住むの? お父様、広すぎですよ。

 しかも、驚くことに家具がもう揃えられていた。
 リビングにも二人分の白いテーブルと椅子が置かれ、キッチンには冷蔵庫もあるし、包丁やまな板、一人分の食器まで揃えられている。

 な、なんでこんなに用意周到なの!?
 私の表情で心の中を読み取ったのか、リネスが笑って答えた。

「レーク様が昨日部下に用意してくださったものです。それからリーナ様も二階の右の部屋に移転魔法でシェイラ様の自室の家具を移動させてくださいました。なので、家具の心配はご無用です」

 人を家から追い出しといて、家具を用意してくれるお父様とメイドってどうなの……。

 ありがたいことはありがたいんだけど! 令嬢として生き、平民の生活なんてわからない私がいきなり一人暮らしなんてできないとでも思っているのだろう。

 でもお父様、リーナ。私、前世の一人暮らししていた記憶が頭に残っているから大丈夫ですよ。


「シェイラ様、フェルタ街までの行き方はわかりますか?」
「ええ。行きで馬車から見ていましたから、わかりますよ」

 リネスはふふっと笑った。

「一度通っただけで道を覚えてしまうなんて、さすがですね。……では、私はこれで失礼致します。また何かありましたら、手紙をお送り致します。……それと、最後に」
「……?」
「その髪、似合ってますよ」

 リネスが自分の髪をちょんちょんと触って、微笑みながら似合っていることを示す。

 リネスは私がお父様に怒られて家を追い出されたからといって冷たい態度をとるわけでもなく、いつも通り接してくれた。リネスの優しさに、感謝。
 リネスが一礼して部屋を出、馬に乗って姿が見えなくなるまで見送ったあと、私はうんと背伸びをした。

「さて、これからどうしようかな……」

 お金は家から自分の分を持って行ってもいいとお父様から許可をいただいていたので、持ってきたカバンの中に入っている。
 前世の記憶を思い出して気づいたのだが、この国には日本みたいな財布がない。みんな革袋に詰めているのだ。なんか、ちょっと不便に感じる。

 これからどうするか。私は辺りを見回して軽いため息を吐いた。

「とりあえず、食料だよね!」

 生活用品はカバンの中に入っているから、食料を買いにいこう。

「……チョコレート、たくさん買いたいなぁ」

 私が今一番買いたいのはチョコレートだ。
 昨日のドルチェが記憶によみがえる。
 スフレチーズケーキの端に置かれた、飾りつけの板チョコ。
 食べても食べなくてもいいと言われ、食べなかったら廃棄されてしまうチョコ。
 そんなのチョコレートがかわいそう!

「今すぐチョコレートのお菓子を作りたい!」

 作って村の住人でも獣人でもいいから誰かに食べさせて、チョコレートのお菓子ってこんなに美味しいんだって言わせたい!
 どんどんチョコレートのお菓子を広めさせたい! ルッカ村だけでもいいから!
 私はお金とカバンの中に入っていた小さな外出用のカバンを持って、外に出た。




 ◇◇◇

「シェイラは無事に家に着いたのか?」
 リッドフォード家の邸宅で、レークはうろうろと自室のテーブルの周りを歩いていた。
 それをメイドのリーナが冷めた目で見つめている。

「リネス様が先程帰宅なされて、「シェイラ様は無事にルッカ村に到着いたしました」と言っていたじゃないですか。心配なさらずとも大丈夫です」

「しかし、これから先やっていけるのかわからないじゃないか。家具は用意したからいいが、食料は大丈夫なのか? 食料も用意しようかお前に相談したらひどいことを言ってきたじゃないか」

「もう一度言ってさしあげましょうか? 「父親がそこまで過保護なのは正直気持ち悪いです」。家具を用意するだけでも相当過保護ですよ。レーク様のご命令がなければ私はシェイラ様の家具を移転させておりません。それに、そんなに甲斐甲斐しく世話をしては家を追い出した意味がほとんどなくなるじゃないですか」

「反省してくれればいいんだ。婚約破棄をさせてしまったことを反省してくれたらすぐにこちらへ引き戻す! ……少し怒りすぎたことも謝りたいしな」

「なぜそれをシェイラ様ご自身に伝えないのですか」

「それは……なんか……娘と話すのが恥ずかしいんだ……」

「……はぁ」

 突然ごにょごにょし始めるレークを見て、リーナはやれやれといった様子で大きなため息を吐いた。
シェイラは父が無口で無愛想だと思っていたが、実のところレークはよく喋り、心配性を通り越して親バカなのだが、娘の前だと恥ずかしがって何も言えなくなってしまう相当面倒くさい男なのだった……。

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