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国から追放 アーチュウ視点

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二度の婚約破棄より、兄であり国王でもあるダミアンより王籍離脱を言い渡されたアーチュウ。

アーチュウにすれば、理不尽極まりなかった。

なぜなら、ブリジットが浮気をし、浮気相手からストーカー行為に遭っていたからだ。

浮気をしている人間とは必然的に婚約破棄だ。

ブリジットへの未練は無い。

ブリジットに付き纏っていた男と結婚すればいい。

かと言ってサーラとよりを戻すつもりもない。

サーラの魔法音痴は相変わらずに決まっている。姉のクロエとは似ても似つかない人物だ。


アーチュウは街中を徘徊している。

お金もダミアンに没収され、裸一貫になってしまった。


今日泊まる場所もない。

征く宛も無い。

北風が吹き付ける城下町は非常に寒い。

お腹も空いた……。


なぜこうならないといけないのだろう。

風は強く吹き付ける。

寒い……。

暖をとりたい……。


「しっ、ダメよ、近づいちゃ」

親子連れがこちらを見ている。

気づけば浮浪者だ。


食べ物が食べたい。

アーチュウは唯一の芸を持っていた。

笛を吹くことだった。

アーチュウは乞食を始める事にした。


アーチュウは城より笛だけを持ってきた。

笛を吹いた。

人が集まる。

「あれ? アーチュウ殿下ではありませんか。なぜこんなところで?」

一人の老人が話しかけて来た。


「実は王籍離脱を言い渡され、平民として生きる事を余儀なくされました」

「なぜにまた?」

「兄、国王の逆鱗に触れてしまい……」

老人は訝しげにこちらを見てきた。

「国王陛下がそのような命令を? 俄には信じがたい」

それもそうだろう。

ダミアンは温厚で知られているのだから。

「逆鱗? なぜにまた」

「二度目の婚約破棄で……懲りない奴とみなされて」

「そうだったのか。それにしてもせめて爵位だけでも」

「それも無理みたいです」

アーチュウはため息をついた。

風が頬を掠める。まるで、頬を打たれたかのように冷たい。

「アーチュウ殿下!」

次は小太りの中年女性だった。


「アーチュウ殿下。平民に身を下げてしまったのですか?」

「そうです」

「泊まるところはあるのですか?」

「いや、今夜は野宿です」

「うちへ泊まっていけばどうです?」

しかし、アーチュウは首を振った。

「いや。私は王族の身でした。やはり、裸一貫から始めようと思い」

「そうですか……それは残念です」

「でも、せめて食べ物だけでもください。お腹がとても空いているんです」

すると、女性は一斤のパンをくれた。

「恩に着ます」

そう言って矢継ぎ早にその場を後にした。


今夜は野宿だ。

月が空に昇った。

冬に野宿をするなど考えた事が無い。


寒い。

風も相変わらず強い。


――もう、俺は平民なんだ。

王族では無いんだ。

爵位ももらえなかった。



サーラとブリジットの二人が悪いんだ。

俺は何にも悪くはない!!

アーチュウは地団駄を踏んでいた。
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