アラサー失恋女子、合コンで年下御曹司(25)にロックオンされる〜タワマン25階住みでも、怪しい壺なんて買いません!〜

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柳楽父の心配【蓮視点⑮】

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「この割れた石が怪しいみたいですが」

 神使からタブレットに送られてきた画像を、俺は目を細めて眺めた。暗くてピントが甘い。

 この撮影の下手さは左京だろう。茜さんの警護につかせるには頼りないから、サヤ子と交代させたのだ。

 ……サヤ男になると別の意味で危険だが、背に腹は代えられない。

「よく見ると何か彫ってありますね。お地蔵様?」 
「相当古い。最近壊されたにしても、もともと風化してた感じだ」

 地元の神社関係者たちが唸りつつ、タブレットを覗き込む。

 湖に入り込んだモノの正体を調べているのだが、芦屋家が非協力的で何も教えてくれない。

 まったく、これだから京都人は──。

「お地蔵様なら、廃仏毀釈の頃に壊された可能性が高いよ」 
「いや、割れたところは新しい。最近やられたんじゃないか」

 別の爺が、彫刻部分を指差した。

「人型が二体彫られてるじゃろ? 光背もないし、お地蔵様というより道祖神じゃ」 
「ではもう、塞の神ってことでいいですか?」 
「似たようなもんだ、土着の神ってことで」 
「いやいや、それ一緒にしたら怒られますぞ。出雲系の大明神と同列に語れるもんじゃない」

 いつの間にか爺さん達の、民俗学討論会になっている。

「串刺しの動物が気になるね。昔この地であった供物の風習に似てるんだ。贄を要求してるのかもしれん」 
「何を言う、今は別の形でお祭りしてるし、祟り神になるならとっくの昔だよ」
「しかし、この気配は霊とは別物だ。神の類だと思うのだが──」

 議論は白熱し、長引きそうだ。俺は小さく溜め息をつき、分析を諦めて集会所を出た。

 まったく、これだから爺は──。

 少なくとも古の神ではないはずだ。大蛇オロチ以外の古代神なんて見たことがないし、神使たちも口を揃えて「神々はめったに起きてこない」と言っている。

 では、串刺し祭りをしているのは何者か。

 現場の画像から怪しい地点を選び、自分で回ってみることにした。

 車に乗り込むと、運転席に父がいた。ビクッとする。

「と、父さん?」 

 父はエンジンをかけた。 

「正体がわからないことには、引きずり出せないだろ? 私にも手伝わせてくれ」
「…………」

 なんだか気まずいな。茜さんの件でごねているから。

「本当にお前が行くのか。爺ちゃんに任せればいいんじゃないか」
 「もう年だし……俺にも譲れないことがあるんだ」
「まだ大蛇オロチ本体は、降ろしたことがないだろう?」
「神力はずっと借りていたから、大丈夫だってば。それに茜さんにうっかり降りた時も、彼女ケロッとしていたし、ぶっつけ本番でも平気さ」 
「あのお嬢さん……ね」

 父は何か言いたげに黙り込んだ。

 亡くなった俺の祖母は、大蛇オロチの血筋ではない。

 祖父は許嫁との縁談を蹴って、親戚筋ではない祖母──愛する人を選んだ。そのせいで、父の霊力が弱い、と周囲から非難されてきたのだろう。

 だからこそ自分のことを棚に上げ、結婚相手のことをとやかく言うんだ。

「父さんだって、母さんが大蛇オロチの血筋でなくても結婚しただろ?」

 父は観念したのか、ようやく口を開いた。

「……そうだね。お前の母さん以外ありえない。私は運が良かったよ」

 父は坂に上る手前で車を停める。

「私はここだと思うよ」 
「ヌルヌル坂か」

 この地域の伝承に出てくる古い坂だ。

 悪さする大ナマズと、それを退治しようとした権兵衛という若者が、揉み合ってヌルヌルした挙句、結局一体化して「ゴンベエナマズ」になったという話がある。

「捻りのないネーミングだね」

 俺が言うと、父は車から出るよう促した。

「民話では、ゴンベエナマズは串刺しにした農民を食べるそうだ」  

 さんざん食い散らかして湖に戻ろうとしたナマズを、通りすがりの坊主がこの坂に封印したとある。

 坂前には通行止めのバリケードがあった。

「うわ……」

 子供の頃よく通った坂道が、まるで地震の後のようにギザギザに割れている。

 よく見れば地割れとは違い、内側から何かが盛り上がったようにコンクリートが浮いていた。

「決まりだね。湖に戻ったってことか」

 ナマズだからこそ、今は底でじっとしているんだろう。だが、反発するとヤバい。

「かなり暴れそうだよね、ナマズだけに」 
「そっちは我々に任せてくれ。市職員の動員許可は取った。ただ、調伏に関しては、最終的に一騎打ちがいいのは確かだよ。このナマズは戦国時代の妖……いや、もう神に近いからね。蓮、やはり宗主に任せないか?」

 祖父は「老い先短いわしがタイマンする」としゃしゃり出てきた。喧嘩は多いが、孫が可愛いのだろう。

「ダメ、一人でやる。茜さんとの結婚を、爺ちゃん達に認めてもらいたいんだ」 
「……問題は彼女の気持ちだ。見た感じ脈ナシなのに、なんでそんなに思い込みが激しい?」

 父にバッサリ斬られ、俺はうっ、と胸を押さえた。

「名門芦屋家でもダメだった仕事を、振り向いてくれない女性のために受けるのか? 本当に危険なんだぞ」 
「だからこそだよ」  

 俺は決意を込めて言った。 

「圭介さん家より、うちは古いんだ。格の違いを見せてやりたい」




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

※京都人は好きです、爺はもっと好きです。
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