エッチするまで出られない屋敷

世界のボボブラ汁(エロル)

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なりきり騎士を説得する

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「おかしいな、魔女なら涙が出ないはず」

 血圧Maxだった今までと違い、スンッと一気に落ち着いた騎士。じゃあ一体この女は何なんだ、とブツブツ言っている。

 私はここぞとばかりにぶんぶん頷いた。

「そうよ、魔女じゃないわよ! 貴方、コスプレにハマりすぎて自分設定から出てこられなくなっちゃったのよ!」
「俺の国の魔女は、言い伝えでは黒い耳と尻尾がついている」

 ひねくれた設定だな! 私はカチューシャを放り投げた。

「これ、飾り、飾りなのただの! だいたい魔女なら箒に乗ってるでしょ、飛べないし私」
「なんだその魔女。箒に乗ったって飛べないだろう普通。魔女は猫族と決まっておる」

 お前の頭にある魔女おかしい! それでもまだ剣を突き付けてくるので、私はお尻を向けた。

「違うってば。だって、尻尾も取れるわよ」

 そのまま、針金の入った黒猫の尻尾を外す。けっこうがっちりついてるから、ものすごく引っ張ったらスカートが持ち上がってしまった。

 騎士は尻尾より私のお尻を見ていた。なんか頬を赤くして目を逸らしている。

「魔女ではないなら、その──なぜそんな破廉恥極まりない格好をしているのだ」

 ああ、このミニスカガーターベルト網タイツのこと?

「今日はハロウィンの集まりがあるから」
「は?」

 理解不能だったようだ。それを言うなら、彼だってそうだ。

「なんでそんなガチのコスプレしてるの? 銃刀法違法で捕まるよ?」
「は?」

 これも理解してもらえない。一応、お互い日本語で話し合っているはずなんだけど。噛み合わない感半端ねぇ。

「わたし、あっちの屋敷から来たの。もっと狭い屋敷だったはずだわ。戻っていい? あっちなら、ドアが開くかも」

 騎士はしばらく警戒していたが、渋々頷いた。

 なんでもこちらの屋敷を探索していたら、扉や窓が開かなくなったらしい。

 まあ、古そうだもんね。

 あっちの小ぶりな屋敷は、社長のお姉さんが亡くなる直前にリフォーム済み。こっちも一緒に売りに出すなら、リフォームしないと無理だよ。販売価格吊り上がるだろうなぁ。

「衣装ダンスの中から音がしたから入ってみたら、似たような部屋に出たんだ。しかも、お前が変な音のする武器で俺を狙っていた。それは卑怯者の使う機械式の石弓クロスボウとかいうやつだろう?」

 ただの一眼レフのカメラぁぁああ。

 私はため息をついてから、騎士を促して部屋の外に出た。それにしても、広いお屋敷だ。

「えっと、どこから来たかしら」
「ちっ、ついてこい魔女」

 魔女じゃないってば。ガチャガチャいいながら先を歩く鎧姿の騎士。重くないのだろうか。

「それって中世の騎士のコスプレ? どこの国の人なの、あなた?」
「ボーボリアン王国だ」

 どこそれ!? 設定甘くない? なり切るなら国とか時代とか考えない? あ、そうか。ネトゲとかアニメとかのキャラクターね。私詳しくないんだよな、そっち系。

 私たちはあの衣装箪笥のある部屋に入った。

 重厚な両開きの扉はマホガニーだろうか。綺麗な浮き彫り細工がほどこしてある。これは社長の物件にあるものと全く同じものだった。私は首をかしげる。

 この裏の隠し部屋が社長の物件。お隣同士でつながってる? こちらの屋敷は売るつもりが無くて、この穴を塞ぐつもりなのかしら。

 でも隣の家は普通のアパートだった気がするけど。裏庭を挟んでるしさ。

 そもそも情報が──区画図が間違っていたのかしら。

 いやいや、裏にこんなでかい家建ってなかったでしょ、どう思い出しても無かったわよ。こんなのあったら目立つもの。

 私は不安を押し殺して、先に立って家具の中に入った。手探りで進む。ずいぶん奥行きがある。穴と言うより、背面から渡り廊下のような通路になっているのだろうか。

 なんか、あれ?

 辺りにあるはずの、家具の木の感触が無くなる。真の闇の空間に手を伸ばしているような?

 何もない。怖い。上も下も分からなくなって、宙に浮いているみたいじゃない……。

「え、ねえ、ちょっとさっきの外人」
「ガイジンなどと言う名ではない。ルジェクだ。ルジェク・カーヴルト。カーブルト家の長男で、フンベルック領主ウンバゲーリ伯及び勲爵士。先の活躍により王からこの騎士領を封じられ──」

 そういうのいいから。詳しくないんだってばアニメとかゲームのキャラ。

 ちょ、そんなことより、足が浮いてる感じがするんだけど。

「真っ暗だよ、怖いよ」

 私は不確かな空間にパニックになり、手を伸ばした。騎士──ルジェク──は私の腕を掴んだ。

 私はほっとして、さらに先に進む。こんな頭がいっちゃってるオタクに腕を掴まれて安心するって……なんやねん。

 右手が、木製の扉に触れた。

 良かった。このまま変な空間から出られないのかと思った。腰が砕けそうになるのをルジェクが支えてくれた。あら、けっこう紳士じゃないの。

「早くいけ魔女」

 冷たいな。

「魔女じゃない。留華」
「魔女に名前など無いだろう」
「魔女じゃないってば」

 言い争いながら外に出る。なんとも白い微妙なぼんやりした光。それでも見覚えのある広さの室内に出て、安心した。

「こっちの世界なら出られるよ」

 私は普通に窓を開けようとした。でもそこで、ぴたりと手が止まる。外が真っ白だった。まるで霧が立ち込めているみたいに。

 あれ、なんか、時間的にこの明るさもおかしくない? さっきは夕方だったんだから、本当ならもうとっぷり暗くなってきているはず……。

 私は生唾を飲み込んで鍵を外し、窓を開け──ようとして失敗した。開かない。たて付けが悪いだけ? 私は焦って、窓をガタガタ言わせる。

「薄くて透明のガラスだと? むむ……もったいないな」

 すぐ背後で声が聞こえた。

 どけ、と言われて下がると、ルジェクが椅子を持ち上げて窓に叩きつけるところだった。

 ぼいーん、という音がするのではないかと言うほど、窓が盛大にたわんだ。

「この家の窓、なに? 防弾ガラスなの?」

 私は呆然と呟く。

「いや」

 ルジェクが顔をしかめる。

「あっちの屋敷も同じだ。たわんで割れなかった。椅子の方が壊れた」

 私は部屋を飛び出して階段に向かう。

 階下に向かって駆け下りた。物件撮影に入る前に、玄関のドアは開けっ放しだったはず。

 そうよ、普通にあそこから出れば……。

 漠然と嫌な予感はしていたけれど、扉は閉ざされていた。そして、いくら押しても引いても開かなかった。


「スマホ!」

 私は、今度は一階のリビングに駆け込む。自分の荷物を見つけて、叫んでいた。

「そうよ、スマホ持ってるじゃん!」
「オナホだと!?」

 後を追って階段から降りてきた騎士の声。下品なネタぶっこむなよ! 騎士貫けや。

 荷物をごそごそやり、あわててスマホを取り出した。Wi-Fiは飛んでないのは分かるけど、電波の線なら立って──無い!

 嘘やん!? 呆然と床の上に座り込む。ガチャガチャと音がして、すぐ隣にルジェクがやってきた。

「おい、魔──ルカとやら。勝手に俺から離れるな」

 私が逃げたと思ったのだろうか。逃げられるならそうしたい。しかしふと彼の顔を見ると、不安そうだ。あら、やだかわゆいっ。突然一人にされて心細かったのかしら。

「この床上のランタンはなんだ? カボチャの形をしておるが、顔がついてるぞ」
「そんなことより、電波が通じないのよ!」
「デンパ? なんだそれ、魔法か?」

 なんか、色々と現代の言葉が都合よく通じないようになっているらしい。

 外の霧、開かない扉や窓。

 頭の中に、テレビ番組の「意味が分かるとほんとは怖い、貴方が知っていそうで実は知らない、伝説の世界」略して意味怖の音響が流れる。

 どうやら私は、いや、私たちは──。

「異世界に迷い込んだみたい」
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