婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第15話 ユリクとまったり

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 あの男性客が来てから数週間が経った。

 チョコスイーツを食べてくれるお客さんは徐々に増えてきて、お茶の時間である午後三時頃は席が埋まってしまうこともある。

 最初に来てくれた彼も常連になっていて、いつもチョコレートシフォンケーキを頼んでくれる。
 よっぽど気にいってくれてるみたい。

 噂も「お茶が美味しいカナメ喫茶」ではなく、「美味しいチョコレートのお菓子があるカナメ喫茶」に変わってきた。

 そして、さらにもう一つ噂が流れるようになった。

「『カナメ喫茶』は元気が出る店、って聞いてたんだが、本当に元気が出るなぁ!」
「風邪も治った気がするよ!」
「あはは……ありがとうございます」

 あのときの男性客が広めたのか、「カナメ喫茶は元気の出る喫茶」という噂も徐々に流れている。
 風邪が治ったとか、落ち込んでたのが元気になったとか。

 ただチョコスイーツ作ってるだけなんですけど。
 やっぱり治癒魔法が私に身についてしまったのかな……? みんなは気づいてないみたいだけど……。

 もし治癒魔法が使えるようになっていて、王都にその話が渡ってしまったら。

 私はこのカフェをやめて治癒魔術師になるしかない。
 でも相変わらず氷魔法も使えるし、この力はなんだろう?

 治癒魔法が使えて他の属性魔法も使えるなんて噂になったら、王都の偉い人に呼ばれて前代未聞の人間としていろんな実験をされるかもしれない。
 とにかくこの話が王都の方に伝わりませんように。


「お嬢ちゃん! ハーブティとチョコクッキーを一つ!」
「あ、はーい」
「ガトーショコラもう一つくれるかしら?」
「はーい、今持ってきまーす」

 ぐるぐる考えていたらオーダーが来た。急いでメモを取る。

 三時頃は接客に調理に大忙しで、ユリクも接客と会計でお互い座る暇もない。

 ユリクは時々私の近くに立って、小声で「疲れてない?」って聞いてくれる。

 いつも私は「大丈夫」って返すんだけど、少し疲れたなぁってときに気を遣って聞いてくれるから、その優しさが嬉しくて言われるだけでも疲れがとれる。

 まぁユリクのモフモフを触れたら私の疲れは全て吹っ飛ぶんですけど!

 忙しい毎日ではあるけど、でもすごく楽しく感じた。


◇◇◇

「はぁ、疲れた~」

 午後六時。この時間で閉店だ。

 うちが基本朝から店を開いているから、というのもあるけど、ルッカ村とフェルタ街の店は王都と違って閉まる時間が早い。これでも普通くらいだ。

「カフェが閉まったら買い出しとか掃除とかしなくちゃいけないし、面倒くさいな……」

 カフェが閉まっている間はいくつもあるテーブルと椅子、床、キッチンを拭き、庭の手入れ、材料の買い出しもしなければならず、正直疲れる。

 ユリクと一緒に全てやっているが、それでも大変だ。

 掃除や買い出しなどを終えたら、自分のこともしなければならない。お風呂を沸かしたり、ヘアケア、スキンケア、メイク……。

 一応休みの日は平日に取り入れている。その一日が一週間で唯一の安らぎと癒しの時間だった。

「うっ……高い……取れない……」

 メル粉がなくなってきたから、こないだ買ってきたメル粉を吊り戸棚から取り出しておこうかと思ったのだが、一番上にあって全然取れない。

 しかも手前ではなくちょっと奥に置いてある。
 必死に手を伸ばしても届かない。

「もう~なんで買ってきたときここに置いちゃったんだろう……」

 きっと他の戸棚は全部埋まってたから、吊り戸棚の一番上を選んでしまったのだろう。

 そのとき背伸びをしてぽいっと奥に投げ込んでしまったんだろうなぁ。

 限界まで背伸びをしてもメル粉には届かない。
 棚には届くのに……。
 奥の方に適当に投げ込んだ過去の私と、自分の身長を恨んだ。

 ぴょんぴょんジャンプしてなんとか取ろうとすると、不意にひょいっと横から誰かの手が伸びて来て、メル粉をなんの苦労もなく取り、私の目の前に差し出した。

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう、ユリク」

 手の正体はユリクだった。微笑みながら私にメル粉を差し出している。

 私はメル粉を受け取ると、改めてユリクを見上げた。
 ……背、高いんだなぁ。これならメル粉を取るのも簡単だ。

「背高いと便利だなぁ」
「そんなことないよ。天井が低いと屈まないといけないし。……今度から吊り戸棚にあるものは俺が取るから。そんな兎みたいにぴょんぴょん飛ばなくてもとってあげるよ」
「……ありがとうございます」

 ぴょんぴょん飛んでるところ、見られてたんですか……。気恥ずかしくて私はユリクから視線を逸らした。

 しばらく沈黙が続いたあと、ユリクは「そういえば」と首を傾げて言った。

「カナメの親はどうしてるの?」
「え」
「最初こんなに大きい家に住んでるなら、両親も住んでるのかなって思ったんだよね。でも違うみたいだし……一人暮らしにしては、広すぎないかな? 元々誰かと住む予定でもあったの?」
「えっと……」

 確かにこんな広い一軒家に住んでたら両親も住んでると思うはずだ。
 疑問に思っているユリクに、ちょっと申し訳ないけど少しの嘘を交えて答えた。

「お父さんは別のところに住んでいて……元々一緒に住んでたんだけど、私が一人暮らししたくなったの。それでお父さんが家を手配してくれたんだけど、間違えてすごい広いところ買っちゃったみたい」
「……お母さんは?」
「あ、お母さんは亡くなってて……身体が弱くて」

 お母様は身体が弱かったけど、大事に育ててくれたなぁ、と、当時のことを思い出す。

 あの頃は私は前世の記憶を思い出していなかった。
 メイドや家庭教師から勉学と礼儀作法を教えられ、完璧に身に着けるまで怒られまくっていた。

 でも、そういうことに怒らずに私の全てを受け止めてくれたのがお母様だ。

 お母様は身体が弱いのに、私と庭で遊んだりお母様の部屋でままごともしてくれた。

 「シェイラはすごいわね」ってなんでも褒めてくれたし、いつも笑顔でお話してくれた。夜も寝るまで面白い話をしてくれた。

 自分の体調が悪くても私を優先してくれて、一緒にたくさん遊んでたなぁ。

 病で起き上がれなくなっても私に面白い話をして、私は笑っていた。
 最期のときまで私を愛してくれていた。

 私の大好きなお母様だったなぁ。

 ……前世の記憶を持っていたことが、若干気にかかるけど。

「……ごめん、辛いこと思い出しちゃった?」
「ん? ううん、お母さんは私を大事に育ててくれてたなって思い出してただけ」

 私はユリクに向かってにっこり笑う。ユリクは安堵して、ふんわり笑んだ。

「……そっか。良いお母さんだったんだね」
「……うん」

 ユリクが優しい口調で言ってくれる。
 ユリクのあたたかい表情を見て、自然と私は言葉が出てきた。

「……いつも一緒にカフェ手伝ってくれて、ありがとね」

 ユリクはさっきと全然違う話が私の口から出てきて、目をぱちくりさせていた。

「どうしたの、急に」
「……なんか、伝えたくなっちゃって」

 ユリクはカフェを開いて約一か月ものあいだ、一緒に働いてくれている。

 接客、会計、店が閉まった後の掃除や買い出しも手伝ってくれるし、時々お風呂の掃除や普段の料理とかもしてくれる。

 ユリクがいなかったら、カフェはこの日まで経営できていなかったかもしれない。
そう思うと、感謝の気持ちがこみあげてくる。

 ユリクのあたたかい表情を見ていたら、突然言いたくなってしまった。

「ありがとう、ユリク」
「……」

 笑顔で伝えると、ユリクはふいっと顔を逸らしてしまった。

 ……? ちょっと言葉がくさかったかな。
 私は食器棚に食器を戻しながら、少し申し訳なく思った。
 あんまり目を合わせてくれず、気まずくなってきたので早めに食器を片づけていく。

 ユリクの耳がほんのり赤くなっていることに、私は気づかないのだった。

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