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人が変わったような悪役令嬢
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違和感による一抹の不安を残しながらも、これでクリフォード様は私のものになると思った。
悪役令嬢からの嫉妬に満ちた視線や、護衛騎士からの憎悪の視線を気にしなくてよくなる。
エディンプール公爵と決めた婚約を勝手に破棄された国王夫妻は大激怒して息子に謹慎を命じたが、クリフォード様は私との結婚を強引に進めようとがんばってくれていた。
嬉しかった。時代は変わってきているのだ。これからは、王族も好きなように伴侶を選べるようになるのだわ!
ただ……いつも思うの。
クリフォード様が、王太子でなければよかったのに、と。
ただのイケメン学院生だったらな。彼と普通に恋愛し、結婚し、子供を持てれば、私はそれで満足だったのに……。
私の家はそこそこ裕福だったから、王太子妃になって贅沢したいわけではない。それに、やがては自分ごときが王妃になるのかと思ったら、怖くて仕方なかった。
それでもクリフォード様が望むなら、精いっぱい支えるけれど。
一度だけ、王太子の座を譲ることはできないのか聞いてみたことがある。
クリフォード様は驚いたように私を見て「まさかエディンプール公爵家と同じ──」と言いかけた。
私が不思議そうに彼を見返すと、探るように私をじっと見つめ、それから言った。
「そんなはず……ないか」
「え?」
「……とにかく二度とそんなことは言わないでくれ。ローレンスの体では耐えられないし、あとは女ばかり。僕が次の国王だ」
きっぱり言いきられてしまい、私はしゅんと下を向く。彼の心は決まっているのね。
「君は僕を信じていればいい」
私は弱々しく頷いた。クリフォード様は王太子。彼と結婚するということは、やはり私が次の王妃になるということなのだろう。
改めて、真実の愛を貫く重さを感じた。
※ ※
謹慎中のクリフォード様と私が、お忍びで街デートを楽しんでいた時のことだ。
地味な格好をしたローレッタ様が──あの平民いびりで有名なローレッタ様が、慈善活動にいそしんでいるところに出くわした。
卒業後に会うのは初めてだったが、すっかり様変わりしている。
ローレッタ様とは思えない慈愛に満ちたやんわりした笑顔をふりまき、浮浪者や孤児を集めて炊き出しをしていたのだ。
クリフォード様はそれを見て「あり得ない」と呟き首を振った。そして私が止めるのを無視して、ローレッタ様に近づいた。
「何をしている、君はまだ公爵令嬢であろう?」
ローレッタ様はクリフォード様に気づき、青ざめた。
「まあ、でで、で、殿下。殿下こそ。こんな下町に出てきては危険ですわ」
「騎士らが陰から見守っているから大丈夫だ」
ローレッタ様は私に気づき、にっこり笑いかけてきた。
「お天気がいいから、デートですのね」
私はその美しさに恐怖した。
私の自慢のクリームブロンドも大きな若草色の垂れ目も、彼女のエレガントでゴージャスな美しさには敵わない。薔薇とオオイヌノフグリくらい違う。
じっさい艶のある紫色の髪とアメジストの瞳のローレッタ様は、紫の薔薇そのもの。華のある美しさの彼女は、みすぼらしいフード付きのマントを羽織っていても気品に溢れていた。
その容姿は、豪華な銀髪を輝かせる王太子殿下の優美な姿と並ぶと、ピッタリだと思った。
不安でしょうがなかった。クリフォード様がローレッタ様を食い入るように見ているのが、すごく嫌だった。
「修道院に入ると言っていたのに」
気づくと、私はローレッタ様にそう言っていた。
「クリフォード様に全学院生の前で辱められたのに、どうしてまだ王都にいらっしゃるのかしら?」
クリフォード様の顔が気まずそうに歪むが、私は構わず非難する。
「私なら恥ずかしくて死んでしまうわ」
「ニーナ」
クリフォード様に窘められて、ハッと口を押さえた。
ローレッタ様は辛そうに顔を伏せる。
「わたくしは、公爵令嬢という立場に甘んじ、他の貴族の皆様のようにノブレスオブリージュりませんでしたの」
ノブレスオブリージュる? きょとんとする私の横で、クリフォード様が説明する。
貴族には、その地位や財力に応じた社会的義務があるんだよ、と。さらには、平民のニーナには分からないだろうけどね、と付け足され、なんとも言えない気恥ずかしさと、苛立ちがこみ上げた。
境界線を引かれたような気分になったのだ。
ローレッタ様はそんな私には気づいた様子もなく、もじもじしながら言った。
「それで都のスラム街が、急に気になりだしましたの」
小さく「転生前の日本には、こんなやせ細ったストリートチルドレンはいなかったもの」と呟いたのが聞こえたが、私にはなんのことだか分からなかった。
「クリフォード様が、やがてこの国を変えてくれると信じておりますわ」
ローレッタ様は凍り付くクリフォード様に再び眩しいほどの笑顔を向け、それから炊き出しに戻っていった。
悪役令嬢からの嫉妬に満ちた視線や、護衛騎士からの憎悪の視線を気にしなくてよくなる。
エディンプール公爵と決めた婚約を勝手に破棄された国王夫妻は大激怒して息子に謹慎を命じたが、クリフォード様は私との結婚を強引に進めようとがんばってくれていた。
嬉しかった。時代は変わってきているのだ。これからは、王族も好きなように伴侶を選べるようになるのだわ!
ただ……いつも思うの。
クリフォード様が、王太子でなければよかったのに、と。
ただのイケメン学院生だったらな。彼と普通に恋愛し、結婚し、子供を持てれば、私はそれで満足だったのに……。
私の家はそこそこ裕福だったから、王太子妃になって贅沢したいわけではない。それに、やがては自分ごときが王妃になるのかと思ったら、怖くて仕方なかった。
それでもクリフォード様が望むなら、精いっぱい支えるけれど。
一度だけ、王太子の座を譲ることはできないのか聞いてみたことがある。
クリフォード様は驚いたように私を見て「まさかエディンプール公爵家と同じ──」と言いかけた。
私が不思議そうに彼を見返すと、探るように私をじっと見つめ、それから言った。
「そんなはず……ないか」
「え?」
「……とにかく二度とそんなことは言わないでくれ。ローレンスの体では耐えられないし、あとは女ばかり。僕が次の国王だ」
きっぱり言いきられてしまい、私はしゅんと下を向く。彼の心は決まっているのね。
「君は僕を信じていればいい」
私は弱々しく頷いた。クリフォード様は王太子。彼と結婚するということは、やはり私が次の王妃になるということなのだろう。
改めて、真実の愛を貫く重さを感じた。
※ ※
謹慎中のクリフォード様と私が、お忍びで街デートを楽しんでいた時のことだ。
地味な格好をしたローレッタ様が──あの平民いびりで有名なローレッタ様が、慈善活動にいそしんでいるところに出くわした。
卒業後に会うのは初めてだったが、すっかり様変わりしている。
ローレッタ様とは思えない慈愛に満ちたやんわりした笑顔をふりまき、浮浪者や孤児を集めて炊き出しをしていたのだ。
クリフォード様はそれを見て「あり得ない」と呟き首を振った。そして私が止めるのを無視して、ローレッタ様に近づいた。
「何をしている、君はまだ公爵令嬢であろう?」
ローレッタ様はクリフォード様に気づき、青ざめた。
「まあ、でで、で、殿下。殿下こそ。こんな下町に出てきては危険ですわ」
「騎士らが陰から見守っているから大丈夫だ」
ローレッタ様は私に気づき、にっこり笑いかけてきた。
「お天気がいいから、デートですのね」
私はその美しさに恐怖した。
私の自慢のクリームブロンドも大きな若草色の垂れ目も、彼女のエレガントでゴージャスな美しさには敵わない。薔薇とオオイヌノフグリくらい違う。
じっさい艶のある紫色の髪とアメジストの瞳のローレッタ様は、紫の薔薇そのもの。華のある美しさの彼女は、みすぼらしいフード付きのマントを羽織っていても気品に溢れていた。
その容姿は、豪華な銀髪を輝かせる王太子殿下の優美な姿と並ぶと、ピッタリだと思った。
不安でしょうがなかった。クリフォード様がローレッタ様を食い入るように見ているのが、すごく嫌だった。
「修道院に入ると言っていたのに」
気づくと、私はローレッタ様にそう言っていた。
「クリフォード様に全学院生の前で辱められたのに、どうしてまだ王都にいらっしゃるのかしら?」
クリフォード様の顔が気まずそうに歪むが、私は構わず非難する。
「私なら恥ずかしくて死んでしまうわ」
「ニーナ」
クリフォード様に窘められて、ハッと口を押さえた。
ローレッタ様は辛そうに顔を伏せる。
「わたくしは、公爵令嬢という立場に甘んじ、他の貴族の皆様のようにノブレスオブリージュりませんでしたの」
ノブレスオブリージュる? きょとんとする私の横で、クリフォード様が説明する。
貴族には、その地位や財力に応じた社会的義務があるんだよ、と。さらには、平民のニーナには分からないだろうけどね、と付け足され、なんとも言えない気恥ずかしさと、苛立ちがこみ上げた。
境界線を引かれたような気分になったのだ。
ローレッタ様はそんな私には気づいた様子もなく、もじもじしながら言った。
「それで都のスラム街が、急に気になりだしましたの」
小さく「転生前の日本には、こんなやせ細ったストリートチルドレンはいなかったもの」と呟いたのが聞こえたが、私にはなんのことだか分からなかった。
「クリフォード様が、やがてこの国を変えてくれると信じておりますわ」
ローレッタ様は凍り付くクリフォード様に再び眩しいほどの笑顔を向け、それから炊き出しに戻っていった。
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