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街デートになってしまった~エイベル視点~

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「あのさ、委員長」

 夏祭りの時よりは涼しくなってきた街を歩きながら、僕は制服姿の委員長の背中に声をかけた。

「なに?」
「ルシールって呼んでいいかな」

 委員長が立ち止まる。

 あれ……。

 今度こそ怒らせたかな。僕はどうも人との距離感がおかしいらしい。男友達から言わせると、だから勘違いされるのだとか。

 だけど僕は、男友達だって名前ですぐ呼びたくなるぞ? その方が親しくなれるだろう?

 もちろん、それを嫌がる人も中にはいるだろうから、こうやって許可をもらうんだ。例えば、委員長のようにパーソナルスペースを重んじる人からは、確実に嫌がられる。

 分かっているのに、委員長のことはどうしても名前で呼びたかった。委員長は皆の委員長だが、ルシールと呼べば、こう……なんていうか、僕の──。

「いや、ほらさ、恋人っぽっく見えた方がいいかなって……」

 僕は沈黙に耐えられず、言い訳がましくそう言った。

 銀縁の眼鏡を押し上げると、委員長は僕を冷たい瞳で見据えた。五秒くらい間が空いた。

「いいわよ」

 いいのかよ! なんでそんな間を空けるんだ!?

 僕は嬉しくて、小さく腰の横でガッツポーズしてしまった。なんかこう、野良猫が初めて近づてきてくれたような、そんな気分。


 露店は夏祭りが終わって畳まれてしまっていたので、学院からは少し遠い店舗まで足を運んだ。

 アイスクリーム屋は相変わらず大繁盛で、行列ができていた。僕はテラス席を指し示す。

「座って待っていて。買ってくる」
「なんでよ、私が並ぶわよ」

 どうしてそんなこと女の子にさせなきゃならないんだ。僕は理解できなくてきょとんとした。

「今日は私がご馳走するから」
「な、とでもない、僕が」
「エイベル君」

 ひやっとした声がして僕は固まった。眼鏡の奥の瞳が光る。

「わたし、借りを作るのは嫌なの」

 えぇええ、だってあれは彼女のために買ったわけじゃないのに。

「委員長」
「ルシール。自分で呼んでいい? って聞いたのよね」
「あ、うん。ルシールさん……ルシール。僕は自分の好きなクッキー&クリームを買って、約束に遅れそうだったから君に押し付けただけだよ。だから君にご馳走してもらうのは悪いよ」

 くすっとまた笑われた。今日二回目だぞ、委員長の笑顔は。ドクドクと心臓が高鳴る。破壊力がすごい。この控えめな笑顔を見たことがあるのは、もしかして僕だけなんじゃないのか?

「それは嘘よね。日没までまだ時間があったもの。あなた、お友達との約束の時間が迫っているように見せて、本当は私にアイスクリームを渡したかったの」

 ぐっと言葉に詰まった。なんで、そんなこと分かるんだろう。頭がいいのは知っていたけど、見抜かれていたなんて、僕はダサすぎる。女の子に気を遣わせてはダメなのに。

「ど、どうして分かったんだい?」

 気恥ずかしくて動揺してしまった。

「なんだ、やっぱりそうだったの」

 ……カマかけられたらしい。

 俺は眉間を摘まんでしばらく立ち尽くしていた。なんなんだ、この人。

 意外に思うだろう? 僕は今、初めて女の子に振り回されている。

「ごめん、それでもやっぱり、僕に買いに行かせてください」
「……なんていうか、エイベル君て生まれながらに奉仕体質なのね」

 哀れんだように言われてしまった。
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