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164.アリスの敗北
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~亡き子の部屋にて~
「マリーナ様、時は来ました」
ヤハは優しく囁いた。
「………………」
「そのような暗いお顔はあなたには似合いません。私はただあなたに以前のように笑ってほしいだけなのです」
「…先生……何を仰っているの?」
「マリーナ様は受け入れるだけで良いのです。それだけであなたは―――――――――です」
ひっそりと耳元で囁かれた言葉にマリーナの目が見開かれる。控える侍女は二人のやりとりを虚ろな目で見つめる。
「そんなことは許されません……できません」
「私ならできます。アリス妃殿下の邪魔さえなければ」
「アリス…………」
「大丈夫です。妃殿下は邪魔しに来られません」
「そんなことが……?」
「はい。妃殿下はその強さ故私に敗北するのです。天は私に味方をしました」
「アリスが負ける。…………!?彼女に何をするの!?駄目よ!」
虚ろだったマリーナの瞳に光が灯る。
「ご安心ください。マリーナ様の大切な方たちを傷つけることはございません。お約束いたします」
「そう、それなら良いわ……」
す……と再び光を失う瞳。
「お優しいマリーナ様。私があなたに差し上げるのは希望のみです。さあ、私の手にあなたの手を」
マリーナの手がヤハの手にゆっくりと重なる。
「目を瞑ってください。ゆっくりと息を吸って……吐いて……心穏やかになさってください――――」
マリーナの瞼がゆっくりと瞳を覆った。
~~~~~~~~~~
~アリスの私室にて~
「あ~あの下品なデカパイ女ムカつくーーーー!」
「イリス、お子様たちの前でそういう言葉遣いはやめないか」
「フランクさん!ムカつくものはムカつくって言って何が悪いんですか!?ね?ラルフ様オリビア様」
「うん、僕達は気にならないから大丈夫だよ」
「そうよ。本人に言ってるわけじゃないんだから。溜め込むのは良くないわよフランク」
「貴方がたは本当に5歳児ですか?」
フランクの言葉に一同笑みが浮かぶ。
が―――――――
次の瞬間、緊張が走る。
「どうした?」
なぜ急に空気が変わったかわからないブランクが戸惑い気味に声を上げる。
「お父様、女の人の悲鳴が聞こえたわ」
「は?」
皆の表情からオリビアが言った言葉が事実だと確信するブランク。王宮で悲鳴とは、ただ事ではない。他の王族の方達は無事だろうか?どうするべきか思案する中
「アリス!?」
急にアリスが身を起こした。
「マリーナ様、いけない……!」
掠れる声で呟いたアリスはイリスに視線を向ける。
「イリス、マリーナ様の…………ぐぅっ!!!」
「「お母様!」」
胸を掴み蹲るアリスに双子が駆け寄る。
そして、イリスとフランクはアリスとブランクをエリアスはラルフとオリビアを守るように身構えた。
なぜなら
「ノックもせず申し訳ございません。ですが、ここからお出しするわけにはいかないのです」
何人もの使用人達が急に部屋の中に現れたからだ。
「大丈夫ですか?アリス妃殿下」
「……さっさと…そこを……おどきなさい…………」
「そういうわけにはいかないのです。ああ皆様そんな顔をなさらないで。危害は一切加えませんので」
「アリス様の命が聞こえないの?さっさとどきなさい」
「おやおやそんな怖い顔をなさって。せっかくの美人が台無しですよイリス殿?はいはい、どきますよ…………と。っつ……!ああ!ヤハ様あなたのお力になれるなんて光栄ですーーー!」
そう言って男性は口から血を流し倒れた。その背中にはどこからか現れたナイフが刺さっていた。
「まだ来る……!イリス!」
アリスの絞り出すような声に慌ててイリスが結界を張るのと乱入してきた使用人たちにナイフが降り注ぐのはほぼ同時だった。
一体、どうなっているのか。何をしたいのか。困惑顔の面々。
「邪魔しないでくださいよ~」
自分達の命を守る結界を見て邪魔だ邪魔だと騒ぎ出す使用人たち。その目は黒く濁っているのに爛々と狂気の光が宿り、とても正気とは思えない。
「イリスっ、エリアス……。子供たちとブランク様の側に……くっ」
「「お任せください」」
「フランク……っ、早く私をマリーナ様の元へ……っ、はぁはぁ」
「しかし、アリス様」
苦しそうなアリスを連れて行って良いものか……そもそも何が起こっているのか。自分で対応できるかわからない事態にフランクは自分の取るべき行動に迷う。
「フランク、命令よ」
そんな彼の迷いを力強いアリスの目が、声音が薙ぎ払う。
「御意」
アリスはフランクの返事に安堵すると子供たちに視線を向けた。
「ラルフ、オリビア……イリスとエリアスの側を離れたら絶対に駄目よ」
「うん」
「お母様、気を付けてね」
「ええ、また後でね」
「「はい、お母様」」
冷や汗を流しながらも子供たちに笑みを向けたアリスをフランクは抱える。行きますよ、という声音と同時にアリスとフランクの姿は部屋から消えた。
そして二人が次に現れたのはマリーナとヤハの前だった。突然現れたアリスとフランクに驚くことなくヤハは普段通り頭を下げる。
「ご機嫌ようアリス妃殿下」
「…………」
「やはり気づかれてしまいましたね」
「…………」
「ですが、もう終わりました」
「…………」
「あなたの負けです」
「…………」
アリスはヤハの言葉に答えなかった。そもそもその声はアリスの耳に入っていなかった。アリスが唇を噛み締めて一心に見つめる先にいるのは――――目を瞑り椅子に座るマリーナだった。
「アリス様……あれ、なんですか…………?」
沈黙が続く室内に微かに震えるフランクの声が響いた。
「マリーナ様、時は来ました」
ヤハは優しく囁いた。
「………………」
「そのような暗いお顔はあなたには似合いません。私はただあなたに以前のように笑ってほしいだけなのです」
「…先生……何を仰っているの?」
「マリーナ様は受け入れるだけで良いのです。それだけであなたは―――――――――です」
ひっそりと耳元で囁かれた言葉にマリーナの目が見開かれる。控える侍女は二人のやりとりを虚ろな目で見つめる。
「そんなことは許されません……できません」
「私ならできます。アリス妃殿下の邪魔さえなければ」
「アリス…………」
「大丈夫です。妃殿下は邪魔しに来られません」
「そんなことが……?」
「はい。妃殿下はその強さ故私に敗北するのです。天は私に味方をしました」
「アリスが負ける。…………!?彼女に何をするの!?駄目よ!」
虚ろだったマリーナの瞳に光が灯る。
「ご安心ください。マリーナ様の大切な方たちを傷つけることはございません。お約束いたします」
「そう、それなら良いわ……」
す……と再び光を失う瞳。
「お優しいマリーナ様。私があなたに差し上げるのは希望のみです。さあ、私の手にあなたの手を」
マリーナの手がヤハの手にゆっくりと重なる。
「目を瞑ってください。ゆっくりと息を吸って……吐いて……心穏やかになさってください――――」
マリーナの瞼がゆっくりと瞳を覆った。
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~アリスの私室にて~
「あ~あの下品なデカパイ女ムカつくーーーー!」
「イリス、お子様たちの前でそういう言葉遣いはやめないか」
「フランクさん!ムカつくものはムカつくって言って何が悪いんですか!?ね?ラルフ様オリビア様」
「うん、僕達は気にならないから大丈夫だよ」
「そうよ。本人に言ってるわけじゃないんだから。溜め込むのは良くないわよフランク」
「貴方がたは本当に5歳児ですか?」
フランクの言葉に一同笑みが浮かぶ。
が―――――――
次の瞬間、緊張が走る。
「どうした?」
なぜ急に空気が変わったかわからないブランクが戸惑い気味に声を上げる。
「お父様、女の人の悲鳴が聞こえたわ」
「は?」
皆の表情からオリビアが言った言葉が事実だと確信するブランク。王宮で悲鳴とは、ただ事ではない。他の王族の方達は無事だろうか?どうするべきか思案する中
「アリス!?」
急にアリスが身を起こした。
「マリーナ様、いけない……!」
掠れる声で呟いたアリスはイリスに視線を向ける。
「イリス、マリーナ様の…………ぐぅっ!!!」
「「お母様!」」
胸を掴み蹲るアリスに双子が駆け寄る。
そして、イリスとフランクはアリスとブランクをエリアスはラルフとオリビアを守るように身構えた。
なぜなら
「ノックもせず申し訳ございません。ですが、ここからお出しするわけにはいかないのです」
何人もの使用人達が急に部屋の中に現れたからだ。
「大丈夫ですか?アリス妃殿下」
「……さっさと…そこを……おどきなさい…………」
「そういうわけにはいかないのです。ああ皆様そんな顔をなさらないで。危害は一切加えませんので」
「アリス様の命が聞こえないの?さっさとどきなさい」
「おやおやそんな怖い顔をなさって。せっかくの美人が台無しですよイリス殿?はいはい、どきますよ…………と。っつ……!ああ!ヤハ様あなたのお力になれるなんて光栄ですーーー!」
そう言って男性は口から血を流し倒れた。その背中にはどこからか現れたナイフが刺さっていた。
「まだ来る……!イリス!」
アリスの絞り出すような声に慌ててイリスが結界を張るのと乱入してきた使用人たちにナイフが降り注ぐのはほぼ同時だった。
一体、どうなっているのか。何をしたいのか。困惑顔の面々。
「邪魔しないでくださいよ~」
自分達の命を守る結界を見て邪魔だ邪魔だと騒ぎ出す使用人たち。その目は黒く濁っているのに爛々と狂気の光が宿り、とても正気とは思えない。
「イリスっ、エリアス……。子供たちとブランク様の側に……くっ」
「「お任せください」」
「フランク……っ、早く私をマリーナ様の元へ……っ、はぁはぁ」
「しかし、アリス様」
苦しそうなアリスを連れて行って良いものか……そもそも何が起こっているのか。自分で対応できるかわからない事態にフランクは自分の取るべき行動に迷う。
「フランク、命令よ」
そんな彼の迷いを力強いアリスの目が、声音が薙ぎ払う。
「御意」
アリスはフランクの返事に安堵すると子供たちに視線を向けた。
「ラルフ、オリビア……イリスとエリアスの側を離れたら絶対に駄目よ」
「うん」
「お母様、気を付けてね」
「ええ、また後でね」
「「はい、お母様」」
冷や汗を流しながらも子供たちに笑みを向けたアリスをフランクは抱える。行きますよ、という声音と同時にアリスとフランクの姿は部屋から消えた。
そして二人が次に現れたのはマリーナとヤハの前だった。突然現れたアリスとフランクに驚くことなくヤハは普段通り頭を下げる。
「ご機嫌ようアリス妃殿下」
「…………」
「やはり気づかれてしまいましたね」
「…………」
「ですが、もう終わりました」
「…………」
「あなたの負けです」
「…………」
アリスはヤハの言葉に答えなかった。そもそもその声はアリスの耳に入っていなかった。アリスが唇を噛み締めて一心に見つめる先にいるのは――――目を瞑り椅子に座るマリーナだった。
「アリス様……あれ、なんですか…………?」
沈黙が続く室内に微かに震えるフランクの声が響いた。
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