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不思議な釜

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「魔法の『釜』というのがあります。釜を上手に扱えば、欲しいものが手に入ります」

魔法釜の担当のスーザン先生。低いアルトの声でゆっくりと話す。

「魔法の釜だってよ。サーラが扱うと何が出てくるかしらね」

と、ブリジットが聞こえよがしに言ってきた。

「サーラ。気にしちゃいけないわ」

カミーユがフォローする。

「大丈夫よ。カミーユ」

「ブリジットなんか相手にしていたら負けだね」

と、アドン。

「では、手始めに中から傘を取り出してみましょう。これはこうして『アザーラ・ドリファイン』」

すると、紫色の傘が出てきた。

「色は欲しい色が出てきますからね。では、試してみて下さい」 

アドンが呪文を唱えた。

「わ! 黒い傘が出てきたぞ」

「アドン。あなたは流石ね。次はブリジット。あなたがやってみて」

ブリジットは呪文を唱えた。

すると、桃色の傘が出てきた。

「成功ね。次はサーラ。あなたがやってみて」

サーラは呪文を唱えた。

緑色の傘が出てきた。

「うん。成功ね」

確かに成功だ。

エレメント魔法は苦手だが、この魔法は難なくこなせるらしい。

「次はコレット。あなたがやってみて」

コレットは魔法を唱えた。

すると、赤い傘が出てきた。

「恋する乙女のハートは赤い。そうよ。燃えるような色ですもの♡」

コレットはいつも通り気取っている。

「では、ハロック。やってみて!」

平民でドジなハロックが呪文を唱えた!

すると……。




灰色の傘が現れた。

ハロックは傘を広げた。

傘は穴だらけだった。

それを見るなり、ブリジットは笑いだした。

「ハロック。笑わせないでよ。あなた穴だらけの傘で濡れて帰るつもり?」

「あははは。流石は間抜けのハロック!それでブリジットに言い寄るなんて身の程知らずだわね」

コレットも大笑いをしている。

実はハロックはブリジットの事が好きだった。

ブリジットがアドンと一緒になったのを聞いてショックを受け、寝たきりになった事があった。


パンパン!!

スーザンは手を打った。

静まり返った。

しかし、またコレットが笑いだした。

「コレット! お静かに!」

ハロックは再び呪文を唱えた。

すると、釜から火が出て、釜は燃えてしまった。

「くっそ~!」

ハロックは大声を上げる。

「静かに!」

「マッハロー・ヴァッキャロー」

スーザンが呪文を唱えると、釜は元に戻った。


「ハロック! 釜を燃やすなんてサーラ並みね」

サーラは一瞬心臓が高鳴った。


「うるせぇ、コレット! 俺はサーラと違ってエレメント魔法は得意だ!」

「あははは。もしかしてハロックとサーラってお似合いじゃないの?」

コレットは最高の悪役を買って出た。

緑色の長い髪を手ぐしでとかしている。


「サーラとお似合いだと!? あんなヤツ、お断りだね」

サーラはまたしてもドキッとした。

ハロックに圏外にされてしまったが、然程ショックではなかった。

むしろ、アーチュウから婚約破棄をされた方がショックだった。

「何だよ。アドンと婚約破棄したくせに!」

「うるさいわね。あなたに関係無いでしょ!?」

ブリジットが机を叩きながら立ち上がった。

「確かに関係無いけど……。でも、俺は……」

「ブリジットの事が好きだった……ってワケね。でも、あなたなんか見向きもしないわね。今はもっと高貴な方と婚約しているから」

「知ってるよ。もう日取りも決まったんだろ?」

平民のハロックでさえも知っていた。

こうして、魔法釜の授業も喧嘩で終わるのだった。
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