勇者の曾孫の迷走録

たくみ

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16.君に合う名はなんですか?②

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「タイム」

 タイム?????

『ほう……タイムとな』

 クックと喉で笑う精霊獣様。いやはやこいつは何を言いたいんだと頭が混乱する我らとは違い、悠然と構えているいらっしゃる。兄貴とお呼びしたい。はっ!いや、もう名前兄貴でいいんじゃないか?

「契約するのに名前が必要なのは存じています」

『……………………』

 そう。精霊獣とは名前を与えると契約することができる。面白そうに目を細めている精霊獣様。もしや、面白いことが好きなのだろうか……だからこの少々変わり者のこの友人をお選びになったのだろうか…………。

「ですが、どれだけ考えても名前が出てこないのです!」

 ーーーだろうな。

 皆思った。じゃなければタイムなんて言葉出てこない。

「貴方様にふさわしい名前をつけてみせますので、お時間を頂けないでしょうか?」

 とても真剣な表情。

 男から見ても見惚れる。

 言ってることは常識外れだが。

 だが皆息を呑む。精霊獣様の返答によってはこの最高の相棒を得るチャンスを失うのだから。

『構わぬ。長い時を生きている故な数日のことなどそなた達の1秒にもならぬわ。その代わり……私に見合う名前を頼むぞ』

 そう言って、精霊獣様はポンと可愛らしい片手で抱っこできるミニチュアサイズになった。しかも凛々しさは消え、なんか顔の周りがモフッとして身体も筋肉を失いポチャッとした可愛らしい感じになっている。

 小型犬みたいで非常に愛らしい。撫で撫でしたい。


『ではな』

 そう言って去っていく精霊獣様。精霊獣は普段天界にいる。人と契約すると長時間人間界にいられるようになるが、それでもずっとというわけにはいかない。

 一般的な精霊獣が契約無しの状態で人間界に留まることは難しい。だがリカルドが召喚した精霊獣様は契約無しでも人間界に暫く留まれるようだ。それだけ強いということが伺い知れる。


 だが、それにしても………………

 その後ろ姿

 かわええなぁ。


ーーーーーーーーー


 教室に戻ったリカルドはクラスメイトに取り囲まれていた。なぜかって、もちろんのこと精霊獣の名前についてだ。

「ねえねえ何にするの?」

「リカルド羨ましいぜ!あんなかっこいい精霊獣様!俺は……俺は…………誰も出てきてくれなかった…………っ……っ……」

「それにしても精霊獣様素敵よね~」

 皆口々に好き勝手思うことを言っていく中、

「リカルドお前、何様だよ」

 聞いているものが不快になるような物言いをするのは同じクラスのジェラスだ。燃えるような赤髪と瞳、顔立ちは中の中、身長も平均、頭の出来は中の上、子爵家の長男。モテレベルは性格の悪さもあり皆無。

 ジェラスは何かと優秀で超絶イケメンのリカルドに突っかかってくる。まあ嫉妬丸心出しで見るに耐えないが。リカルドはすっとジェラスに視線を向ける。気丈に睨み返しているがびくっと震えたの見たぞ。

「何様?」

「精霊獣を喚べる人間は少ない。皆必死なんだよ……願って願って願いまくるんだよ。それなのになんなんだよお前!もし精霊獣が嫌だって言ったらどうするつもりだったんだよ!たかが名前くらい適当につければいいだろうが!皆喚び出せたやつが羨ましくて仕方ないんだよ!なのに何なんだよお前!……名前考える時間を欲しいとか!先に考えとけよ!っていうかもしかして自分だったらまた喚べば他にも召喚に応じてくれる精霊獣がいるとか思ってるんじゃないのか!?どれだけ傲慢なんだよ!ふざけんじゃねえぞ!!!」

 しーーーんと静まり返る室内。

 ふんっと腰に手をあて言い切ったとばかりのジェラス。

 まあ別にその剣幕に黙った訳じゃないんだが……
 どちらかというと空気よめねー…………と言った感じだ。

 そんな思いに気づかぬジェラスの鼻が微妙に膨らんでいる。皆の注目を浴びているからか、言い負かしてやったという思いからか……そんな自分ってかっこいいと思っているようだがなんかカッコ悪い。

 ゆらりと立ち上がるリカルド。

 おいおいリカルドは立っただけなのに腰が引けてるぞジェラス。

「まあ色々思うことは人それぞれだよな。俺の言動で不快に思った人がいたら悪かった。申し訳ない」

 ペコリと軽く頭を下げる。

「だがそもそもどんな言葉だって行動だって全員が同じ思いを持つということ自体ほとんどないことだと思う」

 それはそうだ。ある行いを善い行いだと褒める人もいれば偽善者だと言うやつもいる。全員に認められる言動というものは案外ないものだ。

「だからまあ気をつけはするがこれからも不快な思いをさせることはあると思う。皆勘弁な」

 周囲の者はそもそもあいつみたいに思ってないしーという感じの者が多そうだ。

「だがなジェラス。俺は精霊獣に待ってくれと言ったことは後悔していないし、お前に言われた後に召喚していたとしても同じことを言ったぞ」

 まあこいつならそうだろうな。

「まず俺は今回名前をさっとつけられたやつは俺と違って決断力があって尊敬する」

 おっ、おお。自分を指しているわけじゃないんだろうがなんか照れる。

「ジェラス。自分の子供に名前をつけるとき何時間も何日もかけて悩まないか?」

 まあ、悩む人は多いだろうな。

「先に決めておけば良いという意見もあるだろう。たぶんこのクラスにも喚べたらこういう名前をつけたいと一生懸命考えたやつもいるだろう」

 うんうん、と頷く者が何人もいる。
 なのに…………なんで応じてくれないんだという悲しい声も聞こえてくる。

「だが、中には顔を見てその子にあった名前をつけようという人だっているはずだ」

 そらそうだ。

「俺はそういうタイプの人間なんだ」

 そうか。

「そして、すぐには決められないタイプの人間なんだ。だからそう言っただけだ。それで精霊獣が納得してくださらなかったら諦めるしかないだろう。精霊獣は大切なパートナーだ。失礼があってはならない。自分も精霊獣も納得いかない名前を適当につけるくらいなら……俺は一人でいい」

 おお!決断力ないことを超かっこいい感じに言っている。いや、そりゃあ名前は大事だが、とりあえず契約するためには早急に名前をつけなければならない。それ以外の選択などないのだ。ダサかろうが似合わなかろうがつける。それが当たり前というものだ。

 チャンスを不意にするのは愚か者のすることだ。
 まあ今回恐らく初めての事例となったわけだが。

 普通はそもそも契約がなかったら人間界にいられないわけで、リカルドが呼び出したライオン激似の精霊獣が規格外だから叶ったものなのだ。

 即ち彼はかっこいいことを言っているようで、非常に運が良かっただけと言えるのだが、なんかかっこいい選択みたいに見えるのは顔のお陰だろうか。

 それにしても二人共まともなことを言ってないのに、片方はダサく、片方はかっこよく見えるのが不思議だなぁ。



 
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