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拾参 Judicare(裁きたもう)
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1.
まだ敦さんと出会ってそれほど時は経っていない。正味、半月と数日である。20日にも足りない。たったこれだけの時間で驚くほど深い関わりを持った事になる。
彼は不思議な人間だ。崩れているのに、崩れすぎていない。ひねくれているのに、奇妙なほど素直でもある。粗野で乱暴な岩肌の内側にシルクの滑らかさを垣間見せる。
息を呑むほど凶暴なのに、信じられないほど優しい。その優しさは一見わかりにくく……、でもわかってしまえば、解けてしまった「謎」と同じで、間違いようもないその存在感で自分を惹き付ける。
私は短期間でこの男の良さに気付き、彼に骨抜きにされてしまった。
主は栄光のうちに再び来たり、生ける人と死せる人とを裁きたもう。
聖歌で歌われる教えの数々。聖書朗読より、旋律に乗せて説かれる教えは聞く者の耳に優しく、あっさりと心に分け入ってくる。しかし、その内容を考え、吟味すると結構凄い内容だったりする。
主によって裁かれる時が来るとしたら、私はどの様に判断されるのだろう。自分ではわからない。でも敦さんに関しては下されるべき評価に自信はある。彼は間違いなく善なるものだ。
そこまで考えて、真由は珍しいものを見る目付きで敦を眺めた。出会って此の方、人間相手に緊張する彼を見るのは初めての事だろう。
興味津々な真由の視線を感じた敦は居心地が悪そうにそっぽを向いて喋っている。絶対に後から質問されるだろうな……と敦は諦観の溜息を心の中だけでついた。
2.
「悪い。手が離せない用事があったの。待たせてごめん」
『ほう? 手が離せないね? お布団の上でする運動の事かな?』
吉川の機嫌は著しく悪そうだった。つい先日、秋葉原の駅構内で会った時とは雲泥の差である。彼は短気な人間だが傍目にもわかるほど、それこそ電話で少し喋った程度でわかるほど感情を吐露する事は滅多に無い。実際に会って、表情と言葉と空気を読んでやっとわかる程度にしか腹を見せないのだ。
それがここまで怒りを駄々漏れにしている事自体、非常に珍しいのである。怒り狂ってると表現するしかないだろう。
「祐樹? どうしたの? 俺を捕まえるのに時間が掛かったから怒ってるわけではないよね?」
『話が早くて助かるよ、あっちゃん。岸本の馬鹿が「おいた」しやがってね。一応、簡単に絞めておいた』
「へ? 岸本?」
『今朝、軽く撫でて病院に連れて行った。あいつはあれだな。頑丈だわ。思ったよりもダメージ喰ってないね』
「ちょ、待って!」
敦は何がなにやらよくわからないので淡々と喋る吉川を止めた。
「祐樹、意味がわかんねー。岸本は何かしたの?」
『おおよ……。あの馬鹿、俺が居ない間に美知襲って、突っ込みやがった』
「……」
今度こそ敦の顔は歪んだ。彼の様子を眺めていた真由は敦の尋常ではない顔つきに驚いた。
「それは……ひでー事しやがったんだね……」
『無理に俺に合わせんな。オメーが心配してる岸本はちゃんと生きてるよ。病院にも連れてった。知ってるだろ? 茂』
「ああ、覚えてるよ。今も仲良くしてんだ?」
高校時代に吉川の住み家で出くわした上品な男の顔を思い出して敦は複雑な気分になった。彼と岸本ぐらいしか近寄らせなかった吉川が始めて積極的に作った友人だ。自分達とは全くタイプが違う人種である。岸本がやっかんで、口を利こうともしなかった事をつい昨日の事の様に思い出す。
『まあな。あれが居合わせて病院に連れてった。骨にヒビが入ったりとか打撲とか、色々だったらしーけど、入院もしねーでピンピンしてやがる』
「そか」
敦はホッとした。
『んで、岸本の馬鹿の話だけどさ、半殺しにされたのにあいつ懲りてないみたいでさ』
敦は内心呻いた。なるほど、まだ話には先がありそうだ。
『何を血迷ったのか知らんが、美知に転びやがった。あの女に仕えたいとか妙な事をほざきやがって……』
敦は気が遠くなりそうだ。正気か、岸本?
『んで、あの女は天然で、既に岸本を許してやがんのよ。もっと危機感持てって俺が叫んでも聞く耳持たないっつうか……なあ、あっちゃん?』
頭がガンガンする。
「聞いてるよ、祐樹」
『鬱陶しいから、岸本、こっちに近づけないで。俺、あの顔見るだけで発狂しそう。次こそ殺しそうでさ』
(まじかよ)
敦の頭の中ではガンガンする音と岸本の笑い声と吉川の怒声が反響しあっている。何、この地獄?
『一応、状況説明とこの頼みの為に電話したの。夜遅くに悪いね』
「祐樹。まさかとは思うけど、岸本切ってしまうつもり?」
『あ? んな事、知らねーよ。将来の約束まで出来ないっつーの! とにかく、今はあいつの面見たくねー。頼んだよ』
「わかった」
『サンキュ。じゃね』
通話が終わったスマホを畳の上に放り出して、敦は倒れ伏した。
「あ、お亡くなりになりましたわ」
珍しく冗談を呟くと、真由は恐々と彼に這い寄り指先で彼の頭をチョンと突付いた。
「んああああああっ! きしもとおおおおっ!」
突然の絶叫に真由は驚く。がばーっと上体を起こした男が裸の真由に抱きついてくる。そのまま、抱きついたまま「あの馬鹿、あの馬鹿……」と呟く。
(相当のダメージを受けてらっしゃいますわね)
とりあえず抱きついてきた男の頭を抱き締めて、撫でてやると少し肩の緊張が取れた様に見えた。
「マユ」
「はい」
「その撫で方、何か違う」
「あら?」
熱心に彼の毛並みに沿って撫でていたが、時々目の間なども愛撫していた。家にいる犬に接する態度に近かったかもしれないと反省した真由は彼の肩と背中を中心に撫でる事にした。しなやかで張りがある筋肉の触り心地が非常に気持ちよい。敦はそれ以上文句を言わずに自分の顔を両手で覆っている。
「あの馬鹿、岸本~~」
しばらく唸っていた敦は思い出したようにスマホを拾い上げた。
(やっと、その可能性に思い至った様ですわね)
ここまで動揺しまくっている敦の姿には驚いたが、その狼狽ぶりが可愛いと心のどこかで考えてしまう。どうやらお友達の為に心配している様子だ。岸本という名前には覚えがあったが、明確なイメージが浮かんでこない。
(少し妬けますわね)
裸で胡坐をかき、手元のスマホを操作し始めた男を眺めて立ち上がると、真由は浴室へ向かった。シャワーを浴びるつもりはないが、気になる箇所だけ部分的に洗う為である。多分、敦の頭は降って沸いた懸案事項一色に染められている事だろう。今夜中に帰宅する可能性も視野に入れて装いを整えた方がよさそうだ。
3.
スマホの着信履歴の中に岸本からの着信があったが、メッセージは残っていなかった。着信は2時間ほど前の時刻だった。着信したメールの中には岸本からの分は含まれていない。まあ、話せばわかると思いながら、岸本のスマホを呼び出した。
『おっす、あっちゃん』
「ばんわ。ってか、オメー声がおかしい」
『今、ちょっと障りがあってね。鼓膜1枚お釈迦になってるから、よく聞こえん。あ、耳替えるわ……あーうー話づらい』
「オメー、話は聞いたぞ。アホな事やらかしたらしいな。電話では埒が明かん。今どこにいる?」
「家」
「へ? 珍しいな」
「うん。さすがにしばらくは酒を自粛しようかと。特に今日は面がスゲー事になりつつあるし」
「おやっさん、いるだろ?」
「あーまー、親父とはちょこちょこと話した。俺の面見てかなり驚いてたしな」
岸本父子の対話自体絶えて久しい事を知っている敦は少し驚いた。冷たい戦争をしているわけではない。単純に岸本父が息子を怖がっているだけだ。実の父をビビらせるという話もある意味凄いよなーと敦は感心したものだった。そんな親子に対話をさせたのだからよほど酷い面になってるのだろう。是非、拝みたい。
「わかった。後からオメーんちに行く」
「は?」
「早く寝るなよ。絶対行くからな」
「俺、大怪我したばっかだよ。普通なら薬飲んでさっさと寝るべ」
「うっせー。オメーがそんな可愛いタマかよ。親子団欒でもしながら待ってろ」
「親父はもう寝た」
「じゃ、後でな」
通話を終わらせて、スマホの時刻表示を見ると11時過ぎてる。外出した時間や単純に喋っていた時間などもあるが、夕方、まだ日が落ちる前から始まって今日はかなりやりまくったなと考える。まあ明日はシフト休だし、問題ないっしょと考えていたら、服装を整えた真由が部屋に戻ってきた。
「あーマユ、実はさ」
「お友達に会いに行かれるのですね? 私はこれでお暇させていただきますわ」
察しの良い女を前にして敦は困った様に頭を掻く。まだ子供なんだから、もっと我が儘言ってもいいのではないかと考えたが、岸本の件は彼女とは全く別次元の問題だ。遊びにいくわけではないので、一緒にと言うのも気が引ける。
「悪い。送ってく」
「子供じゃないのだから、1人で帰れますわ。ご心配は無用です」
「ダメ。俺が嫌なの。もっと早い時間ならそれもいいけど、もう遅い。マユの犬に引き渡すところまでする。犬には会わないけど」
声ではなく、口元で笑った真由を横目で眺めた男はそっと顔を彼女に寄せた。啄ばむ様に唇を合わせると「あーあ」と悔しがる。
「返したくなくなる。くしょー」
「……そろそろ何か穿いて下さいませ」
軽くキスを返すと、真由は頬を染めて視線をあらぬ方向に飛ばした。まだ何も身に纏っていない男の下半身が反応始めたのに気付き、とても困った表情だった。
「わかった」
彼女の初々しい反応が可愛いのだが、確かにいつまでもこのままでは仕方ないだろう。彼女の忠告に従い、大人しく着る物を取りに押入れに向かった彼の後姿を真由はウットリと見送る。適度に筋肉が付いた逞しく綺麗な身体だ。すっきりとした背中と引き締まった臀部も美しい。
(そういえば……)
敦の尻に刺激され、突然甦った不快な記憶に真由は足早に敦を追っかけた。
「うわっ」
驚いた敦が彼女に向き直った。彼の臀部を右手で撫で上げた弱冠17歳の痴女は嬉しそうに敦に「上書きですわ」と宣言した。
4.
夜中のこの時間帯になるとこの界隈の道路の交通量はめっきり減る。しかし、一本外の幹線道路になると話は違ってくる。そのバイクは排気量が大きいので、当然エンジン音も低く大きい。比較的遠くからでもわかりやすい音を立てながら、その通りを左折した。
その交差点に位置している○○マートというコンビニから丁度出てきた男は目の前で左折したバイクの後ろに座っている女を見た途端に驚いて足を速めた。
目当ての家の近くでアイドリング状態のバイクから降りた2人の人間が山辺邸の勝手口の近くで低い声で話をしているのが見える。
(やはり、あれは真由ちゃん)
その男はあまり近づかずに、少し離れた物陰から2人を窺っていた。少し離れすぎているので、相手の男はよく見えない。しかし、これ以上近づくと彼の姿も露出してしまう。
遠目に特徴だけでも確認しようと彼は目を凝らす。その男は高すぎず低すぎずの背丈に細身に見える身体つき。乗っているバイクが大きいので、それ相当に力と体格には恵まれていそうだ。遠目なので顔つきなどは全くわからない。
彼、田村栄治は2人を観察しながら、口を「へ」の字に曲げた。機嫌が加速度的に悪くなってくる。自分がこの様な物陰に隠れて覗き見ている事自体が気にくわない。
親族なのに、あの家への出入りが禁止されたのは非常にムカつく話だった。「防犯ブザー」などというふざけたアイテムを自分に対して使用するなんてけしからん小娘だ。栄治はその時の事を思い出して、イライラと爪を噛んだ。自分だけがこの様な不当な扱いを受けるのは承服出来ない。
あの日は悪い夢を見ているようだった。自分は彼女の許婚なのだから、身体の関係を持ってどこがおかしいのかわからない。早いか遅いかの違いだけじゃないか。婚前交渉は褒められたものではないが、跡継ぎが早めに出来るのは結構な事だと思う。勿論、妊娠したら結婚は繰り上げなければいけない。腹ボテの花嫁では格好がつかないだろう。
それなのに、全ての予定が狂ってしまった。全てはあの小賢しい娘が抵抗した為だ。ここ数日の間、栄治は何か彼にとって有利になる情報はないものだろうかと頻繁にこの界隈に出向いていた。あの家にさえ入らなければ誰がどこで何をしようと自由だ。そう考えながら首を伸ばして2人の様子を窺っていた彼は驚いて固まった。
家の中に入ろうとした真由が振り向いて男の肩に自分から手を掛け、背伸びをしながら彼に口付けたのだ。
「あの売女……」
怒りのあまりに目が血走ってくる。とんでもない尻軽じゃないか。全くもって、驚いた。ハッと自分の右手に握りこんでいたスマホに目を落とす。せっかくのツールを持っているのに、証拠写真の1枚も撮らないなんてどうかしている。真由はすでに家の敷地内に入ってしまった。先ほどの男がバイクに跨る。せめてあの男だけでも撮っておかねば。焦りながらも撮影モードを起動する。
(待て。夜間の撮影の場合、自動でフラッシュが焚かれるのではなかったか?)
フラッシュを焚いて自分の存在に気付くと、あの男が襲ってくるかもしれない。慌てた栄治は手元でフラッシュをオフにする操作をしようとするが、よくわからない。バイクの男はUターンをしてこちらへ近づいてくる。間に合わない。
撮り損なったと思った時、赤信号で右折のウィンカーを点滅したバイクが停止するのに気付いた。何でもいいから撮るんだという気分で1枚写真を撮った。バイクの車種も男の風体もわからないが、ナンバープレートが映った写真となった。
後から、その写真を見た栄治は「よし!」と歪んだ笑みを浮かべて大きく頷いた。
5.
「ちっす、すげー男前になったな」
「おかげさまでね」
開口一番の憎まれ口に岸本は片頬を歪めて笑った。時間の経過と共に腫れは酷くなり、現在、最高潮だろう。「アイスノン」の様な冷却材で冷やしてはいるが、鏡を見る度に1人で笑っていた。全くの別人に見えるところが笑いのポイントだ。病院で処方された鎮痛剤を飲んでいるので、痛みは無い。ただ、切った口の中、折れた歯や鼓膜破裂に伴う違和感が気持ち悪いだけだ。
「祐樹、容赦ねーな。人類に見えねー」
「ははっ……いて」
想像していたより酷いご面相にさすがの敦も少々引き気味だ。笑ったついでに骨が痛んだ岸本が顔を引き攣らせる。鎮痛剤はそちらの痛みには今ひとつ効きが弱い。
「悪い。肋骨も少しヒビ入ってる」
「見して」
岸本の返事も聞かずに彼のTシャツを捲った敦は悲しそうな顔をする。
「包帯グルグル巻かれてるし、よく見えんだろ?」
「鳩尾とかガンガンやられた?」
「相手は吉川さんだよ。あの人、足技一杯使うし」
「だよなー……、全く抵抗しなかったんだな。この状態なら」
「うん。逆らうなんて無理」
「まじ、オメー信者の鑑だな」
敦に捲られたTシャツを元に戻しながら、岸本は苦く笑った。
「てか、それだけの事したって、超反省したし」
「反省するぐらいなら最初からすんなって」
「最初は反省するなんて思ってもいなかったし」
「そりゃそうだな」
「時間戻せるならゼッテーしない。……戻せないけど」
肩を竦めた敦が出されたウーロン茶を飲む。岸本に付き合って、ソフトドリンク路線だ。バイクに乗ってるからともいう。そんな遠くではないが一駅分はある。歩いて帰りたくない。
「んで? 美知さんの信者にもなるって?」
「おう」
敦はまじまじと岸本を凝視する。
「頼むからその面ではにかまんでくれ。怖いから」
「オメーこそ、今夜はチョウチョだったの? 化粧臭くないけど、この匂いはどう考えても女の香水」
敦は嫌そうに岸本を睨んだ。
「オメーの鼻は犬か? よくわかるな」
「ってか、誰でもわかる。長い間一緒に居ると慣れて匂わなくなるのか?」
「……かな? 日があるうちからこもってたし」
「は! 猿かよ。連れてきてよかったのに。帰したの?」
「関係ない話で連れまわしたら可哀そうだろ?」
「うわっ。やっさしいー」
「帰して正解だったわ。オメーの今の面見たら悪夢見そう」
「あに? ふざけんな」
「ふざけてねーよ。正直者って呼んでー」
結局は深刻な話にはならない。敦も根掘り葉掘り聞かないし、岸本も下手な言い訳はしない。お互いにお互いの情報交換といったところだろう。後は、被害の深刻度を見に来た敦は時間の経過で何とかなりそうな岸本のダメージレベルを確認してホッとした。
「ま、これに懲りて少しは大人しくするんだな」
「大人しくはするけど」
「オメー、しばらく西に行くなよ。祐樹が釘刺してきたぞ」
岸本は返事をしないで、煙草に火をつけた。こいつ、納得してないなと考えた敦が説教をしようと身構えた途端に岸本のスマホが着信音を鳴らし始めた。
「夜中過ぎだっつーの。どこのお友達?」
「あれ?」
相手の名前を見て岸本が「大崎さん」と言って応答した。
敦は首を傾げたが、真由を嗅ぎまわっている探偵の件を思い出した。岸本が頼むとしたら大崎あたりになるだろう。先日、近くの飲み屋で情報を入手した際に岸本が知り合いにもっと詳細がわかるかどうか聞いてみると言っていたのを思い出した。
煙草片手にしばらくの間、電話相手の言う事を聞きながら歩き回っていた岸本が戻ってきた。灰皿に煙草を押し付けて、消しながら敦に声を掛ける。
「あっちゃん、いこ」
「何かわかったって?」
「嗅ぎまわってた興信所の人間を捕まえてるって。話聞きたいなら来いだってさ」
「おっしゃ!」
まだ敦さんと出会ってそれほど時は経っていない。正味、半月と数日である。20日にも足りない。たったこれだけの時間で驚くほど深い関わりを持った事になる。
彼は不思議な人間だ。崩れているのに、崩れすぎていない。ひねくれているのに、奇妙なほど素直でもある。粗野で乱暴な岩肌の内側にシルクの滑らかさを垣間見せる。
息を呑むほど凶暴なのに、信じられないほど優しい。その優しさは一見わかりにくく……、でもわかってしまえば、解けてしまった「謎」と同じで、間違いようもないその存在感で自分を惹き付ける。
私は短期間でこの男の良さに気付き、彼に骨抜きにされてしまった。
主は栄光のうちに再び来たり、生ける人と死せる人とを裁きたもう。
聖歌で歌われる教えの数々。聖書朗読より、旋律に乗せて説かれる教えは聞く者の耳に優しく、あっさりと心に分け入ってくる。しかし、その内容を考え、吟味すると結構凄い内容だったりする。
主によって裁かれる時が来るとしたら、私はどの様に判断されるのだろう。自分ではわからない。でも敦さんに関しては下されるべき評価に自信はある。彼は間違いなく善なるものだ。
そこまで考えて、真由は珍しいものを見る目付きで敦を眺めた。出会って此の方、人間相手に緊張する彼を見るのは初めての事だろう。
興味津々な真由の視線を感じた敦は居心地が悪そうにそっぽを向いて喋っている。絶対に後から質問されるだろうな……と敦は諦観の溜息を心の中だけでついた。
2.
「悪い。手が離せない用事があったの。待たせてごめん」
『ほう? 手が離せないね? お布団の上でする運動の事かな?』
吉川の機嫌は著しく悪そうだった。つい先日、秋葉原の駅構内で会った時とは雲泥の差である。彼は短気な人間だが傍目にもわかるほど、それこそ電話で少し喋った程度でわかるほど感情を吐露する事は滅多に無い。実際に会って、表情と言葉と空気を読んでやっとわかる程度にしか腹を見せないのだ。
それがここまで怒りを駄々漏れにしている事自体、非常に珍しいのである。怒り狂ってると表現するしかないだろう。
「祐樹? どうしたの? 俺を捕まえるのに時間が掛かったから怒ってるわけではないよね?」
『話が早くて助かるよ、あっちゃん。岸本の馬鹿が「おいた」しやがってね。一応、簡単に絞めておいた』
「へ? 岸本?」
『今朝、軽く撫でて病院に連れて行った。あいつはあれだな。頑丈だわ。思ったよりもダメージ喰ってないね』
「ちょ、待って!」
敦は何がなにやらよくわからないので淡々と喋る吉川を止めた。
「祐樹、意味がわかんねー。岸本は何かしたの?」
『おおよ……。あの馬鹿、俺が居ない間に美知襲って、突っ込みやがった』
「……」
今度こそ敦の顔は歪んだ。彼の様子を眺めていた真由は敦の尋常ではない顔つきに驚いた。
「それは……ひでー事しやがったんだね……」
『無理に俺に合わせんな。オメーが心配してる岸本はちゃんと生きてるよ。病院にも連れてった。知ってるだろ? 茂』
「ああ、覚えてるよ。今も仲良くしてんだ?」
高校時代に吉川の住み家で出くわした上品な男の顔を思い出して敦は複雑な気分になった。彼と岸本ぐらいしか近寄らせなかった吉川が始めて積極的に作った友人だ。自分達とは全くタイプが違う人種である。岸本がやっかんで、口を利こうともしなかった事をつい昨日の事の様に思い出す。
『まあな。あれが居合わせて病院に連れてった。骨にヒビが入ったりとか打撲とか、色々だったらしーけど、入院もしねーでピンピンしてやがる』
「そか」
敦はホッとした。
『んで、岸本の馬鹿の話だけどさ、半殺しにされたのにあいつ懲りてないみたいでさ』
敦は内心呻いた。なるほど、まだ話には先がありそうだ。
『何を血迷ったのか知らんが、美知に転びやがった。あの女に仕えたいとか妙な事をほざきやがって……』
敦は気が遠くなりそうだ。正気か、岸本?
『んで、あの女は天然で、既に岸本を許してやがんのよ。もっと危機感持てって俺が叫んでも聞く耳持たないっつうか……なあ、あっちゃん?』
頭がガンガンする。
「聞いてるよ、祐樹」
『鬱陶しいから、岸本、こっちに近づけないで。俺、あの顔見るだけで発狂しそう。次こそ殺しそうでさ』
(まじかよ)
敦の頭の中ではガンガンする音と岸本の笑い声と吉川の怒声が反響しあっている。何、この地獄?
『一応、状況説明とこの頼みの為に電話したの。夜遅くに悪いね』
「祐樹。まさかとは思うけど、岸本切ってしまうつもり?」
『あ? んな事、知らねーよ。将来の約束まで出来ないっつーの! とにかく、今はあいつの面見たくねー。頼んだよ』
「わかった」
『サンキュ。じゃね』
通話が終わったスマホを畳の上に放り出して、敦は倒れ伏した。
「あ、お亡くなりになりましたわ」
珍しく冗談を呟くと、真由は恐々と彼に這い寄り指先で彼の頭をチョンと突付いた。
「んああああああっ! きしもとおおおおっ!」
突然の絶叫に真由は驚く。がばーっと上体を起こした男が裸の真由に抱きついてくる。そのまま、抱きついたまま「あの馬鹿、あの馬鹿……」と呟く。
(相当のダメージを受けてらっしゃいますわね)
とりあえず抱きついてきた男の頭を抱き締めて、撫でてやると少し肩の緊張が取れた様に見えた。
「マユ」
「はい」
「その撫で方、何か違う」
「あら?」
熱心に彼の毛並みに沿って撫でていたが、時々目の間なども愛撫していた。家にいる犬に接する態度に近かったかもしれないと反省した真由は彼の肩と背中を中心に撫でる事にした。しなやかで張りがある筋肉の触り心地が非常に気持ちよい。敦はそれ以上文句を言わずに自分の顔を両手で覆っている。
「あの馬鹿、岸本~~」
しばらく唸っていた敦は思い出したようにスマホを拾い上げた。
(やっと、その可能性に思い至った様ですわね)
ここまで動揺しまくっている敦の姿には驚いたが、その狼狽ぶりが可愛いと心のどこかで考えてしまう。どうやらお友達の為に心配している様子だ。岸本という名前には覚えがあったが、明確なイメージが浮かんでこない。
(少し妬けますわね)
裸で胡坐をかき、手元のスマホを操作し始めた男を眺めて立ち上がると、真由は浴室へ向かった。シャワーを浴びるつもりはないが、気になる箇所だけ部分的に洗う為である。多分、敦の頭は降って沸いた懸案事項一色に染められている事だろう。今夜中に帰宅する可能性も視野に入れて装いを整えた方がよさそうだ。
3.
スマホの着信履歴の中に岸本からの着信があったが、メッセージは残っていなかった。着信は2時間ほど前の時刻だった。着信したメールの中には岸本からの分は含まれていない。まあ、話せばわかると思いながら、岸本のスマホを呼び出した。
『おっす、あっちゃん』
「ばんわ。ってか、オメー声がおかしい」
『今、ちょっと障りがあってね。鼓膜1枚お釈迦になってるから、よく聞こえん。あ、耳替えるわ……あーうー話づらい』
「オメー、話は聞いたぞ。アホな事やらかしたらしいな。電話では埒が明かん。今どこにいる?」
「家」
「へ? 珍しいな」
「うん。さすがにしばらくは酒を自粛しようかと。特に今日は面がスゲー事になりつつあるし」
「おやっさん、いるだろ?」
「あーまー、親父とはちょこちょこと話した。俺の面見てかなり驚いてたしな」
岸本父子の対話自体絶えて久しい事を知っている敦は少し驚いた。冷たい戦争をしているわけではない。単純に岸本父が息子を怖がっているだけだ。実の父をビビらせるという話もある意味凄いよなーと敦は感心したものだった。そんな親子に対話をさせたのだからよほど酷い面になってるのだろう。是非、拝みたい。
「わかった。後からオメーんちに行く」
「は?」
「早く寝るなよ。絶対行くからな」
「俺、大怪我したばっかだよ。普通なら薬飲んでさっさと寝るべ」
「うっせー。オメーがそんな可愛いタマかよ。親子団欒でもしながら待ってろ」
「親父はもう寝た」
「じゃ、後でな」
通話を終わらせて、スマホの時刻表示を見ると11時過ぎてる。外出した時間や単純に喋っていた時間などもあるが、夕方、まだ日が落ちる前から始まって今日はかなりやりまくったなと考える。まあ明日はシフト休だし、問題ないっしょと考えていたら、服装を整えた真由が部屋に戻ってきた。
「あーマユ、実はさ」
「お友達に会いに行かれるのですね? 私はこれでお暇させていただきますわ」
察しの良い女を前にして敦は困った様に頭を掻く。まだ子供なんだから、もっと我が儘言ってもいいのではないかと考えたが、岸本の件は彼女とは全く別次元の問題だ。遊びにいくわけではないので、一緒にと言うのも気が引ける。
「悪い。送ってく」
「子供じゃないのだから、1人で帰れますわ。ご心配は無用です」
「ダメ。俺が嫌なの。もっと早い時間ならそれもいいけど、もう遅い。マユの犬に引き渡すところまでする。犬には会わないけど」
声ではなく、口元で笑った真由を横目で眺めた男はそっと顔を彼女に寄せた。啄ばむ様に唇を合わせると「あーあ」と悔しがる。
「返したくなくなる。くしょー」
「……そろそろ何か穿いて下さいませ」
軽くキスを返すと、真由は頬を染めて視線をあらぬ方向に飛ばした。まだ何も身に纏っていない男の下半身が反応始めたのに気付き、とても困った表情だった。
「わかった」
彼女の初々しい反応が可愛いのだが、確かにいつまでもこのままでは仕方ないだろう。彼女の忠告に従い、大人しく着る物を取りに押入れに向かった彼の後姿を真由はウットリと見送る。適度に筋肉が付いた逞しく綺麗な身体だ。すっきりとした背中と引き締まった臀部も美しい。
(そういえば……)
敦の尻に刺激され、突然甦った不快な記憶に真由は足早に敦を追っかけた。
「うわっ」
驚いた敦が彼女に向き直った。彼の臀部を右手で撫で上げた弱冠17歳の痴女は嬉しそうに敦に「上書きですわ」と宣言した。
4.
夜中のこの時間帯になるとこの界隈の道路の交通量はめっきり減る。しかし、一本外の幹線道路になると話は違ってくる。そのバイクは排気量が大きいので、当然エンジン音も低く大きい。比較的遠くからでもわかりやすい音を立てながら、その通りを左折した。
その交差点に位置している○○マートというコンビニから丁度出てきた男は目の前で左折したバイクの後ろに座っている女を見た途端に驚いて足を速めた。
目当ての家の近くでアイドリング状態のバイクから降りた2人の人間が山辺邸の勝手口の近くで低い声で話をしているのが見える。
(やはり、あれは真由ちゃん)
その男はあまり近づかずに、少し離れた物陰から2人を窺っていた。少し離れすぎているので、相手の男はよく見えない。しかし、これ以上近づくと彼の姿も露出してしまう。
遠目に特徴だけでも確認しようと彼は目を凝らす。その男は高すぎず低すぎずの背丈に細身に見える身体つき。乗っているバイクが大きいので、それ相当に力と体格には恵まれていそうだ。遠目なので顔つきなどは全くわからない。
彼、田村栄治は2人を観察しながら、口を「へ」の字に曲げた。機嫌が加速度的に悪くなってくる。自分がこの様な物陰に隠れて覗き見ている事自体が気にくわない。
親族なのに、あの家への出入りが禁止されたのは非常にムカつく話だった。「防犯ブザー」などというふざけたアイテムを自分に対して使用するなんてけしからん小娘だ。栄治はその時の事を思い出して、イライラと爪を噛んだ。自分だけがこの様な不当な扱いを受けるのは承服出来ない。
あの日は悪い夢を見ているようだった。自分は彼女の許婚なのだから、身体の関係を持ってどこがおかしいのかわからない。早いか遅いかの違いだけじゃないか。婚前交渉は褒められたものではないが、跡継ぎが早めに出来るのは結構な事だと思う。勿論、妊娠したら結婚は繰り上げなければいけない。腹ボテの花嫁では格好がつかないだろう。
それなのに、全ての予定が狂ってしまった。全てはあの小賢しい娘が抵抗した為だ。ここ数日の間、栄治は何か彼にとって有利になる情報はないものだろうかと頻繁にこの界隈に出向いていた。あの家にさえ入らなければ誰がどこで何をしようと自由だ。そう考えながら首を伸ばして2人の様子を窺っていた彼は驚いて固まった。
家の中に入ろうとした真由が振り向いて男の肩に自分から手を掛け、背伸びをしながら彼に口付けたのだ。
「あの売女……」
怒りのあまりに目が血走ってくる。とんでもない尻軽じゃないか。全くもって、驚いた。ハッと自分の右手に握りこんでいたスマホに目を落とす。せっかくのツールを持っているのに、証拠写真の1枚も撮らないなんてどうかしている。真由はすでに家の敷地内に入ってしまった。先ほどの男がバイクに跨る。せめてあの男だけでも撮っておかねば。焦りながらも撮影モードを起動する。
(待て。夜間の撮影の場合、自動でフラッシュが焚かれるのではなかったか?)
フラッシュを焚いて自分の存在に気付くと、あの男が襲ってくるかもしれない。慌てた栄治は手元でフラッシュをオフにする操作をしようとするが、よくわからない。バイクの男はUターンをしてこちらへ近づいてくる。間に合わない。
撮り損なったと思った時、赤信号で右折のウィンカーを点滅したバイクが停止するのに気付いた。何でもいいから撮るんだという気分で1枚写真を撮った。バイクの車種も男の風体もわからないが、ナンバープレートが映った写真となった。
後から、その写真を見た栄治は「よし!」と歪んだ笑みを浮かべて大きく頷いた。
5.
「ちっす、すげー男前になったな」
「おかげさまでね」
開口一番の憎まれ口に岸本は片頬を歪めて笑った。時間の経過と共に腫れは酷くなり、現在、最高潮だろう。「アイスノン」の様な冷却材で冷やしてはいるが、鏡を見る度に1人で笑っていた。全くの別人に見えるところが笑いのポイントだ。病院で処方された鎮痛剤を飲んでいるので、痛みは無い。ただ、切った口の中、折れた歯や鼓膜破裂に伴う違和感が気持ち悪いだけだ。
「祐樹、容赦ねーな。人類に見えねー」
「ははっ……いて」
想像していたより酷いご面相にさすがの敦も少々引き気味だ。笑ったついでに骨が痛んだ岸本が顔を引き攣らせる。鎮痛剤はそちらの痛みには今ひとつ効きが弱い。
「悪い。肋骨も少しヒビ入ってる」
「見して」
岸本の返事も聞かずに彼のTシャツを捲った敦は悲しそうな顔をする。
「包帯グルグル巻かれてるし、よく見えんだろ?」
「鳩尾とかガンガンやられた?」
「相手は吉川さんだよ。あの人、足技一杯使うし」
「だよなー……、全く抵抗しなかったんだな。この状態なら」
「うん。逆らうなんて無理」
「まじ、オメー信者の鑑だな」
敦に捲られたTシャツを元に戻しながら、岸本は苦く笑った。
「てか、それだけの事したって、超反省したし」
「反省するぐらいなら最初からすんなって」
「最初は反省するなんて思ってもいなかったし」
「そりゃそうだな」
「時間戻せるならゼッテーしない。……戻せないけど」
肩を竦めた敦が出されたウーロン茶を飲む。岸本に付き合って、ソフトドリンク路線だ。バイクに乗ってるからともいう。そんな遠くではないが一駅分はある。歩いて帰りたくない。
「んで? 美知さんの信者にもなるって?」
「おう」
敦はまじまじと岸本を凝視する。
「頼むからその面ではにかまんでくれ。怖いから」
「オメーこそ、今夜はチョウチョだったの? 化粧臭くないけど、この匂いはどう考えても女の香水」
敦は嫌そうに岸本を睨んだ。
「オメーの鼻は犬か? よくわかるな」
「ってか、誰でもわかる。長い間一緒に居ると慣れて匂わなくなるのか?」
「……かな? 日があるうちからこもってたし」
「は! 猿かよ。連れてきてよかったのに。帰したの?」
「関係ない話で連れまわしたら可哀そうだろ?」
「うわっ。やっさしいー」
「帰して正解だったわ。オメーの今の面見たら悪夢見そう」
「あに? ふざけんな」
「ふざけてねーよ。正直者って呼んでー」
結局は深刻な話にはならない。敦も根掘り葉掘り聞かないし、岸本も下手な言い訳はしない。お互いにお互いの情報交換といったところだろう。後は、被害の深刻度を見に来た敦は時間の経過で何とかなりそうな岸本のダメージレベルを確認してホッとした。
「ま、これに懲りて少しは大人しくするんだな」
「大人しくはするけど」
「オメー、しばらく西に行くなよ。祐樹が釘刺してきたぞ」
岸本は返事をしないで、煙草に火をつけた。こいつ、納得してないなと考えた敦が説教をしようと身構えた途端に岸本のスマホが着信音を鳴らし始めた。
「夜中過ぎだっつーの。どこのお友達?」
「あれ?」
相手の名前を見て岸本が「大崎さん」と言って応答した。
敦は首を傾げたが、真由を嗅ぎまわっている探偵の件を思い出した。岸本が頼むとしたら大崎あたりになるだろう。先日、近くの飲み屋で情報を入手した際に岸本が知り合いにもっと詳細がわかるかどうか聞いてみると言っていたのを思い出した。
煙草片手にしばらくの間、電話相手の言う事を聞きながら歩き回っていた岸本が戻ってきた。灰皿に煙草を押し付けて、消しながら敦に声を掛ける。
「あっちゃん、いこ」
「何かわかったって?」
「嗅ぎまわってた興信所の人間を捕まえてるって。話聞きたいなら来いだってさ」
「おっしゃ!」
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