アラサー失恋女子、合コンで年下御曹司(25)にロックオンされる〜タワマン25階住みでも、怪しい壺なんて買いません!〜

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神使【蓮視点②】

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 返事をすると、紋付き袴を身にまとった初老の男が、ひょっこり姿を現した。

 こんな格好をしているが、彼は俺の秘書として働いている。

「SMホールディングスが運営する飲食チェーンに、一族の祓い師を派遣しました」
「ああ、ありがとう」

 首や肩を回しながら言う俺に、上条は報告を続けた。

「ですが、一つ手ごわいのがいるようです」

 嫌な予感がした。

「どこ?」
「K区のショッピングセンター内、手揉みハンバーグM店です。三日前に祓いましたが効果はなく、昨日も今日も営業できていません。ハンバーグは全部食べられたそうです」

 思わず、うめき声を漏らしてしまった。

「失敗かぁ……誰が?」
「渡来様です。今夜、日付が変わる頃に再挑戦する予定ですが、祓う際に怪我を負ったようで……」

 渡来は柳楽家の遠縁の霊能者で、実力は中の上。それでも手こずるなら、もう本家筋以外は手を出さない方がいい。

 しかし、彼以上の霊能者は今、ほとんどが地方に出払っている。

「渡来の代わりに動ける祓い師は、義孝叔父さんしかいないかな? 彼に行かせよう」

 本来なら地方にも事業展開すべきなのだが、常駐スタッフが足りず、一族の者が出張して対応しているのが現状だ。

 俺は正直、行きたくない。昨夜の仕事も、鬼化した霊に手こずって、満足に眠れていないからだ。

 弱い悪霊の段階で、もっと早く依頼してほしいものだが、安い報酬で雇った他の霊能者が失敗し、ようやく柳楽家に回ってくるのが実情である。

 そういう手負いの霊は、すでに凶暴化していて、話など聞く耳を持たない。浄霊は諦め、強制調伏するしかないのだが、これがとんでもなく気力を消耗する。

「義孝様は現在、秋元財務大臣の愛人宅です。夫人の生霊に対処しており、すでに丸三日睨み合いが続いており、依然として難航中──手が離せません」

 上条は淡々とそう答えた。

 大臣かぁ……。

「まったく……。そっちの仕事を引き受けるとさ、芦屋家からまた苦情が来るぞ。あそこは今、余裕がないんだから」
「ですが、秋元大臣と義孝様は、個人的なお付き合いがあるようで……」

 上条は、親指と人差し指で丸を作った。

「あと個人依頼の謝礼としては、かなりの額だそうです」
「エゲつない手つきはやめなさい! あ、じゃあさ、葉月に行かせる?」
「受験生ですよ? あと、学校法人いいとも学院の神隠し事件の完了報告が、まだ上がっていません。大丈夫でしょうか」
「あいつの『神使』も何も言ってこないし、多分サボってるだけだよ」

 俺は腕を組み、天井を見上げて考えた。

「うーん、本家は……神事の準備中だよな。宗主と父は、連日滝行をしているって聞いた」
「毎年の恒例行事ですね」
「禊なんて必要ないはずなのに。意味のないことをやってる気がしてならないよ」
「雰囲気じゃないですか?」

 雰囲気……ファッション霊能者め。

「何より、本家は信州の山の中。探し出して呼び寄せるには、遠すぎます」

 上条の言うことはもっともだ。

 俺は下唇を突き出して、フーッと前髪を吹いた。

 確かに今からじゃ無理だ。呼んでも東京に着くのは明け方近くになる。

 仕方なく俺は、デスク前から立ち上がった。

 昼ならば事務職が在籍するこのオフィスだが、今は代表である俺しかいない。

 俺にしかできないデスクワークもあり、今やっている仕事がまさにそれだが──。

 俺はニッコリ笑顔を上条に向けた。

 何かを察したのか、思い切り目を逸らした彼に、俺は無慈悲に命じていた。

「続きお願~い。新規契約と更新の書類。あ、契約印だけは後で俺が押すから」
「……ご命令ならやりますが……恨みつらみを込めたような文字になりますよ? あと、うっかりわたくしの分を解約してしまうやも」

 上条がククククと笑いだした。その口が耳まで吊り上がり、端から牙が生え、白目の部分が赤く染まる。

 俺は涼しい目で彼を睨んだ。

「それは無理だって分かってるでしょ?『神使』は俺の血にしか反応しない。君だって例外じゃない」

 契約印の透かしが入った書類をヒラヒラ乾かし、朱肉に蓋をした。俺の血液の入った朱肉である。

 「神使」とは、神の眷属の動物霊。

 動物霊と言ってもその辺りの低級霊とは種類が違う。

 神獣と言った方がしっくりくる高等な霊で、油断すると使役する霊能者の方が食われてしまうほどの代物だ。

 ちなみに、俺にはなぜかやたら狐が集まってくるが、神使を使役するなら、硬い契約で縛っておかなければならない。

 それが「血の契約」だ。

「じゃあ、頼むよ」

 上条の口の端から、シュッと牙が引っ込む。元のダンディが漏れ出る和風イケオジに戻ると、心配そうに言ってきた。

「あ、蓮様。少し顔色が悪いようですし、そろそろ本家から、サヤ子さんをお呼びになってはいかがでしょう?」

 俺は顔を顰めた。

「何を笑っていらっしゃるんですか、お疲れなのでしょう?」

 上条が呆れる。

「いや、今は笑ってないし。それに一人で大丈夫だってば。サヤ子がいるとベタベタしてくるからよけい疲れる」

 そう返してから、黒いネクタイをしっかり締め直し、俺はオフィスを出た。

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