勇者の曾孫の迷走録

たくみ

文字の大きさ
10 / 38

10.マザーラブ?②

しおりを挟む
「母です!」

 とても誇らしげに言い放つ彼におーーーと感嘆?関心?するような声が上がる。些か落胆したような気配が漂っているような。

 先輩に関しては明らかに眉尻が下がっている。

 が気を取り直したのか

「お母様の刺繍でしたか!とても素晴らしい腕前をしていらっしゃる!イエイ、ビューティフォー!そういえばリカルド君にはまだ婚約者や恋人はいなかったな!気を利かせたお母様がやってくださったのかな?優しいお母様で羨ましいぞーーー!」

 フーーーと少しからかうような歓声が上がる。リカルドはそれに答えるようにニンマリと笑うと

「いえ、母はいつか恋人ができたらお願いしなさいと断ってきました。だからめちゃくちゃお願いしてやってもらいました」

 フーーー…………?としょぼくれていく歓声。

 うん?
 別にそこまでして刺繍してもらわなくても良いのでは?
 見栄を張るために自分でやったものを女性にやってもらったと言ったり、家族からやってもらったものを女性からもらったとか嘘を付く輩も当然いるがこれは珍パターンだ。

「あははは。うんうん、そうかそうか」

 いやもうなんて言っていいか困っちゃってるし。何がそうかそうかなんだか。

「はい。そうなんです。自分母親第一なので!やっぱり一番大事な人に刺繍をしてもらいたいじゃないですか!!!」

 シーーーーーン…………と静まり返る場。
 あれだけ騒がしかったのに、ここまで静まり返ることが出来るのか。

「あ……と。うんうん、そうかそうか」

 顔を思いっきり引き攣らせながらうんうんと頷く先輩。さっき乗り切れたからまた同じ言葉で乗り切ろうとしているようだ。

「はい!」

 お行儀よろしく返事するリカルドは爽やかで輝いている。かっこいい、かっこいいのだが……場に微妙な空気が漂う。

「えー…………っと。イエーーーイ!とっても良いスマイルだ!まさに優勝者に相応しい笑み!それでは皆様解散!!!」

 ザザザザザッ皆が即座に移動する。この微妙な空気から逃れようとするように。


「……俺、マズいこと言ったか?」

 リカルドが頬をかきながら言ってくる。

「いや、別に悪いことを言ったわけではないと……思う。とりあえず俺等も教室に戻ろうか」

「ああ」


 闘技場には学生も教師も一人も残っていなかった。



ーーーーーーーーーー


 ホームルームが終わった後、学園内にあるカフェテリアでお茶を飲むアレンとリカルドの二人。優雅に足を組みながらお茶を飲むアレンと微妙に身体を竦ませているリカルド。

「で、いつからお前はお母さん大好きっ子になったんだ?」

「えっと…………3日前から?」

「そうかそうか。お前の母さん美人だもんな。ちょっと厳しい印象を受けたりするときもあるけど、お菓子作りが得意で胃が癒やされるよな。ちなみに俺はブルーベリーパイが好きだ」

「ああ、今度遊びに来る時に焼いてもらうよ」

「そうか悪いな。………………で?」

「えー……なんか言いにくいなぁ」

「今更お前が変な思い込みをしていようとどうも思わないから早く言え」

「…………俺なこの前本屋に行ったんだ。そこの親父に勧められた本を読んでな。母親を何よりも大事にしてる男が恋に落ちるんだが、なんやかんやいって結局母親を優先するんだ。デートも、母親と彼女が同時期に風邪ひいたときも、プレゼントも。そのたんびに彼女は男に惹かれていくんだ」

「ほう、引かれるんじゃなくて、惹かれるのか」

「そうだ。惹かれるだ。ヒロインは母親一人で育てられたから自分の母親を大切にしてくれそうな人を追い求めていたらしい。で結局二人は結ばれ皆仲良く暮らしましたという話しだったんだ」

「ほう、だからお前も母親を大事にしている男だとアピールしたわけだな。そしてモテようと」

「なんだよその呆れたような表情は。本では上手くいってたんだぞ!それに皆母親に反抗的な態度をとったりするものだけど、やっぱり結婚する相手には自分の親を大切にして欲しいと思うものじゃないか?」

「まあそれはそうだが」

 そりゃそうだ。自分だって親をばかにする様な嫁さんはノーセンキューだ。

「だろう?自分の親を大事にせず相手の親だけ大事にするやつもいるかもしれないけど、そんなん表面的な仮面みたいな感じがするじゃないか。そりゃああまりにもクズ親だったらそんなこともあるかもしれないけど。一応自分の親を大切にしてこそ相手の親も大切にしてくれるって女の子だって思うものだろ?」

「まあ…………でも一番大事な人は母親だって言ってこの人素敵ー!って思われるのはなかなかないと思うぞ。小さい子供が言ったら微笑ましいけど……」

 これだけ立派な図体をした男が良い笑顔で母親が一番大事とか言っちゃうのはなんか女性から見てかっこいい男とは思われないと思うのだが。

 いわゆるそれは


 マザコンというものでは…………

 そして行き過ぎたそれは女性にとってウザさ全開事案だと思うのだが。

「いや、でもケンはうまくいってたぞ?」

 誰だよ、ケンって?もしや

「ケンとやらは本の主人公か?」

「そうだ」

「そうか」

 友よ、現実を見るが良い。

 この学院にこんなマザコン、いや実際はマザコンを装っているだけだが。こんなマザコン宣言したからといって誰かそれで近づいてくるわけでもなし。

 リカルドもすぐに失策だったと気づくだろう。




「あの…………」

 控えめな声が二人にかけられる。視線を向けると黒色の髪をおさげにした可愛らしい小柄な女の子がいた。かなり緊張しているようだ。二人はお互いに目を見交わし顔を近づけて小声で話す。

 アレン、お前に用なんじゃ?

 いや、リカルドお前にだろ?

 はあ、俺に告白なんてないだろ?

 なんのためのお母さん大好き宣言したんだ?というかそもそも告白か?

 いやいやあの空気感を醸し出す男に近寄ってくる女性はいないだろう。この緊張感は告白だ。

 いやいやいやいや、わかっていながらなぜやらかす

 いややらかしたあとに気づいたんだ。俺は空気は読める男だ

 ……………………………………

 そんな目で見ないでちょうだい


 しょぼんとするリカルド、垂れ下がった耳としっぽが見えるようだ。

 

「あのっ!急にごめんなさい。私1年のミカエラ・デリスと申します!あのっさっきのリカルド先輩のあのお母さん一番大事発言に大変感動しました!あのっ私もお母さん大大大大大好きで!!!いや、自分と似たような人と初めて会えて嬉しくて!あの、それで!それで!それで!あの、それで!」

 あまり何を言いたいか纏まっていないが、なんとか伝えようとするその一生懸命な様子に二人も周囲の者も応援したくなる。ていうか何やら頑張れーやら大丈夫だぞーと声がかけられる。

「は、はい、ありがとうございます!」

 律儀だ。真面目な子だ。

「あの……リカルド先輩!」

「は、俺?あっ……はい!」

 一瞬戸惑ったようだが周囲から鋭い視線を投げられ元気よくお返事するリカルド。

「よければ私とお出かけしていただけませんか!?」

 
 うおーーー!
 きゃーーー!

 お出かけ!お出かけ!お出かけ!お出かけ!お出かけ!……

 お出かけコールが始まる。

 本当にこの学園の生徒はノリが良い者が多い。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!

くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました! イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。 あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!? 長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!? 二人共あの小説のキャラクターじゃん! そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!! へっぽこじゃん!?! しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!? 悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!! とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。 ※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。 それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください! ※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい ※不定期更新なります! 現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...