勇者の曾孫の迷走録

たくみ

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11.マザーラブ?③

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 学友たちが続々と登校してくる中、教室でアレンとリカルドは駄弁っていた。彼らはいつも剣術の自主トレの為に早朝から学校に登校するので教室に来る時間も早い。

「で最近どうなんだ?」

「うん?」

「デリス嬢だよ。あれから何回か会ったんだろ?」

「ああ」

「……お互いご母堂付きで」

「ああ。彼女が当然のように母付きでというからな。嫌がる母を説得するのは大変だった」

「へぇ…………」

 そりゃあ婚約の場でもなければ、昔から知ってるご令嬢でもない。恋人になる前段階。若い二人がお互いを知り仲を深めていく時期。そのお出かけになぜついていかねばならないのか……ご母堂の困惑顔が目に浮かぶ。
 
 リカルドは背も高ければ見た目も極上。外にいれば周りの目は自ずと集まる。どんな思いで一緒にいるのか考えると気の毒で涙が出そうだ。出ないけど。

「なかなか同行することを頷いてくれなくてな。毎日毎日纏わりついても駄目だったから、最後の方には寝ている間に暗示かけようと思って枕元でブツブツ言ってたら完敗だって言ってついてきてくれるようになったよ」

 おう……それは毎夜毎夜、気味が悪いな。それならば無心になって息子のお出かけに付き合った方が良いかもしれない。

「婚約とか考えてるのか?」

「あーまだそこまでは「おはよう、授業始めるぞ!」」
 
 担任の先生が入ってきたので話しを中断する。

 口ではまだと言っていたがちょこっとニヤついていたし、視野にも入れているようだ。ぼーと教師の話しを聞きながらそんなことを考えていると

「おーい、アレンちゃんと聞けよ」

「すみません」

 叱られた。ちなみに担任の先生はフリッツ先生だ。とても男前で長い黒髪を後ろで束ねる大人の色気のある先生だ。俺もいつか出るだろうか色気。自分で言うのもなんだがそこそこイケてるとは思うが残念ながら色気はない。

「いいかお前ら。学園近くの店や家で強盗が多発してるからお前たちも気をつけるんだぞ」

 最近、学園近辺で強盗騒ぎが多発している。幸いなことに死者はまだ出ていないが、怪我人は多数出ている。学園近くということで彼らがよく行く店も襲撃にあっており、皆早く捕まることを祈っているのだが……。

「まだ捕まらないんですか?」

「ああ、一人上級魔法使いがいるようでな。あと一歩というところで逃げられるらしい。逃げ足だけじゃなく、攻撃魔法もかなりの腕前みたいだ。だからお前たちの中にも腕に覚えがあるやつもいると思うが下手に首突っ込むんじゃねえぞ」

 学園は貴族の子息が通うということもあり、王都に建っている。すなわち強盗を追っているのも王都を守る兵士だ。それなりの実力者が多い。

 それでも捕まらないとは、かなり手強い強盗だと窺える。

「まあいつかこういう奴等を捕まえたりできるように、俺等には俺等の今やるべきことをするぞ。というわけで教科書開けー」

 始まる授業。

 そして、終わる全ての授業。


「アレン」

「どうしたリカルド」

「今日この後時間あるか?急ぎじゃないんだが少し聞いてほしいことがあるんだ」

 急ぎじゃないと言いつつ真剣な顔をしているリカルドに珍しいと思うアレン。だが

「すまない。今日は「あら、聞いてあげなさいよ」」

「「エリザ」」

 声をかけてきたのは隣のクラスに在籍する燃えるような赤色の髪の毛と瞳をもつスレンダー美少女にして由緒正しき侯爵家の令嬢エリザ・ファレスト。彼女は波打つ豊かな長い赤髪をかきあげながら言った。

「貸一つね」

 そう言うと友と一緒に去っていく。周囲の令嬢がかっこいいと目をトロンとさせている。婚約者の俺よりもモテていないか。

 そう彼女は10歳の頃から俺の婚約者だ。そしてリカルドの幼馴染でもある。親の仲が良かったのでたまに遊んでいたよう。

「エリザと約束があったのか?俺は明日でも大丈夫だぞ」

「いや、まあ新しくできたカフェに行こうと思ってたんだが。エリザもああ言ってるし大丈夫だよ。お前が話しを聞いてほしいなんて珍しいしな」

「あ、いや。デリス嬢とのこと朝話したじゃん?俺ああいう話しするの始めてで話してみたらなんかこう気持ちがあったかくなってさ。もう少し聞いてもらいたいな……て思っただけなんだよ。なんか悪いな、緊張して顔が強張ってたみたいだ」

 強張った顔があんな真剣なイケメン顔になるのか、羨ましい。

「エリザが気を利かせてくれたんだから、いろいろ話しちまえ」

 ポンポンと肩を叩くとすまなそうな顔からホッとした表情になる。素直なやつだ。

 そうしてリカルドは口を開いた。


 …………………………


「でな、デリス嬢の母君の得意料理はビーフシチューだそうだ。うちの母親もだけど貴族女性でも意外と食事を作る人っているんだな」

 ちょっと羨ましい、うちの母は全然できないぞ。

「デリス嬢の母君はお菓子作りも得意だそうで、夏は氷魔法でアイスやかき氷を作るんだって」

 そうか、それは涼しそうで良いな。

「あとデリス嬢の母君の愛読書は女性伯爵と夫と男妾5人、夫の愛妾5人も添えてらしい」

 そうか、官能小説が愛読書なのだな。

「それにデリス嬢の母君のドレスの趣味は「ちょい待て」」

 きょとんとするリカルドに先程から言いたかったことをはっきり言う。

「もうデリス嬢の母君の話しは結構だ」

 得意料理より前からも母君が母君がと言われて胸焼けが。

「おう」

「どんなところに出かけるんだ?お前から見たデリス嬢はどんな子だ?」

「うん?カフェか公園でひたすらおしゃべりだ。彼女は母君を大切にしている子って感じだな」

「………………そのおしゃべりってもしかして母君のことばかりとか?」

「ああそうだな。デリス嬢は自分のことを話すことが得意じゃないのかもしれないな」

「もしかしてお前も自分の母君のことペラペラと…………」

 だとしたらなんか気の毒過ぎる。眼の前で色々と話されるなんて自分だったら嫌だ。

「いや、ほとんど話さない。少し話したら思いっきり足を踏まれてな。だから自分のことやクラスの女子がしていた話しなどを振っているんだが、あんまり楽しくなさそうでな…………困ってるんだ」

 チラチラと期待した目でこっちを見るな。

 答えは出ている。楽しい会話をしたいならお前も母君の話しをすれば良い。

 だが、そんなことを言えば母君がストレスでどうなるかわからない。というより助言したことがバレたら……恐ろしい。

 黙っていよう。

「そうだな、デリス嬢のことを聞いて彼女のことを知ったり」

「露骨に顔を顰められた後に母君の話しに変わっていった」

「じゃあ、リカルドのことを知ってもらえるように自分の話しとか」

「反応悪かった」

「ドレスとかアクセサリー、雑貨、勉強」

「どれも駄目だった」

「はっ!英雄の秘話とか」

「それもだ」

「もう黙って聞いてろ」

「そんな~~~」

 情けない顔だ。だが男前。羨ましいぞ。

 だがなんか話を聞いていて、しょげている様子を見ていて思った。思ってしまった。

 言ってしまおうか。

「俺もなんかちょっと変わってるなとか思ってはいるんだよ」

 よし言ってしまおう。

「でもなんか母君の話ししているときの照れくさそうな誇らしそうな笑顔とか見てると可愛いなって思うし。一番身近な人を大切にできるっていうのは良いことだと思うんだよ。特に母親とかって大事なんだけど無性に反抗したくなったり、恥ずかしくて素直になれなかったりするじゃん。そういうのがないのって凄いなーとか思うわけだよ」

 やっぱり言わないでおこう。

「そうか……。でもやっぱりこれから生涯を共にするかどうかはちゃんと見極めるべきだ」

「ああわかってるよ。また今度の休みに一緒に出かけるんだ。また話し聞いてくれよ」

 あーあ、嬉しそうな幸せそうな顔しちゃって。友人以上恋人未満な関係。友人としてその顔が末永く続いて欲しいと思う。

 本当は言ったほうが良かったのかもしれない。

 でも彼の顔を見たらやっぱり本音は言えなかった。


 もう少しもう少し様子を見よう。

 それでやっぱり俺の思いも変わらなかったらぶっちゃけちゃおう。


 デリス嬢はやばいからやめとけ、と。

 
 

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