公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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163.花は枯れる②

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「ルカ様ぁ、酷いじゃないですかぁ!」

 ルカの私室に戻ったルカとクレア。クレアはルカを責めていた。

「皆私のこと馬鹿にしてるのにぃ。ルカ様は私の味方をしてくれないと嫌ですぅ」

 ごめんごめんと言いつつ、ルカは少々引いていた。微妙な顔で迫られても心が弾まない。可愛いと思ってやってる仕草なのだろうが痛い。

 顔も微妙、性格も悪い。
 だが手放す気はない。

 だって身体が極上だから。彼女は身体だけでなくテクニックも凄いのだ。あれを知ってしまった今、他の女では満足できないと言うものだ。

 自分の周りは優秀な者、堅物が多くて口煩い。クレアは馬鹿だからいい。父親も母親も。兄はよくわからないが静かだ。自分が優れた人間に感じられるし、行動に口出しされないから気楽だ。

 自分だって良くない行動をしているという自覚はある。

 だがこの国には兄も弟も甥もいる。この国を背負っていくつもりのない自分は仕事をきちんとしていれば他は多少自由でもいいと思うのだ。

「ルカ様ぁ、聞いてますぅ?」

「ああ、聞いているよ」

 本当は聞いていなかったけど。にっこりと微笑むと自分に抱きついてくる彼女。そしてその特大に実った果実があた…………らない?

「うん?」

 視線を下げるとそこにあるのはだらーんとお腹まで届くドレスの襟とツルペタちゃん。これならまだルビーの方があるかもしれないとか呑気に思ってしまった。

「えっ?はっ?」

 クレアはルカから身体をバッと離すと慌てて自分の胸元を触る。

「ない?ない!?ない!!!ルカ様、私の胸がありません!?」

「うん。ないね」

「どこ?どこ?どこなの?」

 いやいや、どこってその辺にボロンと落ちてたら怖い。

「に、兄様。兄様のところに行かなきゃ」
 
 兄様?なぜここで彼女の兄が出てくるのか。

「ルカ様、私ちょっと兄のところに……」

 胸元をブカブカになったドレスで押さえながら足早に扉に向かうクレアだったが、

「……………っ!?カッ!?なっ、なんで……っ、っあ、っく、くる……し…………」

 扉に手が届く前にバタンと苦しみながら倒れてしまった。

「どうした?」

「ルカ王子様、危険ですので近づいてはなりません!」

 近づいてくるルカにクレアは手を伸ばすが、その手は異変を感じた護衛や執事によって阻まれた。

「そ……んな……。た…すけ……て…………………い、いや……いや、いやあああああああああああ!」

 彼女は目を見開いた。その後、ルカは目を逸らした。絶叫する彼女はどんどん身体の水分を奪われ、最後には枯れていったから。

「る、ルカ王子……これは一体」

 執事が声をかけてくるが自分だってわけがわからない。なぜ彼女の命が急に失われたのかなど。困惑する中、離れた場所から女性の絶叫する声が聞こえた。





~~~~~~~~~~


 クレアの絶命からほんの数分前のこと、王妃の私室では王妃とケイトが向かい合っていた。

「陛下、落ち着いてくださいませ」

「す、すまない」

 王もオロオロと落ち着きなくその場にいた。

「王妃様、いい加減娘のクレアをルカ様の側室に迎えてくださいませ」

「ルビーが側室となったばかりよ。新たな王族の誕生も控えているのよ?他の側室だなんて経済的にもそんな余裕はないわ」

 貧乏人と婚姻するなら王室が何から何まで負担しなければならない。恨むなら金が無い旦那を恨むが良い。

「んまあ、王族がそんなにお金のことばかり、はしたないですわぁ」

 王族だからこそ裏では金金とうるさいというもの。王族だからと気にせずお金を使っていたらどうなることか……考えただけでゾッとする。
 
 あの潤沢なる財産を持つアリスでさえ金金金金とうるさいのだ。

「王妃様、私前々から思っていたのですが……王妃様はもっと私に感謝するべきだと思いますの」

「感謝?」

 堂々と胸を張るクレアは本気で言っているよう。何を言っているのかわけがわからない。そう思う自分の方がおかしいのかと思い王を見るが、困惑顔だ。

「ええ、だってそうでしょう?今王の寵愛を得ているのは私です。私がその座を求めていたら…………今どうなっていたか、おわかりでしょう?」

 王妃はその言葉を聞き目を見開いた後、


「ふっ」


 吹き出した。


「な、何がおかしいのです!?負け惜しみですか!?」

 ふふふふと堪えきれず笑い声をあげる王妃。彼女に仕える侍女たちもクスクスと忍び笑いを漏らす。その様を見たケイトは怒りと羞恥で頬を赤らめる。
 
「なんて無礼なの!?陛下ぁ………………陛下!?」

 王はポカーンと口を開いたまま固まっていた。

「あ、いやすまない。いや、でもそなたが王妃というのは…………なあ?」

「はあ!?なぜです!?」

「何故も何も当たり前というか……」

「当たり前!?」

 怒りのあまり椅子から立ち上がり王に詰め寄るケイト。

「まあまあタリス男爵夫人落ち着いてちょうだい。そしてよく考えてちょうだい」

 王妃の言葉にカッとなるが、彼女の冷たい目を見て言葉を失う。

「あなた政務はできて?ご実家は力になってくれるの?子は産めるの?民を慈しめて?」

「この国で一番偉いのは王よ、実家なんて関係ないわ!子はもう跡継ぎがいるからいらないでしょう!?政務なんて家来にやらせればいいことよ!民なんて勝手に生活してくわよ!」

「……お話にならないわね。なんの覚悟もない努力をするつもりのない者が王妃の座につくなど有り得ませんわ。ねえ陛下?」

「うむ。ケイト、王妃はここにいるセンジュ以外考えたことはないぞ?見目麗しく、腹黒……ずる賢……コホンッ!頭もよく、王子も産んだ。幼き日から共に支え合ってきたセンジュを捨てることなどあるわけがない」

「では、私は……」

「そなたはまあ……身体が良いというか……。今まで味わったことのない極上の味で……」

「ほほほほ、あなたとはただの身体の関係だったというわけね。あなたはそれが売りですものね、高いお金で売れてよかったですわね?」

 ごにょごにょと何やら言う王と愉しそうに高笑いする王妃。正反対の反応だがどちらからも酷く侮辱されている気がするケイトは床に崩れ落ち口を震わせる。

「そんな……私は王の寵妃で、望めば王妃にだってなれる存在で……」

 ゆっくりと視線を王妃に向けたケイトは王妃をじっと見る。ただ座っているだけなのに優雅で気品がある。優しげでありながら貫禄もある。高笑いする様も絵になる。

 自分は……ちらりと近くにあった姿見が目に入る。下品なブカブカのドレス。無様に床に座り込む老女。……ブカブカ……老女?

「は?」

 手を見るとシワシワの手。どんどん濃くなっていくシワ。あらわになっていく骨格。

「なんだ?」

「これは一体……」

 王と王妃の耳に部屋の外から若い女性の悲鳴が聞こえてくるが、それどころではない。

「い、いやあああああああああああああ!」

 絶叫が止まると同時に息絶えるケイト。


「王妃……」

「陛下……」


 二人は目の前で起こったことが理解できなかった。





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