婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari

文字の大きさ
5 / 8

4

しおりを挟む
ウィルマの紹介で聖女として診療所に勤務する事になったアーデルヘイト。早速診療所へと行く事になった。

そこへ水滴を思わせるような銀色の髪に赤い目をしたボブヘアの女性がやってきた。

「お話はウィルマさんから聞いています。これから説明をしますね。私はサラ。宜しく」

サラはアルトの声で言った。そして、また別の銀髪の女性がやってきた。

「初めまして。私はクレシダ。ここは診療所。病気の人や怪我人が来る場所。治療は私達聖女が担っていますわ」

とメゾソプラノの声でクレシダは言った。

「どうも、初めまして。私はアーデルヘイトです」

アーデルヘイトは自己紹介をするなり深々とおじぎをした。

自分が侯爵令嬢という事は黙っておこう、と決めた。恐らくウィルマも黙っているでしょう。


「ではここの部屋で治療を行って下さいね」

と木製の椅子を与えられた。


「はい!」

アーデルヘイトは元気よく挨拶をした。

すると。椅子に座るも束の間、杖をつき、背中の曲がった老女が部屋に入ってきた。杖の音がカツカツ鳴る。

「お嬢ちゃん。右足の膝が痛いんだよ」

と老女は嗄れ声で言った。

その右足のお陰で老女は津江をついていたのか、と何となく察した。

「わかりました。ではいきますね」

そう言ってアーデルヘイトは老女の右足の膝に手をかざした。

こうして手かざしをする事で病気や怪我を治してきた。聖女としての経験は無駄にならない。

手から波動が出る。その波動が治癒させるのだ。

祈りを込める。手が暖かくなる。波動が出た、とわかった。


この老女の腰が良くなりますように!

アーデルヘイトは祈りをこめた。

波動が出続ける。

手が暑い。いや、熱い。手から火が出そうな位熱い。


老女は

「痛みが……痛みが……」

と言い出した。

アーデルヘイトはかざしていた手を引っ込めた。

老女は立ち上がった。そして、突如飛び跳ねた。まるでウサギのように。

「痛みが雲散霧消した!」

老女は何度も跳ねるが全く痛みを感じる素振りを見せない。

「あんた、膝が良くなったよ。ありがとよ」

老女は喜んだ。アーデルヘイトもまた自分の魔力で人を癒せたことに思わず笑みをこぼした。


こうして王太子に婚約破棄をされ、平民として暮らし、人から喜ばれる仕事ができてアーデルヘイト自身嬉しくて仕方が無い。


今までは貴族令嬢として生活し、平民との関わりは皆無に等しかった。しかし今こうして平民と接する事で平民の生活を知ることができたのだ。

聖女として今までは王室で雇用されていた。しかし、今は平民の集まる診療所で仕事をしている。不思議な感覚だった。


次に来たのは腰の曲がった老人だった。

「腰が痛くてね」

そう言って腰を差し出した。


アーデルヘイトは再び手に集中した。

手が熱くなる。燃えるように熱くなる。

波動が出ている。


アーデルヘイトの癒すチカラは並大抵では無く、万病に効くチカラを持っていた。

その事もあり、王太子専属の聖女になっていた。

王太子専属の聖女は3人いた。その内の一人を気に入ってしまい、婚約破棄をされたのだ。

その一人とはアーデルヘイトの後輩だった。

まだ新米の時は忠実的で、謙虚な人だった。それがアーデルヘイトが王太子と婚約している事を知りながら、堂々と王太子に迫っていったのだ。


と、突然、手の熱が引くのを感じた。

この老人は病気を癒やす事よりも何か他の事を考えているようだ。

「知っているかい?」

突如男性は後ろを向き、話しかけてきた。

他の事を考えると、波動は止まってしまうのだ。

「何のことですか?」

アーデルヘイトはかざしていた手を下ろした。

「嬢ちゃんはオイフィア王国の徴税の仕方に納得いくかい?」

考えてみた事もなかった。

1貴族としてそれなりに納税はしてきたが、徴税の仕方に納得がいかないとはどういう事だろうか?

「私はまだ働きたてですし、それに私は既に両親を失ってしまったので」

あながち嘘ではない。王太子から婚約破棄され、それを恥とした父公爵から絶縁を迫られたのだから。

「そうか。しかし、我々平民はオイフィア王国から虐げられてきた。この徴税の仕方については近隣諸国からも疑問視されている」

と言って男性は舌で唇を時計回りに舐めるとまた続けた。

「革命を考えているようだ。ウェールズ伯爵がやはり徴税の仕方に納得いかず、挙兵するとの事」

「かっ……革命ですか?」

アーデルヘイトにはにわかには信じられなかった。

「ウェールズ伯爵とは大人しい人物と言われている。そんな人物がなぜまた革命をと私も思ったのだが」

確かに現ウェールズ伯爵の当主は大人しいで有名だ。やはり、なぜ彼に限って革命など起こすのだろうか?

「本当の話なんですか?」

「無論本当の話だ」即答だった。

革命という言葉にもまた驚いた。しかも、国のやり方に納得がいかない。

「革命……それはいつ起きるのですか?」

老人は首を横に振った。

「それはわからない。だが近い内だろう」

近い内。そうなると王族はどうなってしまうのだろう? 王太子はどうなるの?

老人の言葉が非常に悩ましかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました

ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」  王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。  誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。 「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」  笑い声が響く。  取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。  胸が痛んだ。  けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。

婚約破棄されたら、国が滅びかけました

Nau
恋愛
「貴様には失望した!私は、シャルロッテ・グリースベルトと婚約破棄をする!そしてここにいる私の愛おしい、マリーネ・スルベリオと婚約をする!」 学園の卒業パーティーの日、婚約者の王子から突然婚約破棄された。目の前で繰り広げられている茶番に溜息を吐きつつ、無罪だと言うと王子の取り巻きで魔術師団の団長の次に実力があり天才と言われる男子生徒と騎士団長の息子にに攻撃されてしまう。絶体絶命の中、彼女を救ったのは…?

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

婚約者が聖女様と結婚したいと言い出したので快く送り出してあげました。

はぐれメタボ
恋愛
聖女と結婚したいと言い出した婚約者を私は快く送り出す事にしました。

処理中です...