竜神様に見初められまして~虐げられ令嬢は精霊王国にて三食もふもふ溺愛付きの生活を送り幸せになる~

青季 ふゆ

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第51話 使用人としてではなく

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「ふあ……」

 夜、自室にて。

「お疲れのようですね、ソフィア様」

 ベッドの縁に座って欠伸をするソフィアに、ティーセットを持ってきたクラリスが言う。

「ううん、全然疲れて……」
「そんなわけないでしょう」

 ソフィアの反射的な返答に、クラリスはぴしゃりと言葉を被せる。
 クラリスはため息をついた後、ティーカップをソフィアに手渡した。

「熱いので、お気をつけださい」
「あ、ありがとう……」

 ふーふーしてから、一口。

「ん……美味しい……」

 マスカテルな香りが鼻腔を抜けたかと思うと、舌先から奥にかけて豊潤な味が染み渡った。

 喉元を過ぎると、じんわりと胸の辺りが温かくなる。

「本当に美味しいわ、今まで飲んだ事がない味……エルメルの特産品とか?」
「いえ、こちらはダージリンと言う、ソフィア様の国の貴族の間でもよく飲まれている種類の紅茶です」
「あっ……そうなんだ……」

 フェルミで紅茶を最後に飲んだのはいつだろうか。
 思い出そうとしても、該当する記憶がひとつもない。

 下手したら一度も飲んだ事がないかもしれない。
 まだ恵まれていた頃の幼少期の舌には、紅茶は多分合わなかっただろうから。

「紅茶って、こんなに美味しかったのね……」

 頬を緩めてティーカップに口をつけるソフィアを見て、クラリスはどこか痛ましげな色を表情に浮かべる。

「ちなみにダージリンには疲労回復効果がございます。今日のようにお疲れの日には最適かと」
「へえ、すごい効能ね」

 舌を巻くと同時に、ソフィアの胸にピリッとした痛みが走った。

 これは多分、罪悪感。

「クラリス」
「はい」

 困り笑いを浮かべてソフィアは言う。

「いろいろ気を遣わせちゃって、ごめんね」

 ぴくりと、クラリスが眉を動かす。

「いえ……ソフィア様、少しお隣よろしいですか?」
「え、ええ、もちろん」
「失礼します」
 ソフィアの隣に、ゆっくりとした所作で腰を下ろしたクラリス。

 どうしたんだろう、とソフィアが思う間もなくクラリスは口を開く。

「私は、ソフィア様の使用人です。主人の命令は絶対なので、ソフィア様の体調面を気遣うのは当然の事です。ですが……」

 クラリスが、ソフィアの方に顔を向ける。
 いつものクールで冷たげな表情ではない、どこか焦りにも似た感情を浮かべて。

「使用人としてではなく……私個人としても、ソフィア様には辛い思いをして欲しくない、いつも笑顔でいてほしい、と考えています」
「クラリス……」
「本心です」

 ソフィアが膝下に置いてる手に、クラリスが自分の手を被せて言う。

「だから、遠慮なく私の行為を受け入れてください。そして、してほしい事がありましたら、なんでもお申し付けください。ソフィア様は少々……いえ、かなり、遠慮し過ぎです」
「そう、なのかしら……」
「手がかかるくらいがちょうどいいのですよ」

 そう言って、クラリスは微笑んだ。

 クラリスの言う通り、ソフィアは“してもらう事”に消極的だった。
 ソフィアの低い自己肯定感が、実家での経験が、誰かに手間をかけさせる事に抵抗感を抱かせていた。

(でも、ここは実家じゃない……)

 エルメルという新しい環境だ。
 それに……。
(使用人としてではなく、か……)

 役職の垣根を超えて、個人としてクラリスが自分のことを思ってくれている事を、素直に嬉しいと思った。

 先程の食事でのアラン様の言葉といい、今日はなんだか嬉しいがいっぱいだ。

「……わかったわ」

 こくりと頷き、ソフィアは言う。

「ちょっとぎこちないかもしれないけど……善処するわ」
「ありがとうございます、ソフィア様。充分でございます」

 再び、クラリスは微笑んでみせた。

「じゃあ早速、ひとつお願いを聞いてもらおうかしら」
「はい、どうぞ」
「……どうして耳を差し出すの?」
「違いましたか? てっきり、もふもふを御所望かと」
「違うくは……無い、けど」

 ぴくぴくと動くクラリスの猫耳に視線がいってしまうが、グッとソフィアは堪えて。

 クラリスの肩に、自分の頭をそっと乗せた。

「……ソフィア様?」

 困惑気味に、クラリスは声を漏らした。
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