公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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171.10年後

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 時が経つのは早いもので、10年の月日が経った。

「皇太子様~!皇太子様~!どこですかー!?」

 衛兵たちが大声を出して探しているのはマキシムではない。クレアやケイトの騒ぎで疲れてしまった王は引退して、マキシムに王位を譲った。

 現在はマキシムが王となり、マリーナは王妃となった。そしてアリスの次男にしてマリーナの長男であるガイウスが皇太子となった。

「「「!皇太后様拝謁いたします!」」」

 衛兵たちは木の陰で読書する元王妃にして現在は皇太后となったセンジュに気づくと跪いた。

「ご苦労さま、ガイウスが見当たらないの?」

「は!申し訳ございません」

「大丈夫よ。そのうち見つかるわ。弟バカの双子が大人しくしているんだから危険な状況にはないわよ。ほら、解散解散」

「は、はあ……。承知いたしました」

 困惑顔をしながら去っていく衛兵たち。彼らの姿が見えなくなると皇太后は声を張り上げた。

「私も部屋に戻るわ」

 その言葉にがさりと木の葉が揺れる音がし、葉が生い茂る枝の上に腰掛けるアリスの姿が現れた。

「ありがとうございます」

「私は無関係ですからね。後で叱られるのはあなただけよ」

「そんな薄情な」

「私とあなたの間に厚い情があるなんて思っているの?」

「え~~~~」

「ありがとうございます。お祖母様」

 アリスの横から少し高い男の子の声。10歳になったアリスの息子ガイウスだ。金色の髪の毛と瞳に顔立ちはブランクを可愛くした感じである。

「いいのよガイウス。可愛いあなたの為だもの」

「態度違いすぎませんか?」

「おほほほほほ、孫は可愛いものよ。態度のでかい嫁は可愛くないもの。それじゃあね」

 皇太后はひらひらと後ろ手に手を振り去って行った。

「アリス母様は戻らなくていいんですか?」

「ふふ、暇人だもの」

「そっか…………」

 なんとなく勉強をやる気分が出ず勉強の時間なのにさぼってしまった。それを聞きつけたのかどこに隠れようか迷っているとアリスが来てこの木の上に連れてこられた。

「勉強は嫌い?」

「いや、どちらかと言うと好き。だけどなんかやる気が出なくて」

「そんな日もあるわよ。ラルフとオリビアなんてさぼりまくってたわよ」

「兄様と姉様は勉強しなくても一度見聞きしただけで完璧に覚えるからね。まさに天才ってやつ」

「あなたは優秀だって教師たちが褒めてたわよ。ラルフとオリビアは嫌な顔されてたのに」

 ガイウスは彼の努力もあってとても優秀だった。化け物のような強さはないが魔法も頭脳も上レベル。性格も穏やかで将来が楽しみだと言われている。

「自由すぎるんだよ」

「そうね」

 二人の間に沈黙が満ちる。

「僕は自分が皇太子であって良かったと思ってるよ」

「そう」

「兄様は天才すぎて人のことを考えられないもん。優しい人だけど自由過ぎて国が無茶苦茶になってしまいそう」

「ラルフに王様はちょっとね……」

 彼は今日可愛い可愛い弟に頼まれて町まで買い物に行っている。

「兄様と姉様を見てると自分ってちっぽけだなって思う」

「ジェラシー?」

「でもああなりたいとは思わないよ」

「そうなの?」

「無理難題をふっかけられるし、危険なことも強要される。本人たちは気にしてないし、軽々とやってのけちゃうからもっともっとと求められる。それに何かやっても全部満点。僕は自分が一生懸命やったことが報われた時とても嬉しいよ。でも兄様と姉様はそういう気持ちがわからないんじゃないかな。それって少し味気ない人生だと思う」

「…………あなたは賢い子ね。でも天才もそれなりに生きていれば楽しいこともあるものよ」

「どんな?」

「そうね~。大臣たちをやり込めるときとか、金貨を数えているときとか。あとはあなた達の成長を見守ることとか」

「結構普通だね」

「…………………………。天才だって一応人間ですからね」

 ガイウスは穏やかだとよく言われているが、アリスの前では結構毒舌だと思う。

「ふーん。まあ僕は心強いよ。天才たちが側にいてくれるんだから。僕の治世は安泰決定だね」

 我が息子ながらなかなかの自信家である。

「……もしかしたら意外と弟離れするかもしれないわよ?恋とか」

「恋ねぇ。それはそれで寂しいような嬉しいような。でも兄様も姉様ももうそろそろそういう年齢だよね」

「私は楽しみだわ。あなた達がどんな相手を連れて来るのか」

「兄様と姉様の好みはわからないけど、僕は高位貴族出身で美人で頭が良くて魔法が得意であまり口出ししなくて優しくて明るい子を連れて来る予定だよ」

「…………そう」

 そんな女性はこの世にいるのだろうか。

 もしかしたら現実が見えてないんじゃないだろうか。

 自分や姉や王妃やマリーナや侍女たちを見てきているのに。どちらかというとクセが強いものばかり。

 ちょっと心配になるアリスだった。


「ガイウス……!アリス……!」

「「あっ、ヤバイ」」
 
 二人を呼ぶ低いのによく通る声が下から聞こえた。

「母上」

「王妃様」

 こわ~い顔をしたマリーナだった。凄味を持たせたまま笑みの形を彩る顔に余計にヤバイと思う二人。

「二人共仲が良くてとても微笑ましいわ」

「「はい」」

「でもね、先生にだってお給金を払っているのよ?今日の分は働いていないのにお金を払わないといけないのよ?とても勿体ないと思わない?」

「「思います」」

「それにね、さぼりたい気持ちもわかるわよ。だけどその行為が正しいことかどうかくらいわかるわよね?ガイウス」

「は、はいぃ」

「それにね、アリスあなたもなかなかよいお年になったんだから、皆が一生懸命探していることくらいわかるでしょう?人に迷惑をかけたらいけないことおわかり?」

「すみません」

 その後も止まらぬマリーナの説教。二人は木の枝に腰掛けたまま1時間程説教を受けた。




~~~~~~~~~~




「えらい目にあった……」

 自室でだらしなく椅子に座るアリスが呟いた。

「自業自得ですけどね」

「イリス、うるさい」

 それにしてもあのマリーナが王妃になった途端あんなに皇太后みたいな口煩い人間になるとは思わなかった。まあ生き生きとしているから良いことだが。

「それにしても聞きましたか?」

「うん?」

「ガイウス様を認めないという意見が出ているそうですよ」

「へー…………そんな命知らずがまだいたのねぇ。――――あなたたち聞いた?」

 その言葉にすっと姿を現したラルフとオリビア。

「そんなけしからんやつは成敗しなければいけませんね」

「ほっとくわけないですよね?お母様」

 オリビアの言葉にゆったりと足を組み、口角を緩やかに上げたアリスは口を開く。

「どうやって…………遊びましょうね?」

 ラルフとオリビアの口角もゆるりと上がる。



 それは見事な


 見る者全てを魅了する




 嘲笑だった。




 
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