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第二章

この醜い豚はすぐ調子にのる

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 それにしても、王宮の入り口ホールから大ホールに入った途端、周りがわたくしたちをジロジロ見てきたのが気になりました。

 まるでお披露目ではございませんか! せっかく大きなウェディングベールを購入したのに、ここでこの姿を晒しては、ヒューバート様の妻になる者が醜女だとばれてしまう。

 後ろを歩くミラベルとクライヴ兄様が美男美女だから、よけい目立ってしまうのかも。

 美女と野獣ならぬ、美男と家畜。

 わたくしだけ離れた方が、よいのではないかしら……。

「ホールに入ったら、正面の国王夫妻ににご挨拶して。初めて拝謁するだろう?」

 ヒューバート様に話しかけられ、わたくしはハッと彼の方に顔を向けました。

「緊張してる?」

 わたくしは頷きました。爵位を持たぬ新興貴族だもの。緊張して当たり前です。こんな貴族だらけの舞踏会なんて──。

 ところが、周囲には知っている顔がちらほらあることに気づきました。

「まあっ! 学院で同じクラスだった令嬢たちがいらっしゃるわ!」
「クライヴが言っていただろう? 年収によるが、新興貴族の招待も始まったんだ。ざっと見る限り、会場の三分の一は新興貴族みたいだね」

 ヒューバート様と普通に話せていることが、嬉しくて仕方ありません。

 確かに、国王夫妻にご挨拶し、その場で年内に結婚するつもりだとヒューバート様がお伝えした時も、特に両陛下がびっくりされることもございませんでした。

 侯爵家の嫡男と、新興貴族の娘なのに。

 わたくしはその時、時代の変化を感じ取ったのです。わたくしとヒューバート様が結婚しても、非常識ではないのだわ!

 そこでわたくしは、また自分の頬を叩きました。勘違いしちゃダメ! 身分ではなく、わたくしの存在が釣り合わないのでしょ!

 楽団が、ダンス音楽の演奏準備に入りました。
 
 国王夫妻を交えたカドリーユから始まるようで、皆パートナーを連れて列に加わります。

 クライヴ兄様が手を差し伸べてきました。

「さて、我が愛しい妹よ、にーにーと踊ってくれるかい?」
「馬鹿言ってるんじゃないわよクライヴ、普通は婚約者とでしょ。シンシアは、まずうちの兄様とよ」

 ミラベルに窘められ、渋々引き下がるクライヴ兄様です。ミラベルはふふんと鼻で笑い、お兄様の腕に手を掛けました。

「仕方ないわね、私が踊ってあげるから」
「いや、けっこうだ」
「なんでよ」
「君は貴族のくせに下手くそじゃないか」

 ああ、王宮のダンスホールでも喧嘩を始めてしまったわ。

 オロオロしていると、すっとヒューバート様が手を伸ばしてきました。なんと、わたくしにです。

「一曲お願いできるかな」
 
 わたくしは躊躇いました。もちろん、エスコートしてきてくれた婚約者ですもの、踊らないわけにはいかないでしょう。

 でも……いくら付きっきりで組むダンスではないとはいえ、ヒューバート様のような貴公子とわたくしが公衆の面前で踊っては、まるで見世物。

 彼の評判を落としてしまう。

「あの、わたくしクライヴ兄様と違って、社交界に出ていないので、ほんとうにカドリーユが下手で──」
「じゃあ何が得意なんだい? ワルツ?」

 ヒューバート様が揶揄うようにおっしゃいました。

「えと、あの……計算とか。東の国のそろばんが、残像しか見えないくらい速いと、農園の会計士から言われました。暗算も得意です。あ、金勘定が特技ということになってしまいますが」

 ダンスに関係ないことを言ってしまったわたくしに、ヒューバート様が吹き出します。

 細めた目尻にシワが寄り、クシャと破顔したヒューバート様。わたくしは萌死するかと思いました。

 好き!

 気づくとわたくしは、また自分の頬っぺたを引っぱたいていました。

 ヒューバート様が焦ってわたくしの手首を掴みます。

「ちょっと! さっきからなぜ気合いを? 痛そうだからやめてくれないか」

 だって、ヒューバート様に笑っていただけると、わたくし天にも昇る気持ちになるのです。

 まったく、駄目ですね。彼は高嶺の令息。

 手に入らないものを求めてはいけない。

 三年前に学んだはずなのに。
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