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アーデルヘイトはひとまず隣まちミディールを目指した。
領地内を歩く。人々は日が暮れて街中を忙しなく歩いている。これから夜がやってくる。一体どうすれば良いのだろう?
街中を抜けると広大な平原地帯に出た。ここを抜けると穀倉地帯が広がる。
隣まちは港町で多くの国と貿易をしてきた。この辺一帯で最も栄えている街と言ってもいい。
平原地帯をゆくのはどれも行商人の馬車ばかりだ。
(もう私はオルヴァート公爵家の子では無い)
そう思うと虚無に襲われてきた。夕闇が色を変え、だんだん濃くなってくる。いよいよ夜だ。
一人、歩く。
と、そこへ、背後に人の気配を感じた。後ろを見ると、4人の黒ずくめの人がいた。
「よぉ、姉ちゃん! こんな夜に女の子一人で歩いちゃ危ないよ」
とアーデルヘイトと身長が同じ位のバリトンの声の男が言った。
そして、2人に羽交い締めにされた。
(もしかして、追い剥ぎ?)
「兄貴。こいついい格好してままっせ。もしかしたら、貴族令嬢かもしれないぞ」
まずい、貴族令嬢だとわかってしまえばすぐには解放してくれない。まかり間違えば命も狙われる。
アーデルヘイトは神に祈った。
「あるものはみんな盗れ! 高貴なご身分の姉ちゃんなら絶対に何かしら持っているはずだからな」
身体中触られた。そして、服まで引き剥がされた。
「誰か助けて!」
「騒ぐんじゃねぇ。騒いだら殺すぞ」
体格のいい男が喉元にナイフを突きつけてきた。
後ろのポケットをまさぐられた。
「兄貴~。こいつ、こんなもの持っていやがったで」
「それは」とアーデルヘイト。
婚約指輪だった。
「だから、騒いだら殺すぞと言っただろ」
体格のいい男に胸ぐらを掴まれた。
「それはいいねぇ、取っておけ」と体格のいい男。
婚約指輪を取られてしまった。
男は婚約指輪をポケットに入れた。
男たちはふと横を見た。アーデルヘイトも横を見た。
行商人と思しい中肉中背の男がやってきた。
「そこのお前ら! 今何を盗った。返せ!」
行商人が馬車から降りてきて、刹那男の一人を蹴飛ばした。
男は一瞬宙に待って雪の上に転げ落ちた。
「何するんだ!」
もう1人の男が行商人に立ち向かっていった。左手が解放された。行商人はまたしても男を蹴飛ばしてしまった。
「やるのか?」
体格のいい男。
「やるならやってみろ」
と言って行商人は袖を捲くった。腕は物凄いコブのような筋肉だった。
「やろー」と体格のいい男が行商人にかかっていった。しかし、あっさりと蹴っ飛ばされてしまった。
皆、蹴られた箇所に手を当てて息を切らせている。
「さあ、盗ったものを返せ!」
黒ずくめの男たちは婚約指輪を投げ出した。
「この行商人め。そのツラ忘れないからな」
そう言って男たちはその場を立ち去ってしまった。
婚約指輪はそのまま放物線を描き、雪の上に落ちた。
「ありがとうございます」
アーデルヘイトは行商人にお礼を言った。
「しかし嬢ちゃん。見たところ随分と高貴な身分に見えるけど、どうしてこんな夜に外を一人で歩いているんだ?」
本当の事を話そうか迷った。しかし、素直に話すことにした。
「家族と軋轢が生じてしまいまして、家を出ることになりました」
すると、行商人は捲くった袖を元に戻し、言った。
「それで、一人うろついていたんだな?」
「はい」
すると、行商人は指輪を拾い上げた。
「この指輪、大切なものなんだろう?」そう言って指輪を渡してくれた。アーデルヘイトは両手で指輪を受け取り「ありがとうございます」と再度言い頭を下げた。
「この先どこに向かおうとしていたんだね?」
「ミディールです」
そう言うと行商人は「家を出てミディールに行こうとしていたんだな?」
「はい」
「まさかとは思うが、きみはオルウェン公の?」
わかってしまった。
「そうです」
思い切ってカミングアウトしてしまった。
「そうか。流石にそれじゃあオルウェン領にはもういられないな。丁度私もミディールに行く用事があったんだ。偶然は必然だ。ミディールへ送って行こう。女子供がこんな時間に外をほっつき歩くのは危険だからな。またさっきみたいに追い剥ぎに襲われたら大変だ」
「いいんですか?」
アーデルヘイトは半ば遠慮気味に言ってみせた。
「構わない」と言って続けた。「しかしらミディールに行っても行くとこあるのかい?」
「それがありません。野宿をしようと思っていました」
行商人は目を閉じながら首を左右に振った。
「野宿なんかダメだ。今しがた怖い思いをしただろ?」
「はい」
アーデルヘイトは下を向いた。宛もない旅になるはずだった。泊まる場所も行き当たりばったりになる予定だった。しかし、聖女としての経験があるから、街中の診療所で聖女として仕事をしようと思っていた。
「ならば私の家に泊まるとよい。それから今後どうするかを決めると良い」
アーデルヘイトは行商人に婚約指輪を差し出した。
「お代はこれで支払います。私、無一文なんです」
しかし、行商人は首を左右に振った。
「お代などとんでもない。さあ、馬車に乗った」
促されるままに馬車に乗った。
アーデルヘイトが馬に乗ったのを確認すると、行商人は馬車を走らせた。
「私の名前はウィルマだ。ミディールに住んでいる。きみは?」
「私の名前はアーデルヘイト・ユリア・オルウェンです」
行商人と自己紹介をしあった。
かくしてアーデルヘイトは隣まちミディールまで行くのであった。
領地内を歩く。人々は日が暮れて街中を忙しなく歩いている。これから夜がやってくる。一体どうすれば良いのだろう?
街中を抜けると広大な平原地帯に出た。ここを抜けると穀倉地帯が広がる。
隣まちは港町で多くの国と貿易をしてきた。この辺一帯で最も栄えている街と言ってもいい。
平原地帯をゆくのはどれも行商人の馬車ばかりだ。
(もう私はオルヴァート公爵家の子では無い)
そう思うと虚無に襲われてきた。夕闇が色を変え、だんだん濃くなってくる。いよいよ夜だ。
一人、歩く。
と、そこへ、背後に人の気配を感じた。後ろを見ると、4人の黒ずくめの人がいた。
「よぉ、姉ちゃん! こんな夜に女の子一人で歩いちゃ危ないよ」
とアーデルヘイトと身長が同じ位のバリトンの声の男が言った。
そして、2人に羽交い締めにされた。
(もしかして、追い剥ぎ?)
「兄貴。こいついい格好してままっせ。もしかしたら、貴族令嬢かもしれないぞ」
まずい、貴族令嬢だとわかってしまえばすぐには解放してくれない。まかり間違えば命も狙われる。
アーデルヘイトは神に祈った。
「あるものはみんな盗れ! 高貴なご身分の姉ちゃんなら絶対に何かしら持っているはずだからな」
身体中触られた。そして、服まで引き剥がされた。
「誰か助けて!」
「騒ぐんじゃねぇ。騒いだら殺すぞ」
体格のいい男が喉元にナイフを突きつけてきた。
後ろのポケットをまさぐられた。
「兄貴~。こいつ、こんなもの持っていやがったで」
「それは」とアーデルヘイト。
婚約指輪だった。
「だから、騒いだら殺すぞと言っただろ」
体格のいい男に胸ぐらを掴まれた。
「それはいいねぇ、取っておけ」と体格のいい男。
婚約指輪を取られてしまった。
男は婚約指輪をポケットに入れた。
男たちはふと横を見た。アーデルヘイトも横を見た。
行商人と思しい中肉中背の男がやってきた。
「そこのお前ら! 今何を盗った。返せ!」
行商人が馬車から降りてきて、刹那男の一人を蹴飛ばした。
男は一瞬宙に待って雪の上に転げ落ちた。
「何するんだ!」
もう1人の男が行商人に立ち向かっていった。左手が解放された。行商人はまたしても男を蹴飛ばしてしまった。
「やるのか?」
体格のいい男。
「やるならやってみろ」
と言って行商人は袖を捲くった。腕は物凄いコブのような筋肉だった。
「やろー」と体格のいい男が行商人にかかっていった。しかし、あっさりと蹴っ飛ばされてしまった。
皆、蹴られた箇所に手を当てて息を切らせている。
「さあ、盗ったものを返せ!」
黒ずくめの男たちは婚約指輪を投げ出した。
「この行商人め。そのツラ忘れないからな」
そう言って男たちはその場を立ち去ってしまった。
婚約指輪はそのまま放物線を描き、雪の上に落ちた。
「ありがとうございます」
アーデルヘイトは行商人にお礼を言った。
「しかし嬢ちゃん。見たところ随分と高貴な身分に見えるけど、どうしてこんな夜に外を一人で歩いているんだ?」
本当の事を話そうか迷った。しかし、素直に話すことにした。
「家族と軋轢が生じてしまいまして、家を出ることになりました」
すると、行商人は捲くった袖を元に戻し、言った。
「それで、一人うろついていたんだな?」
「はい」
すると、行商人は指輪を拾い上げた。
「この指輪、大切なものなんだろう?」そう言って指輪を渡してくれた。アーデルヘイトは両手で指輪を受け取り「ありがとうございます」と再度言い頭を下げた。
「この先どこに向かおうとしていたんだね?」
「ミディールです」
そう言うと行商人は「家を出てミディールに行こうとしていたんだな?」
「はい」
「まさかとは思うが、きみはオルウェン公の?」
わかってしまった。
「そうです」
思い切ってカミングアウトしてしまった。
「そうか。流石にそれじゃあオルウェン領にはもういられないな。丁度私もミディールに行く用事があったんだ。偶然は必然だ。ミディールへ送って行こう。女子供がこんな時間に外をほっつき歩くのは危険だからな。またさっきみたいに追い剥ぎに襲われたら大変だ」
「いいんですか?」
アーデルヘイトは半ば遠慮気味に言ってみせた。
「構わない」と言って続けた。「しかしらミディールに行っても行くとこあるのかい?」
「それがありません。野宿をしようと思っていました」
行商人は目を閉じながら首を左右に振った。
「野宿なんかダメだ。今しがた怖い思いをしただろ?」
「はい」
アーデルヘイトは下を向いた。宛もない旅になるはずだった。泊まる場所も行き当たりばったりになる予定だった。しかし、聖女としての経験があるから、街中の診療所で聖女として仕事をしようと思っていた。
「ならば私の家に泊まるとよい。それから今後どうするかを決めると良い」
アーデルヘイトは行商人に婚約指輪を差し出した。
「お代はこれで支払います。私、無一文なんです」
しかし、行商人は首を左右に振った。
「お代などとんでもない。さあ、馬車に乗った」
促されるままに馬車に乗った。
アーデルヘイトが馬に乗ったのを確認すると、行商人は馬車を走らせた。
「私の名前はウィルマだ。ミディールに住んでいる。きみは?」
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