公爵家の女たちは男運だけがない

たくみ

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13.消えろ

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 暫く互いに無言でいたがリリベルが我慢しきれないとばかりに先に口口を開く。

「変な言いがかりはつけないでいただける?お父様」

「言いがかりなどではない。事実だろう?」

 緩やかな笑みを浮かべながら紡がれる言葉にリリベルは眉間にしわを寄せる。

「私達は誰一人お母様を傷つけようなどとしていないわ」

「誰一人ときたか。相変わらず姉妹の仲が良いようで何よりだ。姉妹の仲が悪いとエレノアに迷惑がかかるからな」

「あらあら一番迷惑をかけているのはお父様でしょう?あなたがまともであればお母様は一人で公爵家を背負う必要など無かったのに。自慢の美貌が老けたらどうするのよ!?」

「ふ、ふふふふふ、老ける?それはいかん!大変だ!」

 わたわたと冷や汗をかき焦る父。

 え、そこ?

 今、そこ?

 そもそも母親が規格外なだけで人間とは普通老けていくものだ。何をそこまで焦る必要があるのか。


「エレノアはあの美貌を誇りに思っている…!それが失われたらどれだけ彼女は嘆き悲しむことか…!早急にここから出なければ!と言いたいところだが……やめておこう」

 すん、と急にクールダウンした父親の姿はなんとも気味が悪い。

「出ればいいじゃない。全てにおいてパーフェクトなお父様がお母様の力になれば」

「そうはいかない。彼女に嫌われたらどうするんだい?」

 窓から吹き込んだ風が彼の髪の毛を揺らす。

 ああ見た目はなんとかっこいいのだろう。

 が――

「たかが娘を手に掛けようとしたくらいでエレノアがあんなに怒るとは思わなかった。2人の間を裂こうとしたんだから当然の行為だろうに」

 ――中身はエレノア狂いのサイコパス。

「あーあ、せっかくエレノアと結ばれたのに一緒にいられないなんてなんたる悲劇なんだろうね。この世で一番不幸なのは私なんじゃないかな?」

「お父様の自業自得でしょ」

「おやおや、君たちのせいでこうなっていると言っても過言ではないのにひどいなぁ」

「私たちのせいにしないで」

「君たちが生まれてこなかったらこんなことにならなかったのに……とはいうものの子供がいないとなるとエレノアに問題ありとみなされる恐れもあったしね。はあ……なぜこの世はこんなにままならないんだろうねぇ」

 思い起こせば16年前。

 三女キャシーが生まれた時のこと。


「エレノア様!頑張ってください!」

「奥様!もう少しですからね!」

「んあーーーーーー!」

 一際大きな気合の入ったいきみ声の後にほぎゃ、ほぎゃ、ほぎゃと元気な赤子の声が部屋に響き渡った。

「「「おめでとうございます!」」」

「まあまあなんと可愛らしい姫君なんでしょう」

「ご主人様もご覧くださ……ヒィ!」

 こちらの顔を見て悲鳴を上げる産婆。

 産褥の場に男は入るものではないとされているが、自分はエレノアの側についていた。妻が苦しんでいるのに側にいないなど考えられぬことだから。

 それに苦しんでいるエレノアも美しい。自分の知らない表情が彼女にあるなど耐えられない。

 そんな思いでこの場にいたのだが、目の前の光景は一体なんなのだ。おい、産婆今見るべきは私ではないだろう。

「エレノア!」

「!?お、奥様!?奥様気をしっかり!」

 顔を青褪めぐったりと横たわるエレノアにその場は騒然となる。産後の疲れにしても尋常ではない顔色の悪さ。そして弱まる呼吸。

 ばたばたばたばたと周囲が騒がしい中、あるものに目が止まった。

 エレノアをこんなふうにした元凶――生まれたばかりの娘に。

 一歩足を踏み出したところでたどたどしい声が2つ。

「おかあたま!あかたん、うまれた!?」

「お母様!おめで……ど、どうなさったのお母様!?」

 2人のまだ幼き娘がとたとたと部屋に駆け込んできた。

 娘……むすめ……?

 エレノアがこんなふうになっているのはこいつらも原因なんじゃないか?出産は命懸けだ。出産の度にエレノアの身体はどんどん悲鳴を上げていったに違いない。

 こいつらの命と引き換えにエレノアの身体はどんどん弱まっていったのだ……!こいつらが存在しなければ……!

 ダンッ!

 床を蹴る音の後

「い、いやあああああああああああああ!!!」

「お嬢様あああ!お逃げください!!!」

 耳障りな声が耳に入るが気にせず突き進む。娘との距離を詰めながら出産中に何かあったらいけないと腰につけていた剣を鞘から抜き取る。

 娘たちには護衛もいたが自分のスピードについてこられない。剣神と言われ戦場を駆け回った自分に勝てるはずがない。駆け出すのが見えるが間に合わないことは一目瞭然。

 こんなものいらない。

 エレノアを傷つけるもの、害になるものなど

 消えれば良いのだ。

 急に駆け寄ってきて剣を振り下ろす父親を娘達は混乱した目で見てくるが、なんの気持ちもわかない。

 愛おしさも、後悔も、やめろというブレーキも。

 ただただ彼女を害したものの粛清を――。


 ガキィィィィン!

 そんな音と共に己の剣は弾かれた。

「え、エレノア……?ああ!良かった!無事だったんだな!?ああ私の愛しのエレノア!!!」

 そのまま彼女を抱きしめようとした手は何も触れることはできなかった。

「娘たちに何をするのよ!」

 ベッドに置いてあった護身用のナイフを思いっきり投げつけた彼女は慌てて2人の娘を抱きしめる。

「だ、だってだって……こいつらのせいで君はこの世から消えるところだったんだよ!?」

 なのになぜ君は身体を震わせながら娘たちを抱きしめている?なぜ私を射殺さんばかりの目で睨みつける?

「それが何よ!?出産は命懸けなんだから当たり前でしょ!」
 
「で、でも、でもこんなやつらのせいで君が傷ついていいわけがない!弱まっていっていいわけない!こんな害にしかならないやつらいらないじゃないか!」

 エレノアは夫の理解不能な叫びにふらつく頭を身体を気力だけで奮い立たせる。今ここで倒れるわけにはいかない。

 だが、もう限界だ。

 ふぅと息を吐いたあと、すうと思いっきり息を吸う。

「害になるのはお前だあ!人の宝物を勝手に壊そうとするんじゃねぇ!お前の顔なんて二度と見たくないわ!消えろ!消えねば離婚だ!」

 り、離婚?

 嘘だろ。

 イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ。

 き、消えなければ。

 まともに働かない頭で消えなければという思いだけでふらつく足を無理矢理動かし部屋から出た。

 そしてそのまま王宮に向かい、自分を監禁するよう兄に頼みそれからずっとこの部屋にいるのだ。

 

 

 
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