婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第14話 喜んでもらえて良かったです

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 男性は右腕を上下に振ったり、掌を開いたり閉じたりして動くことを確認した。

 右手はなんなく動き、むしろ麻痺していたのが信じられないくらいだった。
 男性は「なんだ、これは……」と小さく呟き、右手を見つめる。

 驚いていたのは私たちもだった。

 男性の腕が治ったのは確かだ。
 ということは、男性に治癒魔法がかけられたことになる。

 この世界で魔法は一つの属性を扱えるのが一般だ。多属性の魔法が使えると魔術師の道を行く人がほとんどだし、治癒魔法が使える治癒魔術師はほんのわずかしかいない。

 私は氷属性の魔法しか使えない一般の人間だ。
 それにもし私が治癒魔法をなんらかの方法で使えるようになっても、治癒魔法が使える人間は治癒以外の魔法は使えない。つまり氷魔法を使っているのはおかしいのだ。

 一体どういうこと……?

「久々に甘いものを食べられて、元気が出たのかもしれないな」

 シフォンケーキを利き手でばくばく食べて、あっという間に食べ終わった男性が言う。

 いやいやいや、それだけで治るわけないでしょ!

 魔物に噛まれた毒なんて、治癒魔法がない限り治せないよ! この人、もしかして天然!?
 私は心の中でツッコミする。でも私自身にも男性の腕が治った理由がわからない。

 うーむ、と腕を組んで考え悩んでいると、ユリクが男性を会計へ促していた。

「喜んでいただけたなら、良かったです」
「ああ、美味いデザートも食えた上に、腕も治ったんだ。最高の店だよ」

 男性は来店したときより明るい表情になっていた。……相変わらず目つきは悪いけど。
 男性が革袋から銀貨を取り出す。
 ユリクに渡すときに、申し訳なさそうに私たちを見て言った。

「……ごめんな、チョコレートのお菓子なんて不味いに決まってる、なんて言っちゃって。お嬢ちゃんの言う通り、食べてみなきゃわからないもんだな。美味しかったよ」
「……ありがとうございます。その言葉だけで、すごく嬉しいです」
「……」

 お釣りをユリクが渡すと、男性はユリクをじっと見つめた。

「……獣人って、よく見ると綺麗な耳生えてるんだな。ふさふさだ……」
「触りますか?」
「え……いいのか?」
「もちろん」

 ユリクが自分の耳をぴょこぴょこ動かして男性を誘っている。
 普通、獣人を差別する人間は獣人の証拠である獣耳や尻尾に触れようとはしない。

 さっきまで獣人に対する嫌味を言っていた彼が、ユリクの猫耳を触りたいと思うのはもう獣人を差別しなくなった証拠だ。

 それでもまだ少し躊躇いがあるのか、男性はゆっくり猫耳に手を近づける。
 そして、触れた瞬間。
 男性は目をカッと開いた。

「こ、これは……!」

 触れた手で、そのままユリクの猫耳をなでなでする。

「なんてモフモフなんだ……」

 男性は、ケーキを食べたときくらい幸せな表情で満ちていた。

 その顔があまりにも満足気だったから、最初にユリクのモフモフを触ったのは私なんですからね! とつい独占欲が湧いてしまった。


◇◇◇

「村のみんなに伝えておくよ。美味しいカフェがあるってな!」

 しばらくユリクの猫耳を堪能したあと、男性は笑顔でそう言って会計を済ませ、私たちのカフェから出て行った。
 窓から男性が軽い足取りで帰っていくのが見える。

 私とユリクは顔を見合わせ、ぱん! とハイタッチした。

「やった! ユリク、初めてチョコスイーツ食べてもらえた!」
「ああ、俺も嬉しい。これからさっきの人がこのカフェの美味しさを広めてくれるかもしれない。そしたら、チョコレートを食べるお客さんがもっと増えていくよ」

確かに店を出る前、男性が村のみんなに伝えておく、って言っていた。本当に伝えてくれたら、もっとチョコレートの美味しさを広められる!
 そして、このカフェで獣人と人々が距離を縮められる場所になったら、私は幸せだ。私もモフモフしたいし。

 私がにやにやしていると、私の前にいるユリクがふわっと両手を広げていた。

「……?」
「はい、ご褒美」
「!?!? ハグなんてしません!」

 断られたのがショックなのか、ユリクのしゅん、と猫耳が垂れる。
 いや、そんなアピールしてもしませんよ!? 無意識にしているのかもしれませんけど!

 ユリクは優しいけど、たまに優しすぎて私の予想を超えてくることが今日でよくわかったのだった……。

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