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隣国の王子

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クリストフ先生が記憶を取り戻し、隣国ヌヴェール王国の第一王子ヴィクトルという事が正式に判明した。

サーラはクリストフ先生、もとい、ヴィクトル王子より晩餐会に呼ばれた。


晩餐会は王宮で行われる。

ある晴れた初冬の日だった。


クリストフ先生がヴィクトル王子である事をサーラは未だに信じられない。

クリストフ先生はクリストフ先生だ。


すると、クリストフ先生が現れた。

「サーラ。ようこそ!」

「改めまして。ヴィクトル王子殿下」

「いやいや、クリストフで良いよ。きみはずっと僕をクリストフ先生と呼んでくれたからね」

「はい。クリストフ先生」

「私は記憶を失っていた。そう。ある日私は自分の起こした雷に打たれたんだ。そこで記憶を失ってしまったんだ」

「そうだったんですか」

「そこである聖女に助けられ、傷は回復した。でも、記憶だけがどうしても戻らなかった」

「でも先生」

「なんだい、サーラ」

「先生はどうして王立学園で先生としていたんですか?」

「それについてもだけど、私を助けてくれた聖女がブルボン王国の王室専属の聖女だったんだ」

「そうだったんですか」

「そして、その聖女が僕に王立学園で教師をするように勧めたんだ」

「それでね」とクリストフは続けた。

「魔法の記憶だけはなぜかあって、『私、魔法ができます』と言ったんだ。そして、魔法の教師として赴任する事になったんだ」

なるほど~とサーラは思った。

「実はね、この晩餐会にはレニエ夫妻も招待したんだ」

と、そこへアドンとカミーユが現れた。

「あら、サーラじゃないの」

ピンク色のドレスに身を包んだカミーユがいた。

「こんにちは」
と、アドン。

「カミーユたちも招待されていたの?」

「勿論よ。ね」

「サーラ。君に伝えたい事がある。晩餐会で発表したい事がある。だから、サーラ。きみは僕の隣に座って欲しい」

と言ってクリストフは踵を返した。


いつにも無く格好いいクリストフ先生にサーラはますます惚れ込んでしまった。

それにしても、晩餐会で発表したい事って?

なぜ、隣に座るの?

サーラは一瞬迷ってしまった。

「クリストフ先生の隣に座れるなんてサーラは要人だったのね」

「い……いや……私もよくわからないの」

「クリストフ先生がサーラの事を気に入っていたんじゃないかな」

アドンの声は相変わらず野太い。

「アドン」

「それにしても、カミーユとアドン。幸せそうね」

未だに独身でいる事にサーラは劣等感を抱いていた。

しかし、親友が結婚したのだから、祝福はしていた。

「私たちは幸せよ。ね、アドン」

カミーユがそう言うと、アドンは照れくさそうに両手の人差し指を回していた。

「勿論、幸せだ。カミーユ」

二人は体をぴったりと寄せた。


「ブリジットなんかと一緒にならなくて良かった。ブリジットは今、ハロックに付き纏わられているな」

「そうね。ブリジットと婚約破棄になったからこそ私は結婚できた」

「カミーユ」

「なあに、サーラ」

「カミーユは次期レニエ侯爵夫人としてふさわしいわ」

「ありがとう、サーラ」

確かに、アドンはブリジットと婚約破棄をして良かったのかもしれない。

アドンはカミーユと一緒なら絶対にしあわせに決まっている!!


そのブリジットはクラスのダメンズ、ハロックから一方的に言い寄られていて、しつこくされている。


ハロックの事はサーラも苦手だった。

何もできやしないのに、「僕が僕が」という押しが強かった。

いわゆる、病的に自己主張の強い男だった。

そのハロックにストーカーに遭っているなど、因果応報だ。

しかも、アーチュウにも婚約破棄されたのだ。

無様な姿をサーラはそっと見守っていた。

そして、アーチュウは二度目の婚約破棄という事で王籍離脱を余儀なくされた。

二人共、やはり罰が当たったのだ。

「アドン。カミーユをこれからも宜しくね」

「勿論さ」


そして、晩餐会が始まった。

「サーラ。約束通り僕の隣に座って欲しい」

サーラは首を縦に振った。

クリストフ先生の隣に座れるなど願ってもいなかった。

サーラはクリストフの左隣に座った。

その隣には王冠を被った金髪の男性が座った。恐らく国王だろう。

さらにその隣には金髪を巻いた女性が座っていた。

レニエ夫妻はテーブルの端に座っていた。


「では、我がヌヴェール王国の繁栄を願って晩餐会を行いと思います」

王妃と思える女性の隣に座ったちょび髭の太った中年の男性が司会者のようだ。

「では、ここでヴィクトル王子より発表したい事があります」

再びちょび髭の男性。

「はい。左隣にはサーラという女性がいます」

サーラは頭を下げ「初めまして」と言った。

「私はサーラと結婚しようと思いました」

突然の発表にサーラは心臓が喉元から飛び出すような衝撃を感じた。

「サーラとはブルボン王国の王立学園で知り合いました。サーラは今、最高の魔法使いです」

万雷の拍手が鳴った。

「この通り。我が息子ヴィクトルがサーラ嬢との結婚を望んでいる。祝福もかねてこの晩餐会を行いたい」

国王らしき男性がそう言うと再び嵐のような拍手が鳴った。


サーラはカミーユの方向を向いた。すると、カミーユは優しくほほえみかけてくれた。
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