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第七部:古き者たちの都
奇妙な交易船
交易船の行き先を漠然と考えながら眺めていると、銀ジョッキから送られてくる写し絵を横目で監視していたシンシアに声を掛けられた。
「御兄様、先ほど桟橋を出た馬車の第一陣が倉庫に着いたようです。荷下ろしを始めました」
「お、始まったか!」
幌馬車の中に浮かんでいる銀ジョッキからの写し絵を覗き込むと、沢山の人足が馬車から木箱を降ろしている。
作業を監督しているのは、ローブを羽織った魔道士っぽい男だけど、昨日の朝に港の徴税監督官と話していた男かどうかまでは良く分からないな・・・
ただ、人足達が荷馬車から降ろしている荷物が、ふつうの荷物に較べるとヤケに平べったくて大きい。
木箱と言うよりは、薄い『木枠』みたいな形状だ。
「木箱が薄くて縦積みだな...」
「えーっと、つまりー?」
「つまりパルレア、あの木箱には『厚みが薄くて割れやすい板状のモノ』が入ってるってコトだ」
「じゃー、やっぱり魔法ガラスよねー!」
「だろうなあ...木や金属の板だったら、ああいう風には運ばないからね。ガラスの板は平らに重ねて積むと振動やショックで割れやすいから、ああやって立て掛けるようにして馬車に積むんだよ」
「へぇー!」
「なるほど...大アタリか。だけどライノ、これで素材の入手は済んで、あの船がそのままルースランドに戻っちまうって事は無いのかな?」
「いや、あのローブの男達の会話からすると大丈夫だと思うよ。『ヴィオデボラからの最初の荷が届く』って言ってたし、『目当てのモノが見つかる可能性』云々とか話してからな。むしろ、これから発掘が本格化するんじゃ無いか?」
「たしかにそうか。最初って言うからには次の予定があるってコトだよな」
「でもお兄ちゃん、その目当てのモノってなんだろーね? ソッチはまだ見つけられてないってコトでしょー?」
「そりゃあ、『見つかる可能性』があるって言い方は、『見つからない可能性』だってあるって事だからな...あの魔法ガラスと違って、存在するかどうか自体があやふやなモノとかかもしれん」
例によって根拠の無い直感だけど、なんとなく今運び込まれてる魔法ガラスらしきものは、ついでと言うか、オマケに見つけたモノのような気がするのだ。
なぜなら、仮にソブリンの『ドラゴンシェルター』の作成にこれを使うとしても、元からその予定で進められていた訳じゃあ無いだろうからな。
『目当てのモノ』の発掘途中に、良い素材が追加で手に入ったから使おうってくらいのノリじゃ無いだろうか?
「そうですね御兄様...いま運び込まれている魔法ガラスが『別口』だと言うのでしたら、あのガラス箱とは全く関係ないものかもしれません。もしそうだとしたら私たちには予想がつかないと思います」
「じゃー、新しいドラ籠とかー!」
「勘弁してくれよパルレア殿。シンシア殿の魔道具が二回目も通用するとは限らないからな?」
「全くだ。吹き飛んだドラ籠にアプレイスがいなかったことはバレてるだろうから、次は用心してくるだろう。ま、それはエルダンの大広間でも同じ事だけどな」
「ですが、御兄様の話を伺った限りでは『ドラ籠』って本当に巨大ですよね? あのサイズの船で運んでくるのは難しいのではないですか?」
「アレは無理だろうな」
「って言うか、アレが載るほど大きな船なんて、世界中探しても無いんじゃねえかな? 沈むかひっくり返るかしそうだぜ」
「動かせないから運ぶのは転移魔法でさー、高純度魔石を山ほど使ってやっと、みたいな?」
「それにあの倉庫の本体は地下工房なんだろ? ライノが見た感じで、エルダンの大広間みたいなデカい空間があるのか?」
「あー...俺が歩いた範囲には無かったな。ただ結構深く掘られてる場所だったから、無いとも言いきれない感じだ。そもそも、あの下水道みたいで乾いてる地下空間がなんなのかも、サッパリ分からないけどな」
「乾いてる地下の下水道って不思議ですよね...」
「だよなあ。相当古い感じはするし、なんで街の地下にあんなものがあるのか...」
「それも遺跡だよ」
「おっ、断定するなあアプレイス」
「だって、用途は知らないけどエルスカインの部下が使ってるんだぞ? 古代のなんかに関係あるに決まってるぜ」
「そう言われたら納得できる感じがする...俺が歩いたのなんて、ほんの一部分だけだろうし」
「だろ? このウルベディヴィオラとヴィオデボラには遺跡での繋がりがあるのかもな」
「かもしれんな...それにしても不可解なのは、あんな大型船...動かすのに何十人も必要な船を『彷徨う島』に行かせてるってコトだよ。先日のシンシアの発掘作業の話からしても、絶対に秘密なんか守れないだろ?」
「そうとも言えないぜライノ」
「なんでだい?」
「船から荷下ろししてる人足達は港の雇われだろ?」
「普通はそうだ。港の桟橋じゃあ、組合に入ってない人足は勝手に仕事が出来ないからな」
「でも船員は誰も桟橋に降りてきてないように見えるぞ。水夫っぽい服を着てる奴らはみんな船の上だ」
水夫が客の荷物の積み下ろしに手を出さないのは普通のことだ。
自分たちの糧食や船の備品とかならともかく、万が一、客の荷物を積み下ろしの最中に壊したり桟橋から海中に落としたりしたら、誰の責任かで揉めるからな・・・つまり怠惰なのでは無くて『責任範囲』ってヤツ。
アプレイスが何を言いたいのか咄嗟に分からなくて、船上を凝視する。
じーっと荷役作業を見ていて、ある瞬間にピンと来た。
普通と違うのは水夫達の動きじゃ無くて、『水夫達そのもの』だったのだ。
さすがドラゴンだ、目がいいな!
「なあアプレイス、あの船の水夫達って、ひょっとして全員が獣人族か?」
「俺にはそう見えるな」
「アンスロープとエルセリア、両方いるな...」
「だけど、他の人族は船上に見えない。船内はどうか分からないけどな」
さすがに、水夫全員が獣人族って言うのは偶然のハズが無い。
エルスカインが意図的に集めたのだろうけど、一体何のためか?
・・・いや、答えは明らかだな。
「獣人族を集めたのは、支配の魔法で使役するためか...」
「エルダンから戻った時にライノが言ってただろ? 『支配の魔法』は純粋な人の魂には掛けられないかも知れない、でも、半分は魔獣の魂が溶け込まされてる獣人族なら支配できる。それがイークリプシャン達がワザワザ手間を掛けてアンスロープの戦士を生み出した理由だってな」
連中が、完全な支配を目指してアンスロープ族を生み出した可能性は高いと思っている。
エルセリアは意図的に産み出された訳じゃ無いけど、魔獣の魂が溶け込んでいて支配の魔法が効果を発揮するって点では似たようなモノだろうな。
「まさか御兄様! あの船員達はそのために、無理矢理に狩り集められた方々なのですか?」
シンシアが悲痛な声を上げた。
「いやシンシア、それは無いと思う。一人前の船乗りってのは育てるのに結構な時間が掛かるもんなんだ。なにより経験がモノを言うし、いきなり素人だけ頭数を揃えて命令しても船なんか動かせないよ」
「そうなのですか...」
「体力さえあれば通じる仕事みたいに言われるけど、それだって逆に何ヶ月も何年も厳しい生活に耐えられる身体がないとダメだって事だしな?」
だけどアンスロープ族は戦士として優秀だったことから分かるように、体力とか耐久力は人族のなかでも折り紙付きだ。
船に乗るってコトさえ納得させれば、鍛え甲斐のある船乗りになりそうな気がするし、エルセリア族も少しずつ社会の表舞台に出てくるようになってきたのだから、色々な職業に興味を持つ者が増えていてもおかしくないだろうな。
「じゃあライノ、あそこにいる水夫達はどこから連れてきたんだ?」
「恐らく普通に船員として、長いこと掛けてポルミサリア中から集められた連中じゃないかな? 元々冒険心があって船乗りになった一匹狼もいただろうし、少しずつ雇って鍛えていけば、いずれは他の人族と総入れ替えも出来るだろう」
「なるほどね。まあ、ルマント村の連中を見れば分かったけど、支配されてなくてもアンスロープは真面目で従順だからな。エルセリアもみんなリリア嬢みたいに大人しいらしいし、動かしやすい連中なんだろうさ」
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