婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第16話 精霊さんの登場です

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「ユリク、庭のテーブル拭いてくれた?」
「ああ、拭いたよ」
「ありがとう」

 しばらくしたらユリクの機嫌は直ったのか、いつも通り目を合わせて話してくれるようになった。……良かった、食器片づけてたときは話すときに目を逸らされてたから、機嫌が悪かったのはあのときだけだったみたい。

「あとは床を拭いて……と、あともう少しでバターが切れるんだった! 明日の朝買い出しいかなきゃ……」

 はぁ、と思わずため息を吐いてしまった。……休む暇がない。せめて掃除してくれるお手伝いさんが欲しい。食器を洗ったりトイレを綺麗にする洗浄魔法はあるけど、それは食洗機やトイレに付与されているだけで、床やテーブルには付与されていない。

 洗浄魔法は特殊なもので、身につけるには洗浄魔法を教えてくれるセミナーみたいなものに通わなくてはならない。
 トイレとか食洗機とか、そういうものを将来作りたい人が大体受講している。

 シュメード学院でも洗浄魔法を身につけられる授業があったのだが、必須科目ではなかったので私は取らなかった。今になって授業受けておけば良かった~! と後悔する。

 私がモップを手にした、そのとき。

 ピンク色の何かが、視界に映った。

「僕たちが手伝おうか?」

 ピンク色に光ったふわふわの小さな生き物が、羽をぱたぱた揺らして目の前で飛んでいる。

「え……?」

 もしかして、これって……。

「精霊!?」

 私が叫ぶと、庭からユリクがやってきた。

「ああ、精霊だ。このへんだとよく見かけるね」

 王都に精霊はほとんど見ないのだが、王都から離れた地方に行くと見かける頻度は高くなる。
 地方の方が王都より空気が澄んでいるから、精霊が住みつきやすいのだ。

 今までずっと王都にいたから、精霊を本の中でしか見たことがなかった。
 すごい……! 周りがピンク色に光ってる! 可愛い!

「僕も手伝うー」
「わたしもー」

 ぽん、ぽん! っと次々と精霊が増えていく。
 増えた精霊たちはふわふわ飛んでいき、床を滑り始めた。

「床、きれいにするー」
「ふきふき」

 精霊たちは床をスケートみたいに滑り、綺麗にしていく。精霊たちが滑ったところは全部ピカピカになっていて、五分もすればリビングルームの床全部が塵一つもなくなっていた。

 精霊には大精霊と普通の精霊がいるが、恐らくこの子たちは普通の精霊だ。
 普通の精霊は大精霊と比べて力がない。
 そのためか、床を拭き終わった精霊たちは「つかれたー」と言って床にちょこんと座っていた。

「だ、大丈夫?」

 私は思わず精霊たちに駆け寄る。

「床ぴかぴかなの!」
「がんばったよ!」
「つかれた、きゅうけい~」
「これからも、ぼくたち、てつだう」
「手伝ってくれるの?」
「がんばってるひとには、力をかしたい」
「おうえんしたい」
「もっとがんばってほしいから」

 精霊たちが次々に言う。
 ユリクはふふっと笑って私の方を向いた。

「精霊たちが俺たちの店を手伝ってくれるみたいだね。精霊は心が綺麗な人にしか見えないって噂もあるよ」
「そうなの?」

 ユリクはうん、と頷いた。

「良かったね、カナメ」

 ユリクが微笑んだから、私もつい微笑んでしまった。

 精霊たちは床に座って休憩している。羽も休ませていた。
 せっかく力を使って手伝ってくれるんだし、私も何か恩返しをしたい。

 私はキッチンに行って、今日お客さんに提供したチョコレートマドレーヌの残りを持ってきた。

「これ、食べる?」

 チョコのマドレーヌを精霊たちに見せる。
 途端、精霊たちはぱあ…! っと顔を明るくして、瞳を輝かせた。
 私の方に精霊たちが集まってくる。歩き方にとてとてって効果音がつきそうなくらいの小走りで、可愛い……!

「たべたい!」
「おいしそう!」
「……ふふ、じゃあ今からあげるね」

 精霊たちが私の前に一列に並ぶ。私はマドレーヌを小さくちぎって、一つ一つ精霊たちに配った。

「……! おいしい!」
「おいしい!」
「ありがとう!」

 一欠片をちまちま頬張っている。一口食べるたびに幸せそうな顔をしていた。
 そのちまちま食べる可愛さが、ついリリーと重なってしまう。

「リリーもちまちまごはん食べてたなぁ」

 リリーもちょっとずつ猫のごはんを食べたり、水もちろちろ舌を使って飲んだりしていた。休日の夕方にあげるおやつもちまちま食べていた。
 ……たまにがっつくときもあったんだけど。

「リリー?」

 私の呟きを聞いていたらしく、ユリクが首を傾げる。
 私はあわてて胸の前で両手を振った。

「ううん、なんでもない! 独り言!」
「……そっか」

 ユリクの猫耳がしゅんと垂れる。視線も下がってしまった。

 これは、落ち込んでる証拠だよね……尻尾も下がってるし。

 気になる一言を聞いて、それに対して「なんでもない」って答えられたら、ユリクには関係ないって言ってるみたいで気分悪いよね。

 私はそっとユリクの猫耳を撫でた。

「ほんとにただの独り言だから気にしないで! だからそんなに落ち込まないで!」

 猫耳をひたすらに撫でる。
 背伸びをしないと私が撫でられないことに気づいたのか、ユリクはそっと屈んでくれた。
 一本一本の魅力的な毛が私の手に絡みつく。ふわふわでさらさらで、モフモフで……。

「あ~~気持ちいい~~!!」
「……ふふ」

 私は時間を忘れてユリクの猫耳をモフモフしていた。
 しゅんと下がっていた尻尾は、いつの間にかぴんと立って、ぶんぶん左右に振られていた。
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