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第41話 ただいま
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ユリクと一緒に歩いて店のドアを開けると、カランとベルが鳴った。
その音にお客さんたちが振り返る。
「カナメ……!?」
いの一番に私を呼んだのは、白い椅子に座ってティーカップを口につけていたケイだった。
ケイが立ち上がって私のところに駆け寄る。
ルットもびっくりした顔を見せながら私の元に来てくれた。
「心配したよ! 大丈夫か? 身体に怪我とかないか? 今までどこに行ってたんだ?」
「え? あ、うん。ちょっといろいろあって……」
ケイが私を上から下まで見て、無傷なことを確認したのか「はぁ、良かった……」と安堵のため息を吐いていた。
どういうことかと首を傾げていると、ルットが口を開く。
「ケイは、カナメが盗賊に拉致されたと思っていたんです。ユリクが違うよって宥めてくれてたのですが……「絶対に拉致だ!」ってきかなくて」
ケイが何度も良かった、とため息を吐いていて、心配をかけさせてしまったのだと申し訳なくなった。
あるとき、なんの別れも言わずに店にいるはずの人間がいなかったらびっくりするよね。
……やっぱり戻ってこれてよかった。
私は背伸びして、ケイの頭を優しく撫でた。
いつの間にか涙目になっていて、兎耳も元気をなくしている。
ケイが潤んだ瞳でこちらを見つめ、私は安心させるようにゆっくり髪を梳く。
「……ごめんね、急にいなくなっちゃって」
「……」
「大丈夫だよ。盗賊に拉致されたりしてないから。もういなくなったりしないよ」
「……へへ」
私が優しく笑むと、ケイも子供っぽく笑ってくれた。
耳も少しずつだが立ってきて、安心してきたことを示している。
私は視線をテーブル席に移すと、お客さんみんなスイーツを食べていないことは確かだった。
コーヒーや紅茶の良い匂いが鼻腔を擽ってくる。
ケイの頭から手を離して、私を見て微笑んでいるユリクに訊いてみた。
「ユリク」
「ん?」
「私がいなかった数日間、スイーツは提供してなかったの?」
「……ああ、そうだね」
ユリクはお客さんたちが飲んでる紅茶を見つめた。
「カナメが作ってたのは見てたから、作り方は覚えてたんだけどね。……俺が作っても、お客さんは元気出ないから」
「あ……」
以前リュザが訪問しにきたとき言っていた。
私は『癒しの力』を持っていて、それを無意識にスイーツに流し込んでいるからお客さんたちの体力や魔力が回復するのだと。
それは逆を返せば、私がスイーツを作らないとお客さんは回復しないのだ。
ユリクはその話を聞いていたから、スイーツを提供しなかったんだ。
「でも『カナメ喫茶』は存続させたかった。だから、飲み物を提供してたんだ。……ルットなんてね、「もうあのスイーツが食べられないんですか?」って嘆いてたんだよ?」
「ユリク……!」
ルットが顔を赤くし、手をバッと伸ばしてユリクの口を塞ごうとする。
が、ユリクがさらっと躱してしまい、ルットは尻尾を乱暴に振ってむすっと頬を膨らませた。
そんな二人を見た私はくすっと笑う。
でもその後ユリクは目を伏せて、ぽつりと呟いた。
「……俺も、そう思ってたよ」
銀色の睫毛が下を向き、切なげに少しだけ笑ったあと、顔を上げて私を見つめた。
「帰ってきてくれてありがとう、カナメ」
「……! うん!」
その言葉が嬉しくてとびきりの笑顔を向けると、遠くでお客さんが手を振るのが視界に入った。
「カナメさん! 戻ってきてくれたんですね」
「久しぶり! お嬢ちゃん」
「せっかくだから、カナメさんの作ったスイーツ食べたいです~!」
常連のお客さんたちが、次々と私に声をかけてくれる。
スイーツが載ったメニューを両手に持って振ったり、スイーツを食べる身振りをしていて、待ちきれないようだった。
お客さんたちの言動が温かくて、ちょっとだけ涙腺が刺激されてしまう。
今は泣いてる暇はない、と頭を振って、私は元気な声で応えた。
「はい! 何が食べたいですか?」
その音にお客さんたちが振り返る。
「カナメ……!?」
いの一番に私を呼んだのは、白い椅子に座ってティーカップを口につけていたケイだった。
ケイが立ち上がって私のところに駆け寄る。
ルットもびっくりした顔を見せながら私の元に来てくれた。
「心配したよ! 大丈夫か? 身体に怪我とかないか? 今までどこに行ってたんだ?」
「え? あ、うん。ちょっといろいろあって……」
ケイが私を上から下まで見て、無傷なことを確認したのか「はぁ、良かった……」と安堵のため息を吐いていた。
どういうことかと首を傾げていると、ルットが口を開く。
「ケイは、カナメが盗賊に拉致されたと思っていたんです。ユリクが違うよって宥めてくれてたのですが……「絶対に拉致だ!」ってきかなくて」
ケイが何度も良かった、とため息を吐いていて、心配をかけさせてしまったのだと申し訳なくなった。
あるとき、なんの別れも言わずに店にいるはずの人間がいなかったらびっくりするよね。
……やっぱり戻ってこれてよかった。
私は背伸びして、ケイの頭を優しく撫でた。
いつの間にか涙目になっていて、兎耳も元気をなくしている。
ケイが潤んだ瞳でこちらを見つめ、私は安心させるようにゆっくり髪を梳く。
「……ごめんね、急にいなくなっちゃって」
「……」
「大丈夫だよ。盗賊に拉致されたりしてないから。もういなくなったりしないよ」
「……へへ」
私が優しく笑むと、ケイも子供っぽく笑ってくれた。
耳も少しずつだが立ってきて、安心してきたことを示している。
私は視線をテーブル席に移すと、お客さんみんなスイーツを食べていないことは確かだった。
コーヒーや紅茶の良い匂いが鼻腔を擽ってくる。
ケイの頭から手を離して、私を見て微笑んでいるユリクに訊いてみた。
「ユリク」
「ん?」
「私がいなかった数日間、スイーツは提供してなかったの?」
「……ああ、そうだね」
ユリクはお客さんたちが飲んでる紅茶を見つめた。
「カナメが作ってたのは見てたから、作り方は覚えてたんだけどね。……俺が作っても、お客さんは元気出ないから」
「あ……」
以前リュザが訪問しにきたとき言っていた。
私は『癒しの力』を持っていて、それを無意識にスイーツに流し込んでいるからお客さんたちの体力や魔力が回復するのだと。
それは逆を返せば、私がスイーツを作らないとお客さんは回復しないのだ。
ユリクはその話を聞いていたから、スイーツを提供しなかったんだ。
「でも『カナメ喫茶』は存続させたかった。だから、飲み物を提供してたんだ。……ルットなんてね、「もうあのスイーツが食べられないんですか?」って嘆いてたんだよ?」
「ユリク……!」
ルットが顔を赤くし、手をバッと伸ばしてユリクの口を塞ごうとする。
が、ユリクがさらっと躱してしまい、ルットは尻尾を乱暴に振ってむすっと頬を膨らませた。
そんな二人を見た私はくすっと笑う。
でもその後ユリクは目を伏せて、ぽつりと呟いた。
「……俺も、そう思ってたよ」
銀色の睫毛が下を向き、切なげに少しだけ笑ったあと、顔を上げて私を見つめた。
「帰ってきてくれてありがとう、カナメ」
「……! うん!」
その言葉が嬉しくてとびきりの笑顔を向けると、遠くでお客さんが手を振るのが視界に入った。
「カナメさん! 戻ってきてくれたんですね」
「久しぶり! お嬢ちゃん」
「せっかくだから、カナメさんの作ったスイーツ食べたいです~!」
常連のお客さんたちが、次々と私に声をかけてくれる。
スイーツが載ったメニューを両手に持って振ったり、スイーツを食べる身振りをしていて、待ちきれないようだった。
お客さんたちの言動が温かくて、ちょっとだけ涙腺が刺激されてしまう。
今は泣いてる暇はない、と頭を振って、私は元気な声で応えた。
「はい! 何が食べたいですか?」
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