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魔法の教師クリストフ

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クリストフは教室の前で立ち止まった。

「何!? サーラが淫売していただと? 本気で言っているのか、リー」

「はい。ブリジットがそう言うのだから、本当の話です」

肩まで伸びたブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳、高い鉤鼻に長い首。

まるでどこかの国の王子様にいそうなタイプだ、とサーラは思った。

しかし、クリストフは学園の教師であり、王族とは関係が無い。





「ブリジット!」

クリストフは教室に入ってきた。

「はい」

「史学の時間なのはわかっている。でもね、嘘を垂れ流すのは関心できない」

「嘘では無いです。サーラはアーチュウ殿下に淫売していたんです」

「その証拠は?」

「それはアーチュウ殿下がサーラと婚約破棄した事です」

「しかし、きみにはアドンという婚約者がいたでは無いか」

「あんな豚、誰が婚約を結ぶと思っているんですか?」

ブリジットがそう言うと、コレットが鼻を上に持ち上げ、ブヒブヒと言った。

すると、教室中が笑いの渦に囲まれた。

アドンは両手で顔を覆った。

「やめてくれよ!」

アドンが立ち上がった。

「ねぇ、クリストフ先生。授業の邪魔するの、やめてくれませんかね?」

「いや、嘘を見破れないリー。お前にも責任がある!」

「だが、クリストフ先生。クラスの大半がブリジットの味方なんですよ? 多数決です。ここはサーラが真っ黒というわけだよ」

クリストフは首を左右に振った。

「違うね。なぜアドンと婚約が決まっていたブリジットがアーチュウ殿下と婚約するんですか?」

「それは仮のちぎりだったんでしょうが」

リーは白い歯を見せながら、両腕を顔の前で振っている。

「挙動不審だな、リー」

「じゃあ、多数決を取る!」

「多数決ではない。でっち上げだ」

「何がだ? 何でお前が正しいんだクリストフ先生」

リーはクリストフに掴みかかった。

「キャー」

クラスの女子が悲鳴をあげた。

「ねぇ、みんな。多数決とらない?」

ブリジットが突如言い出した。

「賛成! これでサーラが淫売していたかジャッジをしましょう」

と、コレット。

「私は潔白だ」

クラスの半数以上が手を挙げた。

「じゃあ、サーラが潔白だ」

誰も手を挙げない。

カミーユが顔を伏せている。

「これで決定ね。サーラは淫売していたのよ。これ見てわかりますよね。リー先生。クリストフ先生」

クリストフは手を2回叩いて言った。

「証拠の無い、事実無根のでっち上げだ。私にはわかる」

「ふぅ~ん。クリストフ先生。魔法音痴のサーラを庇うんですか」

クリストフは再び首を横に振る。

「一番の被害者はきみが婚約破棄したアドンだ」

アドンは今にも泣きそうな顔をしていた。

「でも、あんな豚と誰が婚約をするんです? クリストフ先生もよく考えて下さいよ」

「豚と揶揄しているけれど、アドンは入学時にはスリムだったぞ」

ブリジットは手を挙げる。

「確かにそうです。しかし、レニエ家は肥満の家系です。アドンは私と約束したんです。絶対に太らない、と」

「それで太ったからって易易と婚約破棄したのか。随分身勝手だな」

ブリジットは手を挙げた。

「身勝手ではありません。約束を破った方が悪いのです」

「だからクリストフ先生、授業の妨害をするのをやめてくれませんかねぇ」

「だったら話は早い。この話は校長先生に話をさせてもらう」

「校長に言う? それはこちらの台詞だ。娼婦が学園になれば退学処分にもなりえるからね」

サーラは退学の二文字を頭に浮かべた。

ブリジットのデマで退学に?

冗談では無い。


「娼婦はやはり退学ですよね、リー先生」

ブリジットはまたもや勝ち誇ったような仕草をした。

「こんなのガセだと私にはわかる。アーチュウ殿下とサーラは許嫁だったんだからね。アーチュウ殿下に淫売していたなど普通に考えても嘘に決まっているだろ!」

そこへアドンが手を挙げた。

「俺はブリジットに婚約破棄をされました。まるまると太ってきたから……が理由です。サーラが淫売などするわけがありません」

「おやおや、アドン。きみまでサーラを庇うのかね?」

リーは意地悪そうな顔をしてアドンを見た。

「嘘を信じるなど教師としてあるまじき事だと思います」

アドンはそう言うと、目を真っ赤にし、泣き出した。

サーラも黙ってはいなかった。

「アドンの気持ちにもなって下さい、リー先生」

リーはフッと笑った。

「サーラ。きみはアーチュウ殿下に愛想つかされた原因があるから婚約破棄されたのではないか? アドン、お前もそうだろう?」

ブリジットはずれ落ちたメガネを上に上げた。そして、コレットと二人で笑っている。

アドンは依然泣いている。

「これはサーラの退学がかかっているんですよ、クリストフ先生」

リーは再びほくそ笑みを見せた。

「サーラは退学させない!」

「魔法ができないサーラを庇うのかね? 魔法ができない人間を魔法の教師が庇護する? そのお人好しぶりには閉口しますよ」

「魔法ができないのと悪い噂は別物だ! 私は針のむしろの渦中にある彼女、そしてアドンの味方でいたい」

「ふふっ。クリストフ先生。最後はあなたが首を括る事になるかもしれませんよ」

「サーラの潔白を明らかにしたい」

そう言ってクリストフは去っていった。

「えへん。さあて。授業だ。とんだお邪魔虫が来たせいで時間を奪われたな」

授業は始まった。
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