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舞踏会

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リンジーはマックスより舞踏会に招待された。

今回は特別に友人のキャサリンも招かれた。

とはいえ、キャサリンの母親は元男爵令嬢。

しかも、男爵家の中で一番裕福な家柄だった。



夕方、リンジーは王宮に着いた。王宮までは勿論馬車だ。


キャサリンは王室が特別に用意した馬車で来た。


「あ、キャサリン」

キャサリンは髪を上に上げていた。

しかも、ピンクの花柄のドレスだった。

ドレスは豪華でところどころ宝石が散りばめてある。

「リンジー。もしかして私のドレス、気になる?」

勿論気になった。

「これはね、お母様のお下がりよ」

と言ってドレスをたくし上げた。


「キャサリン。似合うよ!」

「本当に!? ありがとう」

キャサリンは屈託の無い笑顔を見せた。

そこへ、な、なんとリンジーの初恋の人が現れた。

初恋とは言っても片想いだったが……。


「やあ、君はキャサリンだね?」

現れたのは青い髪に青い瞳の男性。時々目を細める仕草を見せる。


「もしかして、ヤン様ですか?」

侯爵ご令息のヤンだった。

初恋の相手であり、失恋した相手。


「キャサリンお久しぶりだね。まさかキャサリンがこの舞踏会に来ているとはね。そのドレス似合うよ」

ほら始まった。ヤンの十八番。キャサリンを褒める。

「ありがとうございます。実はマックス王子殿下のご厚意でこの舞踏会に参加させていただきましたわ」

「そうか。じゃあ、もし良かったら僕と……」


「でも、ヤン様は既に婚約者がいるはずでは?」

「それが残念ながらいないんだな」

え!?


ヤンも結婚適齢期だというのに、いつまでも独身でいる。

「一身上の理由で僕は独身なんだ」


一身上の理由で……。

まさかヤンも身分差の恋?

リンジーはつい伯母の事を思い出してしまった。

いや……まさか病気!?

病気なら、舞踏会なんか来ている場合ではない。静養していないと。

違う、とすぐにわかった。

病気なら顔色が悪いからだ。


「やあ、アボット家令嬢のリンジー」

「あ……はい、ヤン様」

「みんな僕の事はヤンで良いんだって。学園時代の同級生だろ?」

「でも……。わたしは平民だし」

キャサリンが萎縮した。


「キャサリン。身分なんて関係ない。しつこいようだけど、僕らは同じ教室で机を並べた仲だ」

「確かに……そうですが」

「キャサリン。気楽にやりましょ」

リンジーはフォローした。


「でも、ヤン。本当に私と踊って大丈夫なんですか?」

「なあに。関係ないさ。僕は王侯貴族が王侯貴族に縛られるのはおかしいと思っている。だから、リンジーの伯母上が平民と結婚できないから独身でいるのもおかしい気がするよ」


ヤンはもしかしてやはり





キャサリンが好き?



もう半分告白しているようなもの。


「ヤン、もしかしてキャサリンの事……」

リンジーは思わず聞いてしまった。


「好きだよ。だって友達じゃないか」





友達止まり






「キャサリン。さあ、今夜は二人で踊ろう」

そこへ、マックス王子が現れた。





マックス王子に肩を叩かれた。


「リンジー。話がある」


「はい」





「リンジー。今日は来てくれてありがとう。今日はサイラスとイベイラ夫人は参加していない。きみと婚約破棄し、王侯貴族や国民を裏切った張本人なんだからね」

「はい」

「やはり、僕が弟の尻拭いをしないといけない。きみの父上にも世話になっているからね。もし良ければ今宵は僕と踊って欲しい」


マックスは手を差し伸べてきた。


え!?


リンジーは固まってしまった。



「きみの今までのポジションはサイラスだった。しかし、サイラスはきみと恣意的に婚約を破棄した。それは到底許される話ではない。さあ、リンジー」

再度手を差し伸べてきた。

リンジーは手を握った。


「はい。お言葉に甘えて」

「リンジー。ありがとう」


胸が高鳴った。


「ちなみに、サイラスとイベイラ夫人の結婚は一応認める」

「どうしてですか?」

「あの二人にはけじめをつけてもらいたいからさ」

「どうなるんですか、二人は」

「それ相応の処罰は受けてもらわねばならないな。ま、なんせ婚約破棄の上に不倫が乗っかるとなると」


「まぁ、そんな事は気にせずに今宵は楽しもうではないか」

と言って肩に手を乗せてきた。


「実はキャサリンを招待した理由だけどな」

「わたくし、それ気になっていました」


「最近、ヤンが不機嫌だったんだよ」

「そういえば、今まで舞踏会も晩餐会もお茶会も欠席していましたね」


「僕は噂に聞いていたんだ。平民の女性を愛していると」

やはりそうだったのか……と思った。


「ヤンがキャサリンの事を好きなのは知っていた。というのはヤンはキャサリンを探して街中を徘徊していたみたいだからね」

「そうだったんですか」

「そう。ヤンは次期カミュ侯爵当主。そんな彼がいつまでも独身でいるのもどうかと思ってね。ご機嫌取りさ」

マックスはウインクをした。


「この前は絵が王侯貴族に評価されているから……と言っていましたが」

「うん。それは建前さ。ヤンの願いを叶えてあげようと思ってね。それにキャサリンは平民だけど、母上が男爵令嬢だからね」

「じゃあ、身分差の結婚は許されるんですか?」

「場合によりけりかな。でも、ヤンがいつまでも独身を決め込んでいるのもキャサリンが好きゆえ。そこで好きでも無い女性と結婚するのも不本意でしょ?」

「そうですよね」

確かに好きでも無い異性と結婚するのはリンジー自身も不本意だ。

「それに、キャサリンに会ってあんなに喜んでいるヤンを見たのは初めてだからね」

ヤンはやけに嬉しそう。

いつも不機嫌そうな顔をしていたのに、それが雲散霧消していたのだ。

「そうですね」

「じゃあ、今夜は楽しんでね」








舞踏会は始まった。


キャサリンはヤンと踊っている。平民だというのに、ダンスは上手だ。

ヤンも笑顔だ。


リンジーはマックスと踊っている。





マックスは寡黙な人柄であるはずが、なぜかリンジーの前ではよく話すようになった。
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