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どちらか選びなさいよ
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人に興味を示し、人の味を覚えたら──確かに、放ってはおけない。
「市の三役は、特に警戒してるわ。冬に向けて観光産業を盛り上げようって時期だもの。古い家なら、過去の祟り神の話も伝わってるだろうし……封じるのも怖いけど、封じてないのも怖い」
抵抗による被害がどれだけ広がるかは、未知数らしい。
「ベッタリーの話によれば、民間人に被害が及ばないように張っていた芦屋の結界、全部壊されたらしいわ。若当主が咄嗟に調伏をやめて、自分に意識を向けさせたから、何も起きなかったみたいだけど」
──それで圭太は怪我したのかしら?
「ベッタリーじゃなくて、グロリーよ。仲良しになったの?」
サーヤの赤い唇が、きゅ~っと上がる。
「まさか。やれるもんならやってみな、って感じよ。だから私も言ってやったわ。やってやんよ、ってね! グロリアめ、柳楽家だって、蓮が一人でやってやんよ」
「だからグロリ……へ?」
今、なんて?
「グロリー」
グロリアって言ってた! いや、そんなことより──。
「蓮君が一人で祓うの?」
サーヤは明後日の方を向いて「明日のデート、何着ていこうかしら」ととぼけている。
「サーヤ!」
「だってぇ……蓮が言ったんだもん。誰も手を出すなってー」
拗ねたように枝毛を探すサーヤに、私は食ってかかった。
「圭太が大怪我したのに、どうしてみんなでやらないの? 力を合わせれば──」
「ん~、実は一番てっとり早いのよね。調伏って、結局はヤンキーのタイマンと一緒なの。気力をぶつけ合うから。複数でやるより、サシの方が相手は屈服しやすいのよ」
ヤンキーのタイマン!
「メンチ切ってる時に、横から話しかけられたくないでしょ?」
しないよ、空気読むよ。
「よっぽど相性のいい者同士ならプラスになるけど、蓮と宗主は仲悪いし、櫂は霊力が弱い。蓮が意地になって、宗主に条件を突きつけてるってのもあるし──」
「条件?」
サーヤの目がバナナ型に細まり、むしろ聞かせたいよね?って顔で、両手で口を押さえた。
「茜との結婚を許してもらうためなんだって! 泣ける~。茜ちゅわんがプロポーズOKするとも思えないのにね!」
私はポカンとした。う、うそ……。私のため?
サーヤが面白そうに、私の様子を窺ってくる。
「心配でしょ? あれ? 心配じゃない? 芦屋が失敗したから、今湖にいるのは手負いの霊よ。すご~く怒ってる。体流す前に湯船に入ってきた奴を見た時くらい怒ってる」
そんなに荒ぶってるの? 圭太が試みたから、むしろ弱ってやりやすくなってるかと……。
「芦屋の坊ちゃまもがんばったみたいだけど、よけいなことしたわよね」
「よけいなことって酷い!」
「仕留めなきゃダメだったの! しかも霊力を使い果たして瀕死だっていうし」
愕然とした。
「え、だって、大丈夫なんでしょう? さっき一命は取り留めたって……元気だって言ったわ」
「身体、はね。でも身体だけ無事でも、霊力の消耗が激しければ、人間は生きていけないから。目覚めないかもしれないわよ?」
「そんな──」
「そうねぇ、湖の相手の力がどれくらいか分からないけど、蓮もそうなる可能性が──」
「だめよ、そんなの!」
私は立ち上がり、旅行カバンを引っ張り出して、黙って荷物を詰め込み始める。
さらに、着替えるためにクローゼットを開けた私に、サーヤが静かに聞いてきた。
「どこ行こうっての?」
「長野よ! 二人とも危ないのに、じっとしてなんかいられない」
「ああ……ふ~ん、入院中の芦屋家の坊ちゃんが心配なの? それとも、これから調伏に入る蓮?」
下着を手にとって、私は彼女を睨んだ。
「聞いてどうするの」
「私ね、あんたがどちらか決めるなら、空間捻じ曲げてもいいわ」
「く、空間を捻じ曲げる?」
「分かりやすく言うと、テレポートよ」
さっき、もう驚かないって決めたもん。だから驚かない。
でも、ちょっと突っ込ませて。
「いやいや。そんな漫画じゃあるまいし」
「ただしー、どちらか一人を選んでほしいの」
私は引っぱたかれたように、目をまん丸に見開いた。
「今からどちらに会いに行く? まあ、あんたの今の格好見れば、結論はもう出ていそうだけど」
ごくりと生唾を呑み込み、自分の体を見下ろす。そして、まごついた。バスタオルを巻いた体の上から咄嗟に羽織ったのは、男物のシャツ……。
だってパジャマがわりにちょうどいいし……と、言い訳が口をついて出そうになる。
もちろん、だからと言ってこっちを着ている理由にはならないことくらい、自分でも分かっていた。
シャツは二枚──圭太と蓮君のがあったのだから。
自分の気持ちに正直になるなら……。
深呼吸し、私は口を開いていた。
「圭太のいる病院は?」
「市の三役は、特に警戒してるわ。冬に向けて観光産業を盛り上げようって時期だもの。古い家なら、過去の祟り神の話も伝わってるだろうし……封じるのも怖いけど、封じてないのも怖い」
抵抗による被害がどれだけ広がるかは、未知数らしい。
「ベッタリーの話によれば、民間人に被害が及ばないように張っていた芦屋の結界、全部壊されたらしいわ。若当主が咄嗟に調伏をやめて、自分に意識を向けさせたから、何も起きなかったみたいだけど」
──それで圭太は怪我したのかしら?
「ベッタリーじゃなくて、グロリーよ。仲良しになったの?」
サーヤの赤い唇が、きゅ~っと上がる。
「まさか。やれるもんならやってみな、って感じよ。だから私も言ってやったわ。やってやんよ、ってね! グロリアめ、柳楽家だって、蓮が一人でやってやんよ」
「だからグロリ……へ?」
今、なんて?
「グロリー」
グロリアって言ってた! いや、そんなことより──。
「蓮君が一人で祓うの?」
サーヤは明後日の方を向いて「明日のデート、何着ていこうかしら」ととぼけている。
「サーヤ!」
「だってぇ……蓮が言ったんだもん。誰も手を出すなってー」
拗ねたように枝毛を探すサーヤに、私は食ってかかった。
「圭太が大怪我したのに、どうしてみんなでやらないの? 力を合わせれば──」
「ん~、実は一番てっとり早いのよね。調伏って、結局はヤンキーのタイマンと一緒なの。気力をぶつけ合うから。複数でやるより、サシの方が相手は屈服しやすいのよ」
ヤンキーのタイマン!
「メンチ切ってる時に、横から話しかけられたくないでしょ?」
しないよ、空気読むよ。
「よっぽど相性のいい者同士ならプラスになるけど、蓮と宗主は仲悪いし、櫂は霊力が弱い。蓮が意地になって、宗主に条件を突きつけてるってのもあるし──」
「条件?」
サーヤの目がバナナ型に細まり、むしろ聞かせたいよね?って顔で、両手で口を押さえた。
「茜との結婚を許してもらうためなんだって! 泣ける~。茜ちゅわんがプロポーズOKするとも思えないのにね!」
私はポカンとした。う、うそ……。私のため?
サーヤが面白そうに、私の様子を窺ってくる。
「心配でしょ? あれ? 心配じゃない? 芦屋が失敗したから、今湖にいるのは手負いの霊よ。すご~く怒ってる。体流す前に湯船に入ってきた奴を見た時くらい怒ってる」
そんなに荒ぶってるの? 圭太が試みたから、むしろ弱ってやりやすくなってるかと……。
「芦屋の坊ちゃまもがんばったみたいだけど、よけいなことしたわよね」
「よけいなことって酷い!」
「仕留めなきゃダメだったの! しかも霊力を使い果たして瀕死だっていうし」
愕然とした。
「え、だって、大丈夫なんでしょう? さっき一命は取り留めたって……元気だって言ったわ」
「身体、はね。でも身体だけ無事でも、霊力の消耗が激しければ、人間は生きていけないから。目覚めないかもしれないわよ?」
「そんな──」
「そうねぇ、湖の相手の力がどれくらいか分からないけど、蓮もそうなる可能性が──」
「だめよ、そんなの!」
私は立ち上がり、旅行カバンを引っ張り出して、黙って荷物を詰め込み始める。
さらに、着替えるためにクローゼットを開けた私に、サーヤが静かに聞いてきた。
「どこ行こうっての?」
「長野よ! 二人とも危ないのに、じっとしてなんかいられない」
「ああ……ふ~ん、入院中の芦屋家の坊ちゃんが心配なの? それとも、これから調伏に入る蓮?」
下着を手にとって、私は彼女を睨んだ。
「聞いてどうするの」
「私ね、あんたがどちらか決めるなら、空間捻じ曲げてもいいわ」
「く、空間を捻じ曲げる?」
「分かりやすく言うと、テレポートよ」
さっき、もう驚かないって決めたもん。だから驚かない。
でも、ちょっと突っ込ませて。
「いやいや。そんな漫画じゃあるまいし」
「ただしー、どちらか一人を選んでほしいの」
私は引っぱたかれたように、目をまん丸に見開いた。
「今からどちらに会いに行く? まあ、あんたの今の格好見れば、結論はもう出ていそうだけど」
ごくりと生唾を呑み込み、自分の体を見下ろす。そして、まごついた。バスタオルを巻いた体の上から咄嗟に羽織ったのは、男物のシャツ……。
だってパジャマがわりにちょうどいいし……と、言い訳が口をついて出そうになる。
もちろん、だからと言ってこっちを着ている理由にはならないことくらい、自分でも分かっていた。
シャツは二枚──圭太と蓮君のがあったのだから。
自分の気持ちに正直になるなら……。
深呼吸し、私は口を開いていた。
「圭太のいる病院は?」
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