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スピード結婚

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お茶会が王室主催で行われた。何でも重大な発表がある、貴族の慶事ができたとの事。

リンジーはお茶会にマックス王子より呼ばれていた。


「リンジー。来てくれたね」

「はい。マックス王子殿下」

「今日は大切な事を伝えなければいけなくてね」

「大切な事……ですか?」

リンジーは甚だ見当がつかない。

大切な事? 心当たりが無い。

「実はきみの友人だよ」

「キャサリンの事ですか?」

「そうだよ。詳細は本人の口から直接聞いて欲しい」

キャサリンが!?

一体何の話!?


そこへドレス姿のキャサリンが現れた。

ドレスは以前の舞踏会の時に着ていた母親のお下がりのドレスだった。

キャサリンはドレスをたくしあげ、

「リンジー。ごきげんよう」

と言った。


「キャサリン!?」


しかも、キャサリンの左手指にはキャサリンの誕生石がはめ込まれた指輪が光っていた。

「キャサリン。これは一体どういう事なの?」

その横にヤンがいた。

「実はね、私達、結婚する事になったの」

え!?

リンジーには事がイマイチ呑み込めていない。

「なんか……随分と早い事」

「実はね、リンジー。ヤン様に猛烈にアプローチかけられて断れなかったの。それで、成行きに任せたら、こうなっちゃって」

キャサリンがこれ以上無い笑みを浮かべた。

「そうだったんだ。おめでとう、キャサリン、ヤン」

リンジーは心から祝福した。



「「ありがとう」」


「って事で乾杯だよ、リンジー」

ヤンがコップをリンジーの方に差し出した。

「はい。乾杯」

リンジーもコップを差し出した。

「それにしても、ヤンもお早い事」

「学園時代からキャサリンの事が忘れられなくて他の女性と結婚するのが憚られたんだよ。このままなら一生独身でも良いって」

余程キャサリンの事が好きだったのだろう。

ヤンはコップに入ったワインを飲み、続けた。

「身分差の結婚だから、確かに反対された。でも、キャサリンの母上は男爵家の中でも名家の出身。それが結婚の決め手になったんだ」

そして、もう一度ワインを口に含み、さらに続けた。

「それでも反対はあった。でも、僕を尊重してくれるって母上が言ってくれたから、キャサリンと結婚する運びとなったんだ」

そう言うと、ヤンはニコリと笑顔を見せた。

「ヤン……本当におめでとう」

「それと、リンジーに謝りたい事があるんだ」

「何ですか?」

リンジーは何の事だろう? とキョトンとしてしまった。

「学園時代、きみを何度もふってしまったね。それはキャサリンの事が好きだったからなんだ」

「そうだったんですか」

「リンジー、ごめん。そんな僕を許して欲しい」

と言って土下座をしてきた。

何だか心のしこりが取れたように感じた。

リンジーは勉学が優秀でスポーツマンタイプだった彼の事が好きだった。

背が高くてスラっとした体型。

「土下座までしなくても……」

「いや、僕はどうしても……」

「じゃあ。その代わり条件がありますわ」

リンジーは条件提示をする事にした。

「何でも聞くよ」

「キャサリンをしあわせにしてあげて。キャサリンは私の大切な親友なのよ」

「絶対にしあわせにするよ」

キャサリンは横で微笑んでいる。

「キャサリン。良かったわね」

「ええ。だから、リンジーも早く良い人見つけて結婚できると良いわね」

キャサリンがいつにも増して幸せそうだ。

「ヤン。次期カミュ家当主だというのに、一生独身を決め込んでいたなんて……」

「ほら。リンジーの伯母上もそうでしょ? 平民男性を愛してしまい、未だに独身では無いか」

ヤンは勿論、伯母の事は知っていた。

伯母はやはり学園で平民男性と知り合い恋仲になった。

しかし、身分差の結婚が認められなかった。

伯母は今でもその男性と密会している。


母親の実家シモン家は厳しい。

リンジーの祖父母が厳格な人柄で、断固として結婚を認めなかった。

そして今では伯母の弟で母親の弟、つまりリンジーから見る叔父が現在のシモン家の当主。

叔父もまた、頑なに結婚を認めないのだ。

伯母はそれで良いらしい。

とはいえ、伯母が当主では無いのでのんびりとしていられる。


ところが、ヤンはそうはいかない。

次期カミュ家当主。

ヤンには弟がいない。

カミュ家は男系男子だけが継承者となれる。

だから、ヤンは何があっても結婚しなくてはならない。

「僕はカミュ家を滅ぼすのか……と言われたよ」

ボソリとヤンが言い出した。

「カミュ家は700年以上連綿と続く侯爵家。その歴史に終止符を打つのかって」

「でも、キャサリンと結婚できるのだから、良かったじゃない」

「そう。だから、譲らなかった。平民女性を愛してしまった事を」

700年以上も続く伝統のある名家。その家をヤンの代で終わらそうとしていたのだから、余程キャサリンが好きだったのだろう。

ヤンの顔は真っ赤だ。


「これでまだまだ続くんだ。カミュ家はね」

と、そこへマックス王子が入ってきた。

「そういう訳だったんだよ、リンジー」

「マックス王子殿下」

「あれぇ!? マックス王子殿下とリンジー、お似合いなんじゃないの!? だって寡黙な王子殿下。リンジーの前ではやけに多弁じゃないですか」

と、ヤンがおちゃらけていた。

酔っ払ってしまったのだろう。

「や、やめてよ。変な冗談は止してよ」

リンジーは両腕を前に突き出して、左右に振った。

しかし、マックス王子は

「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」

と返した。


リンジーはマックスは社交辞令が上手なんだな、と思った。
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