勇者の曾孫の迷走録

たくみ

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7.母はお姫様でした②

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 王と王妃はレンロードが一番良い条件を持つ男だということを理解していた。

 デラクシア公爵家。建国から続く由緒正しき家柄。たった一つの公爵家。高い地位でありながら王族を敬うことを忘れない忠誠心の塊みたいな家。金もある。発言力も軍事力もある。

 本人も見た目よし、頭よし、剣術・魔法よし。ちなみにレンロードは剣術、魔法共にトップの成績で学園を卒業している。性格は真面目かつ誠実。何よりも娘を恋い慕っている様子が娘を幸せにしてくれそうな気がする。

 恋人がいると聞いていたので候補には考えていなかったが、アナスタシアを娶るために別れたと聞いた。

 しかも相手もちゃんと納得した円満別れだと。

 であれば問題はないなと婚約させたもののライラには申し訳ないという思いもあった。だが人間であれば心変わりをすることもある。王家としても婚約しているものだったらお断りだったが、恋人止まりであった。

 公爵家と伯爵家。少々身分差はあるがライラの実家は商売を成功させた富豪。親が反対していたわけでもなければ、肉体関係があったわけでもない。将来を見据えた関係であるのならば婚約しているはずだよなーと深く考えなかった。

 婚約後二人の交際は順調だった。アナスタシアが学院を卒業次第すぐに婚姻する予定だと国中に知らしめた。

 が、想定外の事態が起きた。

 ライラに異変が起きたのだ。

 最初は特に問題はなかった。だが、社交界で二人の仲の良さを見る度に、新聞に二人の祝福記事が載る度に、周囲から影で捨てられた令嬢と嘲笑される度に…………

 彼女の心にはどろどろとした泥が溜まっていった。

 そして、レンロードとアナスタシアの結婚式の日。盛大なパーティが開かれ、多くの人が笑みを浮かべる中……



 彼女は壊れた。



 深夜屋敷内を徘徊するようになり、

 レンロードの名前を声が枯れるまで呼び続け、

 食事が喉を通らなくなり、

 寝込みがちになった。


 父親である伯爵は娘の様子を隠そうとしたが、使用人から漏れていった。心変わりなど誰にでもあるもの、婚約関係にあったならまだしも恋人関係。まして浮気でもない。

 ちゃんと話し合いの末納得して別れたはずなのに…………

 周囲からの非難の目はライラに向いた。

 相手が王家と公爵家でなかったらまた違ったかもしれないが。王家と公爵家は気まずい思いはしていたが何か行動を起こすことはしなかった。

 伯爵が何か物申せば動けるが、肝心の伯爵は何事もないような顔して王宮や商会で仕事に励んでいた。伯爵にはわかっていた、誰かが悪かったというわけではない。

 強いて言うのであれば運がなかったのだ。

 後悔はいくらでもある。

 婚約しておけば、

 そもそも身分違いの恋など諦めさせれば、

 別れたくないとごねていれば…………

 だがどれもしなかったのは自分たちだ。


 王家だって公爵家だって筋を通しているし、人の心を変えるなという方が無理だというのもわかっている。だから伯爵は何事もないように振る舞った。
 

 それが家族を、商会を守るための一番の手段だったから。

 だが、心は追いつかない。それは体調に現れた。

 顔は真っ青になり、身体は痩せ細り、よく仕事ができるなと思われる程だった。そんな様子を目の当たりにしては王も気にするなという方が無理というもので。

 かといって何か行動すれば揉め事になる。関係者皆が何事もなかったように振る舞っているからこそ、商会の顧客が離れていないということを考えると下手には動けない。間違ったフォローでもしようものなら貴重な税収が……。


 もう婚約破棄したほうが……いやいや、姫の婚約者を奪った性悪女とか言われ余計に悪い事態になりそうだ。それもいかん。

 皆が皆動けない中、動いたのはアナスタシアだった。

 彼女が伯爵家に乗り込み、帰ってきたと思ったらライラを愛妾にすると宣言した。皆びっくりしたが、それを機にライラは日増しに正気に戻っていった。

 レンロードがライラに自分が愛するのはアナスタシアだと現実を突きつけてもライラは愛妾になると言ったこと。

 アナスタシアに女性の問題に男性が口を出さないでくださいませ!とレンロードが叱られたことでライラは愛妾として屋敷に入ることとなった。

 とはいうもののレンロードもなかなか頑固で口煩くライラに物申した。

 アナスタシアを優先し、ライラを優遇することはない。金銭に関しては常識内であれば好きに使って良いがもし仮に子供ができても継承権は与えない。アナスタシアに子供ができなかった場合は、親戚に継承権をやると約束させた。

 更にレンロードは夜を共にしないと主張したが、それが愛妾をどんな立場にするものか、使用人にどのように見られるかアナスタシアにお説教され一夜だけ共にしたそうだ。

 そしてできたのがスタンだった。



 ーーーーみたいな映像が俺の頭の中に流れてきた。いや、これ王様や王妃様の思い出じゃん。

 はっ!
 
 ギギっと首と目を可能な限り動かし扉を見るとこちらを窺い見る子供の姿をした神様がいた。俺の視線に気づくと語りかけてきた。

『ちょこっとドロドロな関係になっちゃったごめんね』

 と言って、素敵なウインクをかますと消えていった。


 まあ……色々と事情はわかったから良しとしよう。

 事情を踏まえたうえで使用人たちの言葉を頼りに耳をダンボにして現在のお家事情を情報収集する。

 なぜ祖父母と一緒に住んでいないのかと思っていたがこの家は王家から結婚祝いでもらったものらしい。公爵邸ではどうしても公爵夫人が筆頭となる。嫁姑問題を心配した王が結婚の条件として、同居はしないと約束させたらしい。

 あとライラはレンロードの幼馴染のようで使用人たちともそれなりに仲が良い。しかし、アナスタシアも姫でありながらできた人だから好感は高い。

 使用人たちはアナスタシアを優先しつつも、ライラを邪険にすることもない。嫌な噂をすることもない。スタンもちゃんと面倒を見てもらえている。ちょっとぎすぎすしているようだが、上手く回っているようだ。


 思ったよりもドロドロな感じじゃなくてホッとしたアレンだった。


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