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番外編1「疲れたときこそ」
しおりを挟むカナメが王都にやってきた。
またあの花のような笑顔を見たいと思って、王宮から出ようとするのだけど……。
「リュザ。魔力が一定に注ぎ込まれてないじゃないか。実験失敗するぞ」
「氷魔法の分析結果はどうした? リュザが担当だったよな」
「リュザの書類誤字だらけでわからん、直せ」
むさくるしい男たちが一気に詰め寄ってくる。
ローブを羽織ってても肩幅の広さからわかる筋肉を見て、俺は深くため息を吐いた。
「一気に言わないでよ。分析結果はもう少しで完成する。書類は直すからそこ置いといて」
リースライの横をトントンと指で示す。
書類が置かれた後、気が散ってしまったので魔力が一定に注ぎこめなかったリースライを廃棄箱にぽいっと入れた。
そのまま廃棄箱がむしゃむしゃとリースライを噛み砕き、跡形もなくなる。
「ねぇ、リースライってまだある?」
「もうねえよ。リュザが使ってたのが最後の一つだよ」
「えー。じゃあまた鉱石屋に買いに行かなきゃいけないの?」
「そうだよ。その実験結果をまとめた書類の提出期限は、三日後だろ? 今からでも買いに行けよ」
ちらりと時計を見た。
午後の三時。まぁ、そのくらいなら行ってもいいだろう。
俺は立ち上がって王宮を出た。
歩きながら今日のこれからの予定を考える。
帰ってきたら実験して、その後氷魔法の分析結果の書類まとめて、別の書類の誤字直して、実験結果の書類まとめて……。
「はぁ……」
こんな生活してたら、いつか倒れそう。
実験だって分析だって、相当魔力消費するし。
しかもむさくるしい男ばかりで、華がない。研究部屋にいてもつまらない。
だから、仕事がひと段落したらカナメの店に行って癒されようと思っているのに……。
ひと段落したら、またひと段落したらと考えているうちに、結局『カナメ喫茶』が王都に移転してから一回も行けていない。
「チョコレートフレンチトースト……」
半ば無意識に呟く。
あの甘くて、でも後味がしつこくない、カナメが作ったふわふわのチョコレートフレンチトーストが食べたい。
食べたい、一刻も早く食べたい……!
『カナメ喫茶』は王都に移転しても大人気で、王宮から出て様子を垣間見るときはいつも大繁盛している。
俺もそっちに行けたらなぁ。
鉱石屋に着き、リースライを購入する。
リースライというのは、この国の東地方でさかんに採れる鉄鉱石だ。
主に武器を作るのに必要とされている。
今回はそのリースライに属性魔法を注いだら、武器を作った際にその属性魔法が引き継がれるかの実験だった。
武器に属性魔法を注いでもすぐに魔力が分散され、武器を使う相手の属性魔法しか使えなくなることは実験済だ。
ならその武器を作る元となるリースライに魔力を注いだらどうなるのか、の実験を王政府から依頼された。
これがもし成功すれば、属性魔法が一つしかない人でも様々な属性魔法が使えることができる。
「俺にそんな重大な仕事押し付けるなよなぁ」
他にも手が空いてる人はいっぱいいるのに。
またこの実験をしている間にも仕事は入ってくるだろう。
やだやだほんとやだ。早くやめたい。ずっとチョコレート食べてたい。
上を向いて空を仰いでいると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか? 三名様ですね! あ、もしかして昨日来てくれた人? 嬉しいです、ありがとうございます!」
その高い声と甘い匂いに思わず振り向く。
『カナメ喫茶』でカナメがエプロンをつけて接客していた。
……やばい。めちゃめちゃ美味しそうな匂いがする。
でも今食べれば、今日徹夜になるのは免れない。
店の窓からカナメがチョコレートフレンチトーストを運んで客に提供しているのが見える。
ふるんとフレンチトーストが揺れる。
「……」
別に、今日くらいいいよね。
リースライをローブの内ポケットに閉まって、『カナメ喫茶』の方に歩いて行った。
「カナメー!」
声を張って手を振る。
気づいたカナメはぱっと瞳を輝かせて店の中から手を振ってくれた。
口元が久しぶり、と動いている。
「……徹夜なんて、どうってことないな」
その笑顔を見て、俺は呟いた。
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