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ロックオンされてる?
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『茜さん、飲みに行きましょうよ』
そのメッセージを見て、私はスマホを落としそうになった。
『あ、俺ですよ、オレオレ』
アカウント名は「神」
それで詐欺ではなく、あの霊能者だと察した。少し前の私なら、両者の違いは分からなかったけれど。
いつの間に……ID交換したっけ?
残業続きだったが、うちの管理室のいいところは、基本土日休みのところだ。
だから今日は朝ごはんも食べずに、十時近くまでゴロゴロしていた。
例によって、女々しくも圭太のシャツを羽織ったまま……。
うつ伏せで画面を眺めしばらく思案した後、私はおもむろに文字を打ち込む。
『先日は魔除けをしていただき、ありがとうございました。おかげさまでぐっすり眠れました。飲みのお誘いですが、しばらくお酒は控えようと思っています』
あくまでも、事務的に。
だって、思い出しただけでも頭を抱えたくなるもの。
もうっ! やっぱりあのやり方はおかしいわよ! 私ったら、なんてことを……。
でも、彼のあの魔除けが「本物」なのは間違いない。
だって、あれから夢も見ずぐっすり眠れるようになったもの。体がすごく軽かった。
すぐに、ポンッとメッセージが上がった。
『なるほど、だったら旅行にいきましょうよ』
そっちの方がハードル高くない!?
なんでよく知らない人と、旅行しなきゃならないの。
『無理です』
『分かりました。ところで、すごく美味しい蕎麦屋があるんです。あー、蕎麦食べたいな』
『どうぞどうぞ』
ポンと、キツネが泣いているスタンプが飛んできた。
あ、キツネに似ているっていう、自覚はあるんだ……。
ちょっと可愛いなと思ってしまい、ふふっと笑い声が漏れた。
しばらく沈黙が続き、お、諦めたかな? と思った頃……あちらからまたメッセージが飛んできた。
『そうだ、じゃあご馳走してくださいよ』
ご馳走……あっ、そうかぁ。
畳んだまま窓際に置いてある、柳楽君のシャツをじっと眺めた。
あの御守り、貸しにされているんだった。
魔除けはサービスという話だったけど、お礼はしなきゃよね。
でも……。
ムクムクと警戒心が頭をもたげてしまう。
今度デートしてください、ってあの言葉……え? まさか体を要求されないでしょうね。
そう思ってから、自意識過剰っぷりにで恥ずかしくなった。
孤独死女子とかアイアンパンツとか言われているアラサーの私を、イケメンの年下君が必死に口説く理由はないよね。
胡散臭いとはいえ彼はお金持ちなわけだし、例の商売を隠せば、遊び相手はそれなりにいそう……。
ハンガーにひっかけて窓際に吊るしていた、昨夜のワンピースに目をやった。
タグが全て取り払われていたけど、よく見たらとんでもないブランド物だった。
下着もフランス製のセレブ使用のやつ……上品でありながら、やけに官能的な感じの。
「これも頂いちゃったけど、逆に高くついたのかな?」
ドキドキしてきた。体の要求は無いにしろ、やっぱり例の壺とか、水晶とか売られるの?
無料より高い物は無いというのは、本当だった?
『壺なら買いませんからね』
私は慌ててメッセージを送った。
直後、電話がかかってきた。
ビクッと肩が大きく波打ち、またスマホを取り落としそうになる。
反射的に通話を押した私の耳に、やや焦ったような柳楽君の声。
『ちょっと! 俺をなんだと思ってるんですか』
「なんだとって……霊能者?」
『その通りですけど……。うん。まあ、そうですね』
声であちらが怯んだのが分かった。
吹き出すのを堪えた私に、柳楽君は真剣な声で言った。
『でも勧誘はしないし、霊感グッズも買わせませんから。単純にデートしてください』
デート……かぁ。
私は指で頬を掻いて考え込む。謝礼の一環として、すべきなのよね?
なにせ、サービスで二回も魔除けをさせてしまっているわけだし……いや、もちろん名刺の住所宛てに、お礼の品は贈るつもりではあったけどさ。
お祓いなんかを生業としている相手に対し、さすがに甘えすぎだと思った私は、警戒しながらも承知していた。
『そうね、こちらかお誘いすべきだったわね。お蕎麦でいいの? 焼肉でもぜんぜん大丈夫。ご馳走させてください』
幸い、お給料は入ったばかりだ。食べ放題に連れ込めば、それほど痛くない。
柳楽君は変な仕事をしているわりに、ガリもやしではない。だけど、かといってマッスルでもないのよね。
圭太と似たような細マッチョ風。これなら運動部男子でもあるまいし、私が破産するまで食べないはず。
『やった!』
スマホの向こうから微かに聞こえた声は、弾んでいた。拳を握りしめる年相応の姿が目に浮かんで、ちょっとこちらも華やいでしまう。
その瞬間、昨夜のことをまた思い出してしまったわけ。
詳細に。
舐め舐めされた感触まで浮かんできて、下腹部がきゅっとなった。
だから、あれは魔除けよ! 魔除け以外であんなことさせないもんっ。
『ではあかねさん、今日これから行きましょう!』
いや、早いな! 確かに今日はお休みだけどさ。
うーん、と私は悩んだ。魔除けが切れる頃じゃ駄目かしら?
『この前の祓詞、ちゃんと効いてるか確認したいんです。茜さん、やけに悶えるから歪んだかもしれない』
くすぐったかったからよ!
……よし、さっさと済ませるか、お礼。お金のあるうちに。
『分かったわ、何時にする?』
『今、あなたの家の前にいます。ちょうど近くを通ったので』
メリーさんか!
私はベッドから跳び起きて、こけつまろびつ洗面所に向かった。
そのメッセージを見て、私はスマホを落としそうになった。
『あ、俺ですよ、オレオレ』
アカウント名は「神」
それで詐欺ではなく、あの霊能者だと察した。少し前の私なら、両者の違いは分からなかったけれど。
いつの間に……ID交換したっけ?
残業続きだったが、うちの管理室のいいところは、基本土日休みのところだ。
だから今日は朝ごはんも食べずに、十時近くまでゴロゴロしていた。
例によって、女々しくも圭太のシャツを羽織ったまま……。
うつ伏せで画面を眺めしばらく思案した後、私はおもむろに文字を打ち込む。
『先日は魔除けをしていただき、ありがとうございました。おかげさまでぐっすり眠れました。飲みのお誘いですが、しばらくお酒は控えようと思っています』
あくまでも、事務的に。
だって、思い出しただけでも頭を抱えたくなるもの。
もうっ! やっぱりあのやり方はおかしいわよ! 私ったら、なんてことを……。
でも、彼のあの魔除けが「本物」なのは間違いない。
だって、あれから夢も見ずぐっすり眠れるようになったもの。体がすごく軽かった。
すぐに、ポンッとメッセージが上がった。
『なるほど、だったら旅行にいきましょうよ』
そっちの方がハードル高くない!?
なんでよく知らない人と、旅行しなきゃならないの。
『無理です』
『分かりました。ところで、すごく美味しい蕎麦屋があるんです。あー、蕎麦食べたいな』
『どうぞどうぞ』
ポンと、キツネが泣いているスタンプが飛んできた。
あ、キツネに似ているっていう、自覚はあるんだ……。
ちょっと可愛いなと思ってしまい、ふふっと笑い声が漏れた。
しばらく沈黙が続き、お、諦めたかな? と思った頃……あちらからまたメッセージが飛んできた。
『そうだ、じゃあご馳走してくださいよ』
ご馳走……あっ、そうかぁ。
畳んだまま窓際に置いてある、柳楽君のシャツをじっと眺めた。
あの御守り、貸しにされているんだった。
魔除けはサービスという話だったけど、お礼はしなきゃよね。
でも……。
ムクムクと警戒心が頭をもたげてしまう。
今度デートしてください、ってあの言葉……え? まさか体を要求されないでしょうね。
そう思ってから、自意識過剰っぷりにで恥ずかしくなった。
孤独死女子とかアイアンパンツとか言われているアラサーの私を、イケメンの年下君が必死に口説く理由はないよね。
胡散臭いとはいえ彼はお金持ちなわけだし、例の商売を隠せば、遊び相手はそれなりにいそう……。
ハンガーにひっかけて窓際に吊るしていた、昨夜のワンピースに目をやった。
タグが全て取り払われていたけど、よく見たらとんでもないブランド物だった。
下着もフランス製のセレブ使用のやつ……上品でありながら、やけに官能的な感じの。
「これも頂いちゃったけど、逆に高くついたのかな?」
ドキドキしてきた。体の要求は無いにしろ、やっぱり例の壺とか、水晶とか売られるの?
無料より高い物は無いというのは、本当だった?
『壺なら買いませんからね』
私は慌ててメッセージを送った。
直後、電話がかかってきた。
ビクッと肩が大きく波打ち、またスマホを取り落としそうになる。
反射的に通話を押した私の耳に、やや焦ったような柳楽君の声。
『ちょっと! 俺をなんだと思ってるんですか』
「なんだとって……霊能者?」
『その通りですけど……。うん。まあ、そうですね』
声であちらが怯んだのが分かった。
吹き出すのを堪えた私に、柳楽君は真剣な声で言った。
『でも勧誘はしないし、霊感グッズも買わせませんから。単純にデートしてください』
デート……かぁ。
私は指で頬を掻いて考え込む。謝礼の一環として、すべきなのよね?
なにせ、サービスで二回も魔除けをさせてしまっているわけだし……いや、もちろん名刺の住所宛てに、お礼の品は贈るつもりではあったけどさ。
お祓いなんかを生業としている相手に対し、さすがに甘えすぎだと思った私は、警戒しながらも承知していた。
『そうね、こちらかお誘いすべきだったわね。お蕎麦でいいの? 焼肉でもぜんぜん大丈夫。ご馳走させてください』
幸い、お給料は入ったばかりだ。食べ放題に連れ込めば、それほど痛くない。
柳楽君は変な仕事をしているわりに、ガリもやしではない。だけど、かといってマッスルでもないのよね。
圭太と似たような細マッチョ風。これなら運動部男子でもあるまいし、私が破産するまで食べないはず。
『やった!』
スマホの向こうから微かに聞こえた声は、弾んでいた。拳を握りしめる年相応の姿が目に浮かんで、ちょっとこちらも華やいでしまう。
その瞬間、昨夜のことをまた思い出してしまったわけ。
詳細に。
舐め舐めされた感触まで浮かんできて、下腹部がきゅっとなった。
だから、あれは魔除けよ! 魔除け以外であんなことさせないもんっ。
『ではあかねさん、今日これから行きましょう!』
いや、早いな! 確かに今日はお休みだけどさ。
うーん、と私は悩んだ。魔除けが切れる頃じゃ駄目かしら?
『この前の祓詞、ちゃんと効いてるか確認したいんです。茜さん、やけに悶えるから歪んだかもしれない』
くすぐったかったからよ!
……よし、さっさと済ませるか、お礼。お金のあるうちに。
『分かったわ、何時にする?』
『今、あなたの家の前にいます。ちょうど近くを通ったので』
メリーさんか!
私はベッドから跳び起きて、こけつまろびつ洗面所に向かった。
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