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行商人のウィルマに助けられ、ウィルマの家に泊まる運びとなった。ウィルマの家に着く頃には雪はやんでいた。しかし、相変わらず吐く息は白く濁る。手がかじかんできた。
「ありがとうございました」
アーデルヘイトは馬車を降り、ウィルマに一礼した。透き通るようなソプラノの声が辺りに響く。
「いえいえ。さあ、家に入るといい。妻と息子が待っている」
ウィルマの家はオルウェン邸の約半分位の広さがある。豪商なのだろうか? レンガづくりでシッカリしている建物だ。
「さあ、中に入って下さい」
アーデルヘイトは促されるままウィルマの家に入った。
「お邪魔します」
家の中には絵画がそこいらかしこに飾られている。この光景はオルウェン邸と大して変わらない。リビングに入ると、何とも広い。レンガづくりの暖炉があり、火がパチパチ音を立て、火の粉が四方八方に飛び散っている。上を見上げればオルウェン邸にあるような立派なシャンデリアがある。そして目の前には大きなテーブル。豪商人なのかはたもや貴族なのか? 立派な身分である事には変わりなさそうだ、とアーデルヘイトは思った。
リビングには奥さんと息子らしい人が待っていた。
リビングに入ると、ウィルマが帽子を脱いだ。紫色のベレー帽だった。
「サンディすまない。オルヴァート公爵ご令嬢のアーデルヘイト様を連れてきた」
「どうしてまた!」
奥さんは手を口に当てて何事かと言わんばかりに驚いていた。それもそのはずでしょう。貴族のご令嬢が一般家庭に泊まりに来るなど例が無い話なのだから。
ふわふわの肩まである桃色の髪、大きな目、水色の服に水色のロングスカートを履いた女性。彼女が奥さんのか、と思った。
「アーデルヘイト様が何でも家の人間と摩擦が生じて家を追われたらしいんだ」
と言って上着を脱ぎだした。上着もまた紫色だった。
「それは大変! しかし、そんな方を匿って大丈夫なのかしら?」
と言ってサンディが上着を受け取った。
「大丈夫だ」
とウィルマがどっしりとしたバリトンの声であっさりと切り替えした。
暗がりだったからあまり良く見えなかったけれど、ウィルマは白髪頭に白いひげを蓄えていた。
「あ、初めまして。オルヴァート公爵令嬢のアーデルヘイトです」
アーデルヘイトは一礼をし、挨拶をした。
「はい。私は妻のサンディです。そして、右にいるのが息子のマドリックです」
「マドリックです。宜しくお願いします」
とテノールの声で新緑を思わせる緑色の髪の青年が挨拶をした。
そう言うとサンディは厨房の中へと入っていった。
「食事はまだかね?」
とウィルマが聞いてきた。
「はい。実は食事も食べずに家を出てきました」
と言ってアーデルヘイトは下を向いた。
「大丈夫だ。食事は用意してあるから」
と言うと、エプロンをした若い茶髪の女性が厨房から出てきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「私、オルヴァート公爵令嬢のアーデルヘイトと申します」
アーデルヘイトは侍女と思われる女性に挨拶をした。
「私はエレン。この家に仕えている者です」
人を雇っているということはやはり豪商と見て良い。
そして、他の侍女が厨房から出てきた。
「話は聞きました。ご主人様、そしてアーデルヘイト様どうぞ食事を召し上がって下さいませ」
四人分の食事が用意された。
そして、ウィルマとサンディとマドリックは食卓を囲んだ。
「アーデルヘイト様。そこにお座りください」
サンディの隣に促された。サンディも手招きをしている。
「はい。ありがとうございます。失礼します」と言って一礼し、席についた。
3人の侍女が入れ代わり立ち代わり食事を運んでくる。どうやら今日の食事はパンにシチューのようだ。
そして、配膳が済んだようで、侍女たちは一礼し、厨房へと戻っていった。
そう言えばオルウェン家の食卓もいつもこんな感じだった。あの時はまだ家族仲良しだった。しかし、一度王太子に婚約破棄をされると、家を追われ、今こうして助けてくれた豪商と食事をとることになった。
今夜はこうしてオルウェン家はアーデルヘイトのいない夕食をしているのだろうと思うと、なんだかやるせない思いになってきた。
「ではいただきます」
食事に手を伸ばす。
「遠慮しなくて良いのよ。おなかすいているでしょ?」
と笑顔でサンディが話しかけてくれた。サンディの優しい言葉、笑顔に慰められた。
シチューがとても美味しい。オルウェン家でもシチューはよく出るが、なぜだかより一層美味しく感じられた。
「アーデルヘイト様、どうしてまたこんな事に?」
とマドリックが聞いてきた。
アーデルヘイトは一瞬心臓が強く脈動したような感覚を覚えた。
「それは家族と仲違いしたからです」
と口にシチューを運びながら言った。
「そうなんですか」
マドリックはパンをちぎって口に入れた。
「マドリック。あんまり人様の事を詮索するものではありません」
サンディが叱った。
「は~い。ごめんなさい」
「いえいえ」
悪気が無かったと言うことね、とアーデルヘイトはわかった。
「明日からどうするんだい?」
ウィルマが食べている手を止めて言った。
「どうしよう」と言って「私、聖女なんです。何かお役に立てそうでしょうか?」
「できる」首を2度縦に振り、ウィルマがそう言った。
「知り合いに診療所を営んでいる人がいる。そこで怪我人や病人の看病をするといい」
そう言ってコップに手を出し、飲み干した。
「ありがとうございました」
アーデルヘイトは馬車を降り、ウィルマに一礼した。透き通るようなソプラノの声が辺りに響く。
「いえいえ。さあ、家に入るといい。妻と息子が待っている」
ウィルマの家はオルウェン邸の約半分位の広さがある。豪商なのだろうか? レンガづくりでシッカリしている建物だ。
「さあ、中に入って下さい」
アーデルヘイトは促されるままウィルマの家に入った。
「お邪魔します」
家の中には絵画がそこいらかしこに飾られている。この光景はオルウェン邸と大して変わらない。リビングに入ると、何とも広い。レンガづくりの暖炉があり、火がパチパチ音を立て、火の粉が四方八方に飛び散っている。上を見上げればオルウェン邸にあるような立派なシャンデリアがある。そして目の前には大きなテーブル。豪商人なのかはたもや貴族なのか? 立派な身分である事には変わりなさそうだ、とアーデルヘイトは思った。
リビングには奥さんと息子らしい人が待っていた。
リビングに入ると、ウィルマが帽子を脱いだ。紫色のベレー帽だった。
「サンディすまない。オルヴァート公爵ご令嬢のアーデルヘイト様を連れてきた」
「どうしてまた!」
奥さんは手を口に当てて何事かと言わんばかりに驚いていた。それもそのはずでしょう。貴族のご令嬢が一般家庭に泊まりに来るなど例が無い話なのだから。
ふわふわの肩まである桃色の髪、大きな目、水色の服に水色のロングスカートを履いた女性。彼女が奥さんのか、と思った。
「アーデルヘイト様が何でも家の人間と摩擦が生じて家を追われたらしいんだ」
と言って上着を脱ぎだした。上着もまた紫色だった。
「それは大変! しかし、そんな方を匿って大丈夫なのかしら?」
と言ってサンディが上着を受け取った。
「大丈夫だ」
とウィルマがどっしりとしたバリトンの声であっさりと切り替えした。
暗がりだったからあまり良く見えなかったけれど、ウィルマは白髪頭に白いひげを蓄えていた。
「あ、初めまして。オルヴァート公爵令嬢のアーデルヘイトです」
アーデルヘイトは一礼をし、挨拶をした。
「はい。私は妻のサンディです。そして、右にいるのが息子のマドリックです」
「マドリックです。宜しくお願いします」
とテノールの声で新緑を思わせる緑色の髪の青年が挨拶をした。
そう言うとサンディは厨房の中へと入っていった。
「食事はまだかね?」
とウィルマが聞いてきた。
「はい。実は食事も食べずに家を出てきました」
と言ってアーデルヘイトは下を向いた。
「大丈夫だ。食事は用意してあるから」
と言うと、エプロンをした若い茶髪の女性が厨房から出てきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「私、オルヴァート公爵令嬢のアーデルヘイトと申します」
アーデルヘイトは侍女と思われる女性に挨拶をした。
「私はエレン。この家に仕えている者です」
人を雇っているということはやはり豪商と見て良い。
そして、他の侍女が厨房から出てきた。
「話は聞きました。ご主人様、そしてアーデルヘイト様どうぞ食事を召し上がって下さいませ」
四人分の食事が用意された。
そして、ウィルマとサンディとマドリックは食卓を囲んだ。
「アーデルヘイト様。そこにお座りください」
サンディの隣に促された。サンディも手招きをしている。
「はい。ありがとうございます。失礼します」と言って一礼し、席についた。
3人の侍女が入れ代わり立ち代わり食事を運んでくる。どうやら今日の食事はパンにシチューのようだ。
そして、配膳が済んだようで、侍女たちは一礼し、厨房へと戻っていった。
そう言えばオルウェン家の食卓もいつもこんな感じだった。あの時はまだ家族仲良しだった。しかし、一度王太子に婚約破棄をされると、家を追われ、今こうして助けてくれた豪商と食事をとることになった。
今夜はこうしてオルウェン家はアーデルヘイトのいない夕食をしているのだろうと思うと、なんだかやるせない思いになってきた。
「ではいただきます」
食事に手を伸ばす。
「遠慮しなくて良いのよ。おなかすいているでしょ?」
と笑顔でサンディが話しかけてくれた。サンディの優しい言葉、笑顔に慰められた。
シチューがとても美味しい。オルウェン家でもシチューはよく出るが、なぜだかより一層美味しく感じられた。
「アーデルヘイト様、どうしてまたこんな事に?」
とマドリックが聞いてきた。
アーデルヘイトは一瞬心臓が強く脈動したような感覚を覚えた。
「それは家族と仲違いしたからです」
と口にシチューを運びながら言った。
「そうなんですか」
マドリックはパンをちぎって口に入れた。
「マドリック。あんまり人様の事を詮索するものではありません」
サンディが叱った。
「は~い。ごめんなさい」
「いえいえ」
悪気が無かったと言うことね、とアーデルヘイトはわかった。
「明日からどうするんだい?」
ウィルマが食べている手を止めて言った。
「どうしよう」と言って「私、聖女なんです。何かお役に立てそうでしょうか?」
「できる」首を2度縦に振り、ウィルマがそう言った。
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