勇者の曾孫の迷走録

たくみ

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8.やっと会えた曾孫様

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「うーーーん……おはようキース」

「おはようございますアレン様」

 アレン御年10歳。

 起床の挨拶をする相手は侍従のキースだ。彼に手伝ってもらいながら着替えを終えて、食堂に向かう。食堂に着くと先に席についていた母の隣に座る。というよりも自分以外は既に全員揃っていた。

 運ばれてくる食事は今日もとても美味しそうだ。パンは焼きたてでまだ温かく柔らかい。シェフ特製ドレッシングのかかったサラダも前世では食べたことがないくらい美味しい。健康を考慮されたスープも野菜たっぷりながら柔らかく煮込まれ子供でも食べやすい。ベーコンも卵も個人の好みに合わせた焼き加減にしてあり、料理人の皆様本当にありがとうございます!という気分になる。

 どの料理も美味しく楽しみな時間と言えるのだが朝食は同時になんとも気まずい時間でもあった。

 その原因はーーーーーちらりと前を見る。

 そこには黒髪黒目の自分と同じくらいの年齢の男の子がいる。スタンだ。そしてその隣にはスタンと同じ色合いのライラがいた。

 朝食は皆揃って食べるべし、という母親の意向により用事がなければ父、母、ライラ、スタン、アレンで朝食を取ることになっている。

 それにしても今日もライラから向けられる視線が痛い。そんなに怖い顔して睨まなくても……。

 俺はライラが苦手だ。人に褒められる度に後継者なんだから当たり前と言われたり、王家の血を引く坊っちゃんは特別扱いされて良いですね、兄なら弟に色々と譲るべきでは?みたいな嫌味を言われるくらいだが……まああまり気分の良いものではない。

 ちなみにスタンとの仲は良好だ。

 彼はいつも母様がごめんなさいと言ってくる。ライラが自分に突っかかる度に肩身の狭い思いをしているようなので、早くライラがみみっちいまねをやめてくれるよう願っている。

 だが問題といえるのはそれくらいでなんとも充実した平和な日々だった。


 後継者教育も恙無く進んでいる。

 侯爵家の才色兼備な少女とも婚約をした。

 学園での生活も友人に恵まれ楽しい。神様が最初に言っていたように労せずして勉強も魔法も剣術も全てトップクラスだ。

 公爵家の運営についての資質も今のところなんの問題もないと祖父母にも父母にも家臣たちにもお墨付きをもらっている。


 本当に神様には感謝だ。


 そうなのだ………………

 平穏はとても幸せなことだ。贅沢なことだ。

 わかっている、わかっているのだ。


 だが、なんだろう?

 この満たされなさは…………



ーーーーーーーーーー


「入学おめでとう」

 多くの若者の眼の前で白ひげを蓄え魔法使いのローブを着たいかにも魔法使いですみたいなじいさまが皆に挨拶をしている。

 アレン15歳。

 今日は国内で一番優秀と言われるべライド学園の高等部の入学式だ。とはいっても初等部から中等部、そして高等部へとエスカレーター式なのであまり顔ぶれは変わらない。

 俺は10歳の頃より見た目も頭も成長した。

 見た目はまあ女子にきゃあと言われるくらいにはイケメンだ。頭もまたアレンが一番かよ~と言われるほど優秀だ。魔法や剣術は必ずしもトップではないが、同年代の中では3本指には入る。

 家族仲(ライラ除く)も婚約者とも友人とも関係良好。

 だが、相変わらず心は何か乾いていた。

 誰にも言ったことない。こんな贅沢なこと思ってはいけないことなのだから。新入生代表の挨拶を済ませ、壇上を降りる。

 男女ともにキラキラした目でこちらを見ている。そして、媚をうるような視線も。今高等部には王族は誰も通っていない。だから、俺が一番の権力者だ。

 だからそんな視線を送られる。

 式が終わり、友人と共に外に出る。外に出ても多くの人の視線を感じる。


 いや………………

 逸れた?

 なんだ?

 皆の視線の先には超イケてるメンズがいた。



 身長は高く、スラーっと伸びた手脚。身体はがっちりしているがくどすぎない。オレンジに近い金色の髪の毛はいわゆるウルフカットだ。髪の毛と同じ色の金の瞳は力強いというのか煌めいている。

 なんか妙なオーラがある。威圧感?カリスマ性?

 とにかく何やら人目を引く一人の男子学生。


「ライオン丸じゃないか!?」

 ライオン丸!?

 なんだそれは似合ってるような似合っていないような微妙なセンスは!声の主はアレンの隣にいた伯爵家出身の友人ジャックだった。

 彼はライオン丸ーーーと言いながら超イケメン学生に近づいていく。二人は知り合いのようだ。そのまま朗らかに久しぶりだと挨拶を交わす二人。

 イケメンは声もイケメンなのだなぁ………。なんというのかこう心に響くような心地よい低音ボイスだ。

 彼の視線がちらりとこちらを見る。

 金色の瞳と焦げ茶色の瞳が交わる。


 ドクンッ
 心臓が高鳴った。

 オレンジに近い金色の瞳と髪の毛。
 百獣の王を連想させる漂うカリスマオーラ。

 自分が作った英雄が目の前にいる。

 いや、違う。
 

 彼はーーーーー



「アレン!」

 ジャックに呼ばれゆっくりと二人に近づく。
 軽く会釈してくるライオン丸。

「ライオン丸!こちらはアレンだ。アレン・デラクシア。デラクシア公爵のお孫様だ。公爵家だぞ、王国で唯一の公爵家!仲良くしてもらえよ!」

 ジャックのこういう素直なところが好きだ。

「アレン。こちらはリカルドだ。リカルド・ライオネル。俺と同じ伯爵家だが、ただのその辺の伯爵家とは違うぞ!」

 周りで聞いている伯爵家の人に謝ろうか。アレンのシラけた視線はスルーしテンション高めで続けるジャック。

「この色合いと家名でわかるよな!?」

 わかるよジャック。周りからもザワザワと声がしてくる。

「かつて現れた魔王を打ち倒した我が国の宝!英雄様の曾孫様だ!」

 フー!やらキャー!やら周囲から歓声が上がる。

 おいおい、ノリが良いな。引きつり笑いを浮かべるアレンに向かってすっと手が出される。

「リカルド・ライオネルです。公爵のお孫様に会えるなんて光栄です」

 おう……。眩しい笑顔だ。

「アレン・デラクシアです。こちらこそ英雄の曾孫様に会えるなんて光栄です」

 差し出された手を軽く握る。

 
 会いたかった。
 いや、少し忘れていたけど。

 いつまでも孫も曾孫も現れないなーとか思ってたら忘れちゃったけれども。おっちょこちょいの神様のお導きでもしかして会えない運命かな……とか思って忘れちゃってたけど。

 彼に会ったら胸が高鳴った。LOVEの意味でではない。
 だが、彼の曽祖父の英雄は自分が作り上げたキャラクターだ。だからかなんか生き別れた家族に会うような……なんか特別な思いがこみ上げる。

「アレン。リカルドは魔法も剣術も天才なんだぞ!だからその才能を惜しげなく伸ばせるようにってお祖父様や伯爵家の騎士たちの下で鍛えてたから学園には通っていなかったんだ。あっ!でもこいつ頭もいいんだぞ、家庭教師を雇ってな。顔も体格も魔法も剣術も頭もなんて、どういうこった!」

 羨ましい気持ちはわかるが微妙に涙を溜めて言うでないジャック。

 流石にこのまま同年代との交流がないのはまずいということで高等部から入学することにしたようだ。



 それにしても良い男だ。これは絶対に女にモテる。

 いや、下手したら男も惚れる。いろいろな意味で。




 このとき俺はこんなことを思っていた。

 この英雄の曾孫様の迷走に巻き込まれるとも知らず。

 俺の平穏で贅沢ながらもどこかつまらないと感じる日々は




 彼との出会いで変わった。





 
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