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第四十九話「国家試験」

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◇◇◇

 俺への差別がなくなった日から、一か月後。

 魔術の国家試験がやってきた。
 申し込みはカルヴェが行ってくれて、あとは試験会場に行って実技を行うだけだ。
 馬車で試験会場に着くと、カルヴェとグランが送ってくれる。

「殿下、気をつけて行ってきてくださいね。殿下なら、きっと大丈夫ですよ」
「俺たち、受からなくても怒りませんから。でも、俺的には殿下は受かると思いますよ! だって、あんなに努力したんですからね」
「二人とも、ありがとう。じゃあ、行ってくる」

 心臓がばくばく鳴っている。
 いつの年でも、試験って緊張するものなんだなぁ……。

 カルヴェとグランに見送られ、時々後ろを振り返って手を振りながら試験会場へと向かった。

「殿下だ、殿下がいるぞ……」
「あ、あの、Ωの?」
「Ωが国家試験に? 正直受からないと思うのですけど……」

 はいはいみなさん聞こえてますよ。

 俺が噂している奴を睨みつけると一瞬で目を逸らして何も言わなくなるんだから、困ったもんだよな。

「では、試験番号五十から六十番の方、お入りください」

 俺は五十九番だから、ようやく出番がきたみたいだ。
 試験は実技四十分の筆記二十分で、筆記は先程終えた。

 手ごたえはかなりある。
 というか、満点の自信もあることにはある。

 これも魔術の練習をしながらカルヴェが試験で出そうな筆記問題を教えてくれたからこそ解けたものだ。

 実技試験は小ホールで行われる。
 やることは、自分が持っている属性魔法をどれだけ使いこなせるかを見せること。

 これがΩが試験に落ちる原因だ。
 いくら筆記ができていても、実技でこの数十年Ωの者全てが落とされてきた。

 指示は時折試験官が出すらしい。
 十人ずつ呼ばれて、一人一人が披露していく。

 俺たちが部屋に入ると、五十番の人が立ちあがり、実技を見せていた。
 この人の属性魔法は炎だ。

 試験官の命令通りに輪を作ったり、白鳥の形にしたりしている。
 終わった後、楽勝だとでも言わんばかりにその人は鼻を鳴らし、再び席に着いた。

 自分の実技が終わったとしても、部屋の中に残っている最後の人まで帰ることはできない。
 つまり、六十番の試験が終わるまでこのホールで待機していなければならないのだ。

「次。五十九番」
「はい」

 次々と実技を行い、俺の番になった。
 試験官が俺の書面を見て苦い顔をする。

「第一王子、性別はΩ。Ω、か……ふん」

 性別を見て興味なさそうに書面を放った。

 他の試験官もΩの人間は相手にしていなく、さっさと次に進みたいようで苛立ちを隠しきれていない。

 試験官は王宮魔術師の中でも有数の者たちだ。
 立場的には王族とほぼ同格になるから、こういった態度を示されても反論はできない。

「貴方は……水魔法なんですね。では、水であちらの的に当ててください」
「わかりました」

 俺は早速手をかざして水魔法を作り、数十メートル先の的にパシャン! とあてた。
 当たったところは染みができるらしく、見事に真ん中に命中している。

 恐らくΩの人間にとっては至難の業だ。
 試験官の一人がぽかんと口を開けていた。

「で、では、その水で白鳥を作ってください。……これならできないでしょう」
「わかりました」

 小言、聞こえてますよ。
 とは言わずに、俺は言われたとおりに水を何リットルか出して、白鳥を作った。

 自分で言うのもなんだが、炎で白鳥を作り出した六十番よりは綺麗な形にできているはずだ。
 またしても試験官が呆然と口を開けている。

 他にも次は人を作れ、とか、花畑を作れ、水でお手玉をしろなどの指示が出たが、全て行ってみせた。

 気のせいだろうか、俺の実技試験の時間だけ長いような……。

「ならば……ならば、ドラゴンを作ってみなさい!」
「ドラゴンですか? わかりました」

 俺は水を両手から溢れるほど大量に出し、ホールの天井に触れられるほどの大きなドラゴンを作った。

 カルヴェと何度も練習して作った大作だ。

 ちなみにドラゴンの頭を動かすこともできるため、試験官に挨拶するように動かすと、もう彼らは何を言うこともなかった。

 俺の試験が終わったあと、六十番の男が「あんなすごいの見せられたあとで、もう無理だよ……」と項垂れているのが聞こえてしまった。

 さっき鼻を鳴らしていた五十番の人も、呆然として俺を見ていた。

 翌日、試験の合格者が試験会場に貼りだされた。

 カルヴェとグランに見守られながら掲示板のほうにいくと、大勢の人混みで背の低い俺はなかなか見えない。

 この試験は難関だから、落ちて泣いている人がちらほら見えた。もちろん受かった人もいて、ガッツポーズを上げたりしている。
 
 人混みがなくなってきたころ、俺は掲示板をそっと覗きこんだ。
 五十九番は……普通にあった。普通の書体で書かれていた。

 え、本当に、俺……。

「う、受かった……!」
「本当ですか、殿下!」
「殿下、やりましたね!」
「うぐっ」

 二人からものすごい勢いで抱きしめられた。

 おいおい、馬車の近くで見守ってたんじゃないのか! いつの間にか俺の後ろまで来ていたのかい!

 グランとカルヴェの抱擁は思っていたより長く、だんだん俺は恥ずかしくなってくる。
 まだ人がいるから! みんな見てるから!

 人々からの視線が痛いなか、俺は合格したことに安堵を覚え、自分も二人を抱きしめてしまった。

 嬉しい。俺、国家試験に受かったんだ。
 数十年もΩが受かっていない試験に……!

 帰宅して父様に報告すると、「それは本当か!」と自分のことのように喜んでくれた。
 今の自分があるのは、こうして周りの人たちに助けられたからだ。

「兄様! 属性魔法習得国家試験に受かったとは、本当ですか!」

 父様に報告したあと、父様の部屋から出たらエリアンに会った。
 エリアンは瞳をキラキラ輝かせて、俺に前のめりになって聞いてくる。

「ああ、受かったよ。正直自分でも信じられない」
「すごい、すごいですよ! 俺でも受かるかわからないのに!」

 高等部でも成績がトップに近いエリアンが、素直に喜んでいるのを見て、俺も顔を綻ばせた。
 いつも冷静なのに、俺の話になると感情を豊かにするエリアンが少し可愛く思う。

「ありがとう、エリアン。これでΩの差別がなくなるといいんだが……」
「なくなりますよ、兄様が国王になるころには、きっと」

 エリアンが優しく笑む。

「これからも兄様のことを応援していますよ。頑張ってくださいね」
「……ありがとう」

 素直な応援が心を温めてくれる。
 試験に受かったことも嬉しかったが、こうして身内に褒められることが何より嬉しかった。

「本当に、成長しましたね、殿下……」

 自分の部屋に戻ってカルヴェに試験が受かったことを告げると、瞳を潤ませて言われた。
 カルヴェが泣きそうなところなんて、初めて見た。

 カルヴェもこういう顔をするんだな。
 俺はにこりと微笑んで、「カルヴェ、ありがとう」と誠意をこめて礼を言った。
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