いと高きところに

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参 Hosanna(救い給え)

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1.


 期末考査の結果は散々だった。総合評価の順位も中等部から一貫して一桁台を逃した事が無かった真由は 21位という結果に眩暈がした。各学年、考査の総合評価 50位まで貼り出しという形で公開されるので、彼女は多くの人間から心配される身の上となってしまった。

「皆様、寄ると触るとお姉さまの噂ばっかり。お気になさらないでくださいまし」
「いいのよ、結果は結果ですもの。来学期に挽回する事にしますわ」

 後輩にまで気を使わせるなんてと、苦く笑う。しかし、一番厄介だったのは大人への対応だった。担任の教師だけでなく、真由は校長であるシスターにまで呼び出されて辟易した。
 人が良さそうな顔つきと体型の校長は穏やかな物腰で何か生活に変化はあったのかと尋ねてくる。彼女は柔和な受け答えで人の油断を誘うが、実際のところは百戦錬磨の卓越した慧眼の持ち主である。その事を直接的にも間接的にも知っているので、真由はなんとか彼女の追及をかわす事が出来た。


「一体、どうしたの? そもそも考査前にご友人宅に無理やり押しかけて勉強される事自体、非常識です。おかげで貴方はせっかくいらした栄治さんともお会いできなかったのでしょう?」
 真由を単純に責める母親には娘として正直がっかりした。出張で家を留守にする事が多い父親には何も期待してはいないが、日々を共にする母の目が節穴である事は嘆かわしい。しかし、同時に御しやすくて大いに助かった。

 真由は考査前の週末、三日間家から離れて過ごした。友人宅へ宿泊という体裁を整えたが、実際にはネカフェに三泊してしまった計算となる。我ながらバカな事をしたとは思っている。慣れない事をしたせいで、体調がガタガタになり、結果的に勉強にも身が入らなかった。親に制止されたにも関わらず断行したので、母親の怒りを買った。悪い事ばかりだったが、他に選択肢は無かった。従兄弟が近くに来ると考えるだけでも耐えられなかったのだ。

 ビジネスホテルに宿泊するという選択肢もあったのだが、実際に1人で泊まろうと考えて調べてみたが、どこがいいのかわからない。ホテルの前まで行ってみたが、思ったよりも雑多な雰囲気に呑まれ、フロントまで足を運べなかった。我ながら、妙に箱入りである事を期せずして証明してしまった。
 では、馴染みのホテルならと品川に行ってみると、親の知り合いに出くわしそうになって慌てて離れた。こんなに世間は広いのに、なぜ数少ない知り合いに会いたくない場所で会いそうになるのか本当にわからない。諦めて、入ったネカフェにシャワーまである事がわかり、結局、そこで夜を過ごす羽目になったのだ。当然、勉強などまともに出来なかった。
 栄治が滞在する日だけ家を空けると、変に勘繰られそうだったので、三晩家を空けた。しかし、彼はきっと気付いているだろう。逃げている自分が厭わしい。


 真由の月のものは考査初日に始まった。心配していたが、無事、生理が来たので彼女はほっとした。婦人科で処方してもらった「モーニングアフターピル」の副作用かもしれないが、予定より若干早めに始まった。
 後はこれから増えるかもしれない栄治の来訪時にどの様にして危険回避をするべきか、方法を考えねばならない。この時点において漸く、この様な下世話な事を相談できそうな友人を持っていない事に気付き、真由は少し落ち込んだ。

2.


 ホザンナは宗教的には神を讃美する言葉だが、語源は『救い給え』の意味のヘブライ語と研究者英和辞典などには記載されている。要は、「今、救って下さい!」という強い懇願の言葉だったと考えるべきだろう。


 聖なるかな、聖なるかな、
 聖なるかな、万軍の主なる神。
 主の栄光は天地にみつ
 天のいと高きところにホザンナ。


 宗教とは結局は救われたいという依存の文化なのかもしれない。しかし、それがあの聖歌「感謝の讃歌(Sanctus)」の様に美しいものにまで昇華してしまえたとは全くの驚きだ。ミサでこの聖歌を耳にする度に真由は陶然とする。なんと美しい旋律なのだろう。
 そして人間とは何と救いようの無い生き物だろうと憮然とする。わかっていて、間違った方向に突き進む。聖なるものから最も遠い存在である事にうんざりする。きっと、だから、人間は聖なるものに憧れるのだろう。


 考査の後から、真由は好んで外に出るようになった。校則に反するから、マリア様の教えに背くからと、今まで意識的に避けていた「濁」なるものに近づく様になった。
 化粧品のセットと着替えを入れておく為のロッカーが彼女の新たな友となった。優等生である事は彼女を「濁」なるものから守ってくれなかった。では、自分から進んで交わればどうなるだろうか。何も知らない事は罪悪でさえある事をこの年齢にしてやっと彼女は学んだ。

 外で知り合う人間から少しずつ、自分に欠けている物を補充していく。誰でも知っている筈なのに真由だけが知らない情報の何と多い事だろう?
 狭かった自分の世界。まだ遅くない。今からでも吸収していけばいい。同じ年頃の少女達。少し年上の大学生。今までとは違うタイプの人との会話は刺激的で新しいものを次々と発見していく。それは楽しい時間でもあった。
 少しばかりの運のよさ、未知の物に対する臆病なほどの自己防衛本能、高いプライドと向こう見ずな物言い。そういった矛盾するものがミックスされ、「マユ」、つまり真由は1人で行動しているにも関わらず、その頃、比較的安全に歓楽街を泳ぎ回っていた。

 日常と背中合わせに存在する落とし罠みたいな物はどこにでも存在する。真由が幼い頃から過ごしていた自宅の部屋にでさえもそれはあった。そういった「罠」は結果的に悪くないものもあれば非常に悪いものもある。経験が増えると、意識的に回避できる類の「罠」も増えてくるだろうが、大概の場合、それは苦い経験で覚える。

 人との出会いもその一つとなり得る。

3.


 その人に真由が気付いたのは2度目だった。

 最初に出合った時は、彼女が迷惑をかける形で始まったが、彼の何かが癇に障り、先方に対して失礼な形で別れた。後から彼とのやり取りを思い出す度に真由は赤面する想いだった。何て失礼で高慢な娘なのだろうと自分自身をなじった。
 彼の物言いは確かに少々乱暴でぞんざいだったが、彼女が行った無礼に対しては非常に寛大であったと記憶する。その彼の寛容さに対する自分の狭量で子供っぽい態度に深く恥じ入った彼女はもう一度彼に会えたら、丁寧に謝罪し直そうと心に決めていたのだった。
 出合ったお店には数回行ってみたけれど、残念ながら彼とは会えなかった。それより、女性一人でアルコールを提供する店に入ると、しつこく絡んでくる男性が多い事に気付き、しばらくは控える事にした。


 年が明け、1月に入った頃、ネットカフェで知り合った女性グループに誘われ赴いたクラブでやっと真由はあの男性を見つけた。

 暗い店内に煌びやかな照明。ダンスの為の音楽がうるさく、一緒に遊びに行った女性達ともまともに喋れない。いい加減閉口して、その店から退去しようかと考えていた矢先に目の前を通り過ぎた女性が急に嬉しそうに小走りになった。何とはなしに気を惹かれ、彼女が向かった先を見るとあの探していた男性が居た。

 探し回っている時にはなかなか会えなかった。諦めた頃に出会えるのねと、不思議な気分で真由はそちらに向かって歩き出し、そして、否応無く立ち止まらせられた。

「……つし、しばらく見なか……」
 何か口早に喋りながら、彼に抱きついた女性が熱烈に彼に口付けるのが見えた。

(えっ?)

 うるさい音楽が鳴っている店の片隅で抱き合い、重なっているシルエットが離れない。こんな場所で、近くに他の客が居る状態で、何をやってるのだろう?
 ふと、彼が視線を上げた。途端に自分と目があったのを感じた。彼は少し目を見開いて、そして彼女の背中に廻していた片手を上げて、手招きをした。

(なぜ?)

 驚きすぎて彼の思惑が理解できない。固まって、その仕草を見ている真由が動かないのに痺れを切らしたのか、その手はやがて降ろされ、抱き合っている女性のスカートの中に消えた。その途端、その女性が背中をしならせて飛び上がり、自分のスカートの中に侵入した手を外そうとしているのが見えた。しかし、彼に何かを耳打ちされると、諦め、更にしっかりと彼に抱きついた。

 真由はその場から逃げ出した。

4.


 真由が憎むと同時に克服したい対象はセックスである。従兄弟から受けた忌まわしい記憶しかない彼女にとって、あれは人生に必要なもの、素晴らしいものとは考えられなかった。あれは痛いもの、気持ち悪いものである。
 その彼女にとって、人前で平気で女性の身体に手を掛けるあの男性は諸悪の根源の代表選手の様に感じられた。全くもって、理解出来ない。恥ずかしいとか、はしたないという感覚はどこかに置き忘れてしまっているのだろうか?


 3度目の出会いは間を置かずにやってきた。最初に出合った店の近くを歩いている時にその店の路地裏から出てきた彼と不意打ちの様に出くわした。
「お、マユ。久しぶり」
「……こんばんは」
 お互いに連れが居なかったので、誤魔化して逃げる事も出来なかった。しかし、まだ自分の名前を覚えていてくれたのかという新鮮な驚きが真由を満たした。それは思いも寄らない嬉しい驚きだった。それと同時に彼に会いたかった最初の目的を思い出させた。

「あのしばらく前は大変失礼しました。ずっと謝罪しようと考えておりました」
「ん? 失礼? この間逃げた事じゃないよな?」
 真由は彼の顔を見ながら眉を顰めた。もしかして忘れられてる?
「初めてこの店の中でお会いしました時に飲みかけのドリンクを」
「あれか……」
 その男は可笑しそうに彼女を眺めた。
「生真面目だな。謝罪ならあの時にしてもらったよ。それより、中にはいろ?」
 目の前の店を親指で指しながら、彼は店のドアを開けた。
「え? 何で?」
 なぜ一緒に店に入らないといけないのだろう。断るにも既に店に入ってしまった相手にその場では話しかけられず、真由は諦めて彼の後を追った。

 まだ時間が早いせいか、店の中には他に客が居なかった。
「マユ、飯食った?」
「はい?」
 気負って店内に入った彼女は開口一番に尋ねられた内容に頭がついていけなかった。バーテンダーと会話をしていた男は口を「へ」の字にして返答を待っている。夕ご飯の事だろうか。
「はい。少し前ですが」
「そう? じゃ飯はいらないか。たっちゃん、俺の分だけ頼むわ。マユ、飲み物は何がいい?」
「ジュースで」
「ジュース? ここって飲み屋だよ」
「アルコールは極力控えております」
 彼は肩を竦め、バーテンダーに振り返る。
「ジュースある?」
「まあ、簡単なものなら。ドライバーとか?」
「いや、ただのオレンジでいいよ。マユ、オレンジジュースでいい?」
「はい」
「じゃ、俺はウーロンハイでいいわ。それより腹減った。頼んだよ」
 受け取ったグラスを二つ手にすると、その男は真由に顎をしゃくって、奥のボックス席に向かった。渋々、後ろについていくと、座るよう促された。

「んで、俺を探してたのってさっきの謝罪の為だったの?」
 席に座るなり、彼は質問してきた。
「え? 何でご存知なのですか?」
「ここに顔を出した時に一度あの男に俺の所在を聞いたでしょ? 名前も知らないのによーやるよな」
 真由は恥ずかしさで顔が熱くなった。名前を知らなかったから、確かに一生懸命にバーテンダーに説明したのを覚えている。しかし、まさか本人にその報告がされるとは思っていなかった。
「一目惚れかと思って期待してたのに……残念だなー」
「何おっしゃってるの?」
 思わずカッとなる。ちゃんとお付き合いをしている女性が居るのに、その様な事を平気で口にするその心根がわからない。世の男性は皆、こんなものだろうか?
「おいおい、何を怒ってんの?」
 目の前の男は驚いた様に真由を見ていたが、ふとその視線が逸れた。
「お待ちっ」
 いつの間にかカウンターから出てきたバーテンダーがテーブルの上にうどんが入った椀を置いた。なぜ、うどん?
「おお、感謝」
「感謝しろよ。俺の夜食用の買い置きだよ。今度何か奢れ」
 頷きながらその男は割り箸を割り、早速食べ始める。ふと、真由の視線に気付いた様に見返してくる。彼は人差し指を自分の口の前で立てながら、ニヤニヤ笑った。
「しーっ。これは秘密」
「メニューにうどんはなかったと思いますが?」
「ってか、まともに調理が必要な食べ物は置いてないよ、ここ。せいぜいつまみ程度」
 問いかける彼女の視線を受けた男はうどんのつゆをすすりながら笑った。
「お得意様サービスの裏メニュー」
「バカ言え! ただの我が儘だろっ!」
 カウンターの方からバーテンダーが叫ぶ。他に客が居ないせいか、言葉遣いもぞんざいだ。それを聞いた真由は可笑しさに抗えなかった。思わず、吹き出すと目の前の男はそれに気付いて笑った。
「笑うと可愛いじゃん……俺は敦。広田敦ってんだ。覚えておいて」
「敦さん?」
「礼儀正しい娘だな。さん付け? 呼び捨てでいいよ」
「でも年上と思いますので」
「かってー女! そもそもお嬢様の年齢も知らないのに、年上も年下もないべ」
 最初に出合った時の質問に対する当てこすりみたいだ。でも、実年齢をこんな場所で言うのも問題があると考える真由の頑固そうな表情を見た彼は困った様に笑った。

「融通が利かねー女。一々、相手が言う事を真剣に取合うなよ。流したらいいでしょ?」
「だって」
「この前もすぐ逃げちゃうしね。せっかく会えたから話したかっただけなのに」
 真由はパッと顔を上げた。そもそも、あの状態で人を呼ぶ方がおかしい。彼女の不満そうな顔に気付いた敦は口を歪めて笑った。
「もしかして、お邪魔とか思ったの? あんなのは挨拶だよ」
「そんな……」
 真由は絶句した。彼は今にも笑い出しそうな表情で彼女の顔を覗き込んでくる。
「そんなもこんなも、そうだから他に言い様もないし。愛の語らいだとでも思ったの?」
「はい、熱烈なものだと」
「ブッ」
 とうとう耐え切れないように彼は笑い出した。何故そこで笑う?
「何が可笑しいのですか? 人前であんな事をするなんて、よほど好きでないと」
「あんな事?」
 笑いを中断した敦が不思議そうに真由に問いかけてくる。覚えていないのだろうか?
「あんな破廉恥な……」
 スカートの中に入れられた彼の手を思い出した。とても言葉に出来ない。真っ赤になった彼女が黙り込んだのを見て、何を思ったのか苦笑交じりの言葉が降ってきた。
「まいった、純粋培養の箱入り娘? 目新しいけど、処女は神経質だね」
「違いますわ!」
 思わずカッとした。売り言葉に買い言葉とは言え、真由は自分の言葉に後悔した。今更後戻り出来ない。訝しそうに次の言葉を待っている敦に蚊の鳴くような声で呟いた。
「処女などではございませんわ」
「へえ?」
 自慢にもならない事を挑むような気分で訴えた彼女を面白そうに見る表情が少し変わった。彼は手にしていた割り箸を箸置きに置くと、そっと真由の手を取った。その無骨な指を彼女の指に絡めて撫で回す。
「それはそれは、男の味をご存知とは知らず、大変失礼致しました」
「わ! 私はっ」
 彼女は焦って彼の手を振り払うと立ち上がった。手元にあるバッグから財布を取り出すと紙幣を取り出そうとする。指先が震えていてうまく掴めない。やっと1枚取り出すと、彼の目の前に置き、叫んだ。
「私の分です。では、ごきげんよう、敦さん」
 慌てて、足早に歩き出した。まだうどんの椀を片手に持っていた彼が後ろから呼びかけているが、そんなものには耳を貸さず、彼女は店を飛び出した。


 一体、あの人は何なんだろう?
 なぜ、私は一々狼狽するのだろう?


 その日、逃げ帰るように帰宅した自分の部屋で真由は何度も何度も甦る彼の手の記憶に悩まされた。大きかった。節々が固く骨ばった指と深爪したように短く切られた爪。握りこまれた自分の手と全く違っていた。労わるように、嬲るように、そっと撫でてきた。自分の指を開かせ、その指の谷間も指先で擦られた。とてもいやらしい動き。
 そして、その様に触れられて、心臓が大きく鼓動した。思い出すのは、クラブでスカートに差し込まれた彼の手。あのスカートの下で一体、どこをどの様に触っていたのかと考える。触られた女性は何で大人しく触られ、彼にしがみついていたのだろう?

 頬が熱い。真由は立ち上がると、慌てた様に洗面所に入って鏡を覗く。鏡の中から耳まで赤くし、目を潤ませた知らない女が自分を見返していた。

5.


「逃げられちゃった」
「……るせ」

 バーテンダーはニヤニヤしながら敦を眺めている。

「一体、どこのお嬢? 1杯1万円のオレンジジュースなんて出してないよ」
「俺もしらねー。多分、間違って出したんじゃね?」
 憮然とした表情でうどんを食べ終わった敦はため息をついた。
「そもそも、払わせる気無かったのに……」

「敦さんが苛めるから」
「苛めてないって」
「まだ若い子だよね」
「そだな」

 手元のウーロンハイを飲み干すと敦はバーテンダーに声を掛けた。

「こんなに貰うわけにはいかないしな。たっちゃん、あの娘見かけたら携帯でも何でもいいから連絡方法聞いといて?」
「へいへい」
 敦はジロッとバーテンダーを睨んだ。
「何か言いたいの?」
「いや。いい理由が出来てよかったね」
「あに、こら。何、その訳知り顔? 超ムカつく……」

6.


 1月7日は金曜日だった。真由の学校はこの日が3学期の始業式となり、生徒会役員でもある彼女は式典に関する細々とした進行を他役員や教師と共に推し進め、思ったよりも疲れた。
 この日は一般の生徒にとっては始業式と簡単なホームルームで終了する日だったが、生徒会では今期最初のミーティングが予定されていたので学校から下校する時間は夕方になった。

 帰宅した後、夜に抜け出すのはその日は正直億劫だった。しかし、金曜の夜という事でネットカフェで知り合った女子大生のお姉さんと会う約束をしていた。大学の授業は次の週から始まるとの事。つまり約束した相手にとってはまだ冬休みという事になる。


「ね。あの子? お前が言ってたのは?」
 その男は通りに面した席から表を歩いている女性のグループを首を傾げながら見ていた。通りを歩いているのは3人の女子大生に見える。じっと見据えて彼は「うん」と頷いた。
「あの右端にいる髪の長い子」
「あれかあ」
「美人ジャン」
「普通に可愛いね。ナンパしたら?」
「いいよ。ムカついたし」
 その男は自分のスマホを取り出して、その女性の写真を撮った。その写真を仲間の携帯に同時に送信する。それぞれが持っている携帯やスマホにメールの着信音が鳴った。
「来た、来た、かわいこちゃん」
「本当にいいの? 犯罪だよ?」
「ちょっと遊ぶだけだよ。どうせ、あっちは遊び慣れてるだろうし」
「あれ?」
 男の1人が手元に受け取った写真を見ながら首を傾げた。
「何?」
「いや、組の人間が喋ってた人間に条件が似てるかなって」
「はぁ? 普通の女の子だよ」
 その男は首を傾げながらも「まさかね」と呟いた。


 居酒屋でのお喋りが終わり、女子大生のグループと別れた後、真由は駅への道を急いでいた。思ったよりも遅くなった。しかし、まだ11時台である。電車も動いているし、明日は学校が休みなので家に入る時に気をつければ大丈夫。
 公園の近くに大型マンションの建設現場があった。その脇を歩いている時に真由は男に呼び止められた。

「マユちゃん」


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