勇者の曾孫の迷走録

たくみ

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6.母はお姫様でした①

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 この世に生を受け10日。朝から使用人たちがわいわい?いや、ぎゃいぎゃい?なんというのか鬼気迫る怖い顔でバタバタと動き回っている。

 なんか異母弟の時といい、この家慌ただしいなあと他人事のように思いつつ、お昼寝タ~イムと思っていたら

 両陛下ご来訪にございます!!!

 と誇らしげなでっかい声が聞こえた。


 ほう……公爵家の者ともなると王と王妃が会いに来ることもあるのだなぁと呑気に思っていたら何人もの足音が近づいてくる。

 えっ………………これってまさか。

 扉の前で立ち止まる足音。

 音を立てないようにゆっくりと開かれる扉。



 そろ~っと静かながらも率先して部屋に足を踏み入れるのはもちろん王様と王妃様だ。

 その姿を見てなぜ二人が来訪したのか悟った。



 王妃様と母の顔も色味がそっくりだった。王妃様が醸し出すオーラは落ち着きがあり貫禄があるので穏やかでぽやぽや~とした雰囲気の母とは違うが、どう見ても顔がそっくりだ。

 王様は金髪に金の瞳であまり似ていないが、ほくほくとした喜びを堪えきれない表情を見ていればわかる。

 彼らは自分の孫……すなわち俺を見に来たのだ。

「おお、起きておったか。……なんと愛らしいのだ」

 王様が手を伸ばしてくる。

「あなた」

 ぞくぅ

 王妃様から発された低い声に寒気が……



 おお!負けじと王妃の目を見つめ返す王様。流石の貫禄だ。何やら二人の視線には実際にはない火花が見えるよう。


 ところで彼らは何をやっているのだろうか?

「王妃これは譲れぬ」

「は?」

「だからこれは譲れぬ」

「は?何かおっしゃいましたか?」

「いや、だか「は?」」

「えーーーい!怖い顔しても駄目だ!嫌だ嫌だ。儂が先に抱っこするんじゃ!」

 まさかの孫の抱っこ優先権についてだった。

 ふっと軽く笑う王妃様。

「では、この子に決めてもらいましょう?さあ手を出すのです」

 二人の手が自分の手が届く場所に差し出される。

 マジか。

 これ普通の赤ちゃんだったらどちらとも握らなそうじゃね?もしくは両方とも握るか?

 だが俺は特殊な赤ちゃん、そして何やら二人の選べオーラが半端ない。中間管理職にいた自分にはトップの圧に逆らうことなど到底できない。

 手を伸ばして、握る。いやうまく動かなくてテシッと叩くようになってしまった。

「んま~!よくわかっているわねアレン」

 喜びの声を上げるは王妃。
 悲しみの涙を堪えるは王。

 申し訳ありません王様。なぜかこの選択が俺にとって良いと感じたのです。お付きの者たちは気まずげだ。それは俺もだが。

 誰かこの空気を変えてくれ!

 願いが通じたのか……

「お父様、お母様。応接室でお待ち下さいと言ったではないですか」

「「いや、早く孫に会いたくて」」

「あらあら。フフッ可愛いでしょう?」 

 そういう母の顔はとても幸せに満ちたものだった。

「幸せそうだな……」

 王様がポツリと呟く。

「私が蔑ろにされるとお思いでしたか?」

「……可能性はあると思っていたわ。レンロードからの申し出だったとしてもね。結婚前にあなたにベタ惚れな様子を見たけれど、演技の可能性もあったでしょう。結婚してから蔑ろにされることはよくあることだわ」

「彼はとても大事にしてくれます。…………かの方に申し訳ないほどに」

 そう言う母の顔は何を思うか無だった。



 娘の表情に気づいた王と王妃は過去を振り返る。


 ライラ……伯爵家出身の才色兼備の学園のマドンナ。そして、レンロードの恋人。

 彼女には申し訳ないことをしたと二人は今でも思っているーーーーーー。


 父親である王に溺愛されたアナスタシアには婚約者がいなかった。なぜなら最高の男に嫁に出したかったから。慎重に見極めていた……というのは建前で男性と交流させるのが嫌だったから婚約者を決めていなかった。

 が、姫が15歳のとき王妃様がキレた。なぜなら彼女が目をつけていた嫁入り候補先の侯爵家の子息に婚約者ができたからだ。

 頑張って彼に婚約者ができないようにディフェンスしていたのに……。その報告を侯爵から聞いているときは笑みを浮かべていた。王妃の矜持だ。その夜寝室に戻った後、唇を噛み締める彼女の横でめでたいな~と嬉しそうなしたり顔をする夫の顔を見て彼女は察した。

 こいつがディフェンスを打ち砕いたのだと。

 こいつが……

 こいつが…………

 こいつが……………………!

 女神のごとき美しき笑みを一瞬だけ王に向けた王妃の顔は般若と化した。  
 
 クッションを夫の顔に頭に身体に叩きつけ、怒り狂った王妃の風魔法が寝室に嵐を巻き起こした。もう大騒ぎだった。暗殺騒ぎではないし、王妃も別に王を殺めようとしているわけではない。

 いわゆる夫婦喧嘩だ。

 ちょっと激しめだが。

 他人の夫婦喧嘩に口を突っ込むべきではない。

 そうなのだが…………

 高価な家具が、巨匠が作り上げた壺が、優美な刺繍が施されたカーテンがズタズタになっていく。王と王妃に怪我がないのが不思議なほどにーーーー。王妃は一流の魔法使いであったが故。


 執事長と侍女長は心の中で涙を流す。主人が行ったことで涙するなどおこがましいことだ。だから耐える。

 そうなのだが……………
 部屋が…………。

 せめて心の中で泣くのは許してほしい。

 そんな使用人たちの心の内を知ってか知らずか見事な魔法の腕前を披露し続ける王妃。

 いき遅れたらどうするーーー!!!

 しょうもない男しか残っていなかったらどうするーーー!!!

 と怒り狂う王妃に恐怖を覚えた王は気づけば早急にアナスタシアに婚約者を見つけると叫んでいた。

 そして始まる婚約者探し。

 だが

 公爵家と侯爵家の子息で婚約者や恋人がいないものは皆無だった。なので伯爵家から探せば良いかと思っていると運命は動き出した。

 学園を卒業し、剣の腕、魔法と素晴らしい実力をもつことから王の護衛となったレンロード。王を護衛する時にアナスタシアと接する機会が増えたレンロードがアナスタシアに惚れたのである。

 2人は4歳差。中等部、高等部と同じになることはなかったし、姫の周りには取り巻きがたくさんいて男性を近づけることはなかったから護衛になってアナスタシアの人柄に気づいたレンロードだった。

 そして王に直談判し、見事婚約者の座をもぎ取った。



 じゃあライラはどうなった?




 答えは簡単

 振られたのだ。

 
 



 
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