公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
91 / 186

91. 離縁?

しおりを挟む
 魂が抜けたように座り込んだルビーを置いて部屋を出たアリスとルカ。

「君……怖いね。ていうかめちゃくちゃしゃべるね。気にならないとかどうでも良いとか言ってたけど、めっちゃ鬱憤溜まってたでしょ?」

 引きつりつつ言うルカにアリスは視線を向ける。

「傷ついたり心に響く言葉ではなくとも、うざいものはうざいですからね。ずっとキーキー騒がれたら迷惑だなー静かにして欲しいなーくらいは私だって人間ですから思いますよ」

 否定しないってことは、結構溜まってたんだな、と思いつつ歩き出したアリスを追う。ルカが横に並んだのをチラリと見たアリスが口を開く。

「ルカ義兄様はあれだけで良かったのですか?」

「あれだけって……。結構キツイこと言ったし、しゃべったと思うけど」

「そうですか?私とは比べ物にならないほど長く婚約関係にいたと思いますが」

 その分色々と溜まっていたのでは?と言いたいようだ。

「そうなんだけどね。もっと色々言ってやりたいこととかあったんだけど……なんか君がすごい喋るから引っ込んじゃったよ。女性同士の会話?戦い?に男があんまりしゃしゃるものでもないしね」

「あら、それは失礼致しました」

 いや、全然そう思ってない顔をしているよアリス。なんだそのニタリとした笑みは。

「そういえばルカ義兄様。これでフリーですね。適齢期ですし、あちこちから声がかかるのでは?」

 考えないようにしていたことをズバッと言われて苦い笑みが浮かぶルカ。たくさんの縁談話が舞い込むはず。どこに行っても婚約者に、婚約者にとあらゆるご令嬢を紹介される未来が見える。足が止まるルカに気づいたアリスも同じように足を止める。

「面倒だなー……。いっそのこと、君が婚約者になってくれたら楽じゃない?」

 アリスに顔を近づけ背後の壁にトンッと手をつく。麗しい笑み付きで。いわゆる壁ドンだ。いや、ソフトタッチだったから壁トンッか。

「嫌ですわルカ義兄様。私既に結婚していましてよ。ルカ様の可愛い義妹でございましょう?」

 ズイッとアリスの方から顔を近づけられて、慌てて後退るルカ。アリスはルカに向かって足を踏み出すと彼の背後の壁に手をつく。


 ドーーーン!

 アリスの手を中心として壁が凹んでいる。まさに壁ドーーーンだ。

既婚者ですので、あらぬ噂を立てられるのは御免ですわ。色々と不利になりますでしょう?」

「ごめんなさい」

 去ってゆくアリス。

 その背を見送るルカ。



「まだ……ね。今度は何をするつもりだい……?」

 ルカの呟きを聞くは凹んだ壁を修理する手配をせねばと思う働き者の侍従だけだった。

 

~~~~~

  アリスの自室にて


「どうにかしてください、アリス様」

「あなたがどうにかしてよ、イリス」

「無理です」

「いや、私も無理よ」

「……………………」

「イリス顔が怖いわ」

「このままではカルラの涙が止まりませんよ」


 ルカと別れ、部屋に戻ったアリスは昼寝でもしようかと思っていたのだができなかった。目の前には涙を流すカルラの姿。

「申し訳ありませんアリス様。アリス様とお別れかと思うと悲しくて」

「お別れしないけど」

「ですが、ブランク様と離縁したらアリス様はご実家に戻られるんでしょう?」

「うん、あなたの言うように離縁したらね」

「やっぱりお別れじゃないですか……」

「いや、離縁してないし」

「………ぐすっ……ぐすっ…………」

「いやいや、話し聞いてよ」

 カルラは涙を抑えようとするあまり、肝心な部分を聞いていない。

「カルラ」

 ぽんと彼女の肩に手を置くイリス。

「イリス様」

 顔がひきつるイリス。カルラはなぜかイリスを様付けする。公爵家の血を引くご令嬢に没落男爵家出身の自分が様付けされるなど身体が痒くなるので遠慮したいがやめてくれない。

「アリス様はまだ離縁していないわよ。それにもし離縁することになっても付いてこれば良いじゃない」

「でも私のような役立たず」

「そんなことないわ。アリス様にひかずに敬意をもって接することが出来る時点で素晴らしいと思うわ」

 それに役立たずなどとんでもない。何をやらせても手際良くこなしている非常に優秀な侍女だ。

「イリス様……」

「私は給料が良いから我慢しているけれど、あなたはアリス様自身を慕っているのだもの。すごいわよ」

「イリス…………」
 
 どういう意味だ。今度は私が泣いてやろうかしらと思うアリス。



「カルラ」

「はい、アリス様」

「ルビーは無責任な公言で身を滅ぼしただけ。不敬や不貞もどきはなんの関係もないわ」
 
 即ち、ブランクとアリスが離縁する理由はない。

「でも…………」

 離縁したいと思われないのですか?と聞きたかったが、侍女がそんなことを聞いても良いものなのか。

「アリス様はブランク様と離縁するおつもりですか?」

 聞いたー!?イリス様普通に聞いたー!?

「んー?嫌いだけどね~。離縁か~どうしようかしらね……。まあそもそも王妃様が簡単に離縁させてくれるとも思えないしね」

 国にとって価値のあるアリスを王妃が簡単に手放すはずがない。

「ルカ様と再婚するとかどうですか?顔も良いし、素敵じゃないですか。ちょっといたずらっ子っぽいところがたまりません!」

 黙って聞いていたアイラがウキウキと口を挟む。恋愛話しが好きなアイラらしい反応。イリス、カルラ、アリスは恋とか愛には疎い。彼女たちはアイラの女子らしい発想に微笑ましい気分になる。


「ルカ様ねぇ……。悪くはないけど、婚約破棄した人と離婚した人がくっつくって縁起悪くない?ルカ様も初婚の相手が再婚者って嫌じゃないかしら。しかも義兄と義妹、なんか色々と疑われそうだわ」

「え~~~、そうですか?王族にはよくあることじゃないですか」

「まあ、ルカ様もやっとルビー様から解放されて自由になったんだから、色々と謳歌すると思うわよ」

「え~~~、その前にアリス様が落としちゃいましょうよ~」

 その後も続く女子トーク。



「あの~。まだアリス様はブランク様と離縁していませんからね。あんまり下手なこと言わないようにしてくださいよ」

 黙って聞いていたフランクが終わらぬ女子トークをぶった切る。


「想像は自由ですよ」

「そういうところがフランク様はモテないんですよ~」

 俺ってそういう風に見られているのかとショックを受けるフランク。わりと告白もされるし、モテる方だと思っていたのだが。

 固まるフランクをよそにアリスは独りごちる。


「ブランク様ねぇ………………」

 なにか含みを帯びた声音。それを聞いたイリスは何やら一波乱ありそうな予感がした。

 





 ………………………


 バターーーーーン!


 扉が大きな音を立てて開いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

奪う人たちは放っておいて私はお菓子を焼きます

タマ マコト
ファンタジー
伯爵家の次女クラリス・フォン・ブランディエは、姉ヴィオレッタと常に比較され、「控えめでいなさい」と言われ続けて育った。やがて姉の縁談を機に、母ベアトリスの価値観の中では自分が永遠に“引き立て役”でしかないと悟ったクラリスは、父が遺した領都の家を頼りに自ら家を出る。 領都の端でひとり焼き菓子を焼き始めた彼女は、午後の光が差す小さな店『午後の窓』を開く。そこへ、紅茶の香りに異様に敏感な謎の青年が現れる。名も素性も明かさぬまま、ただ菓子の味を静かに言い当てる彼との出会いが、クラリスの新しい人生をゆっくりと動かし始める。 奪い合う世界から離れ、比較されない場所で生きると決めた少女の、静かな再出発の物語。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

処理中です...