異世界探訪記

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姿無き童歌

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 一人で旅をしていると不思議な出来事に遭遇する事がある。けれど私しか居ない以上、それが本当にあった事なのか、寂しさから気が触れて幻覚でも見ていたのかを証明する事は出来ないだろう。
 ただ、この世界では何が起きても不思議では無い様な気もするのだけど。

 その出来事があったのは、とある廃墟での事だった。より正確に言うのであれば、旅の途中に入った廃村の中にある建物の名残の一つだった。他の建物よりも一回りか二回り程広いその場所で、ふと子どもの声が聞こえた気がした。
 其処で引き返しておけば良かったのだろう。けれど、その時の私は好奇心から奥へ進む事を選んだのだ。

 奥へ入る事に聞こえてくる声は大きく明瞭になっていく。そして、はっきりと聞き取れる様になった時、それは歌なのだと気付いた。恐らく童歌の類だろう。生憎とこの世界の歌に詳しくないので分からないが、もしかしたら有名な歌なのかもしれない。そんな歌が繰り返し繰り返し歌われている様だった。
 だけど、其処には当然居るべき者が居なかった。誰も居ないまま、歌だけが廃墟を駆けている。そして、それを追う様に自然と私の足は更に更にと奥へ向かう。

 とっくに廃墟の中を超えるくらい歩いたはずなのに、まだ端まで到達しない。その事に何故か気が向かなかった。頭に思い浮かぶのは、未だ歌い手に辿り着いていないという思いだけ。だから、歌に導かれるままに歩を進め様として、ふと歌以外の音が耳に入るのに気が付いた。

〝ピチャン、チャポン〟

 そう鳴り響くのは、普段聞き慣れた水の音。魚が水の上を跳ねている様な音だった。だから、その音が私の目を覚ましたと行っても良いだろう。
 気付いた時、私の前に広がっていたのは先の見えないまでに塗り潰された暗闇だった。奥に行く程、深くなる暗黒に恐れを抱き後退る。そして、一瞬前の私はあんな所へ歩を進め様としていたのかと怖くなった。




 漸く元の場所に戻った時には日が傾いていた。それでも、この廃墟で夜を越す気になれず、足早に廃村を後にする。そんな私の首元で、先行きを告げる様に人魚が小さな飛沫をあげた。
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