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砦勤務の未来の旦那様

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 門番からの報せを待つ間、粗野な砦の兵士たちがいやらしく笑いかけてくるので、ざわっと鳥肌が立った。

 こういうのがダメになってしまったの。前は気にも留めなかったけど、今は下心のあるへつらった笑顔は分かるようになったから……。色欲の浮かんだ目をしているもの。

 クリフォード様含め、学院の男子らは育ちがいいせいか、こんな風にあからさまには私の体をジロジロ見たりしなかったけどな。

 そういえば、黒騎士の赤い瞳が私の体を見下ろしたあの時、欲望が含まれた視線の怖さを知ったのかもしれない。

 街で絡んできたゴロつきと、同じ類だった。あの時は怖かった。蔑みと欲に塗れた嫌な視線だったから。

 もうノワール様──じゃない、スタンリー様はそんな風に私を見ないけどね。

 性的な目で見られるのは、こんなに不快なんだ。

 私はなるべく彼らの方を見ないように、うつむいていた。

「わたしの見てくれって、そんなにビッチ? 童顔だし、おとなしめですよね?」

 エロイーズとイーライさんの二人に、小声で聞いてみた。

「親しみがある、あざといビッチよね」
「清純派で売っている矛盾した娼婦っぽい」

 遠慮なく評価する使用人仲間二人を睨みつける。否定してほしかったのに!

 別に露出しているわけでも、色っぽいわけでもないのになぁ。



 けっきょく砦内に通してもらえたけど、さらに数時間中で待たされた。

 入れ代わり立ち代わり兵士たちが私を見に来て、ヒューッ見ろよあのデカパイを! とか、かわい子ちゃ~ん! 俺の○○○ピーッして! と叫んで逃げていくので、辟易してしまう。

 でも待っている間、食堂で食事をとらせてもらった。デザートがメニューに無いですと!? 

「差し入れに、日持ちする焼き菓子とか持ってくればよかったわ」
「旦那の職場にそういうことすると、嫌われるらしいわよ」

 エロイーズと会話している横で、イーライさんはここの名物として勧められた砦丼を、ガッツリかっくらっている。

「なんだ君たちは」

 冷たい声が響いた。

 振り返ると、プロテクターのようなものを外しながらノワール様──じゃない、スタンリー様が兵士らを引き連れてやってきた。

 グレーの軍服はあちこち破れ、腕や足からは血が出ている。連れていた兵士らもケガしているのに、まったく気にせず食堂の席に着き、カウンター奥に向かって食べ物を注文しているではないか。

「え……ちょっと、血が! どうしたんですか?」
「大ケガだわ、式だってもう近いのに」

 イーライさんとエロイーズに言われ、スタンリー様は自分の体を見下ろす。

「ほとんど返り血だよ。魔獣が出たから」

 そう答えてからキョロキョロして、イーライさんを睨んだ。

「男はお前一人か?」
「え、ええ。あとは御者くらいです」
「……護衛を連れてこなかったのか。国境近くは危険なのに何をやっている?」
「あ、私がお断りを……」

 イーライさんが怒られそうだったので、慌てて庇った。

「本当は一人で来たかったくらい」
「は?」
「二人きりでお会いしたくて」

 ひゅぅううう! 周囲から口笛やら野次やらが飛んだ。スタンリー様の顔がみるみる赤くなる。怒ってるぞ……これ。まあ仕方ないじゃない、極秘の相談があるんだから。

「司令官! 奥様を熱烈に愛しているから、女たちを袖にしてたんっすね!」
「いやー。最初はいけ好かない、チャラチャラした騎士あがりが赴任してきたと思ったけど、なかなか男気があるな!」
「しかもこんなかわいい奥さんもらうなんて、やるじゃねーか」
「きょにゅー! きょにゅー!」

 うるさいな! あと粗野!

 私はイーライさんの持って来た荷物を、スタンリー様に見せた。

「あ、ちょうどよかったわ。差し入れです。消毒薬や包帯、塗り薬やら諸々が入ってますので、まずあなたを含め、皆さん傷を洗ってください。砦の医務室の方へ、イーライさんに持って行ってもらいます」

 医療品は村から仕入れているだろうけど、私たちが作る薬の方がよっぽど質がいいもんね!

 スタンリー様はぶっ倒れそうな赤い顔をしていたのに、それで少し表情をやわらげた。

「悪いな」

 ほっ、お怒りを鎮めてもらえたらしい。でもその赤い瞳で見られると、ちょっとソワソワしてしまう。

 やっぱりトラウマの原因となる人だからなのだろう。

 そうは思うのだけど、砦の兵士らに見られている時と違い、あまり不快ではなかった。

 性的な目で見られるか、見られないかの違いなのね。今の彼は明らかに私に興味無いし。

 何よりも、インポテンツだからね!





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