13 / 27
街デートになってしまった~エイベル視点~
しおりを挟む
「あのさ、委員長」
夏祭りの時よりは涼しくなってきた街を歩きながら、僕は制服姿の委員長の背中に声をかけた。
「なに?」
「ルシールって呼んでいいかな」
委員長が立ち止まる。
あれ……。
今度こそ怒らせたかな。僕はどうも人との距離感がおかしいらしい。男友達から言わせると、だから勘違いされるのだとか。
だけど僕は、男友達だって名前ですぐ呼びたくなるぞ? その方が親しくなれるだろう?
もちろん、それを嫌がる人も中にはいるだろうから、こうやって許可をもらうんだ。例えば、委員長のようにパーソナルスペースを重んじる人からは、確実に嫌がられる。
分かっているのに、委員長のことはどうしても名前で呼びたかった。委員長は皆の委員長だが、ルシールと呼べば、こう……なんていうか、僕の──。
「いや、ほらさ、恋人っぽっく見えた方がいいかなって……」
僕は沈黙に耐えられず、言い訳がましくそう言った。
銀縁の眼鏡を押し上げると、委員長は僕を冷たい瞳で見据えた。五秒くらい間が空いた。
「いいわよ」
いいのかよ! なんでそんな間を空けるんだ!?
僕は嬉しくて、小さく腰の横でガッツポーズしてしまった。なんかこう、野良猫が初めて近づてきてくれたような、そんな気分。
露店は夏祭りが終わって畳まれてしまっていたので、学院からは少し遠い店舗まで足を運んだ。
アイスクリーム屋は相変わらず大繁盛で、行列ができていた。僕はテラス席を指し示す。
「座って待っていて。買ってくる」
「なんでよ、私が並ぶわよ」
どうしてそんなこと女の子にさせなきゃならないんだ。僕は理解できなくてきょとんとした。
「今日は私がご馳走するから」
「な、とでもない、僕が」
「エイベル君」
ひやっとした声がして僕は固まった。眼鏡の奥の瞳が光る。
「わたし、借りを作るのは嫌なの」
えぇええ、だってあれは彼女のために買ったわけじゃないのに。
「委員長」
「ルシール。自分で呼んでいい? って聞いたのよね」
「あ、うん。ルシールさん……ルシール。僕は自分の好きなクッキー&クリームを買って、約束に遅れそうだったから君に押し付けただけだよ。だから君にご馳走してもらうのは悪いよ」
くすっとまた笑われた。今日二回目だぞ、委員長の笑顔は。ドクドクと心臓が高鳴る。破壊力がすごい。この控えめな笑顔を見たことがあるのは、もしかして僕だけなんじゃないのか?
「それは嘘よね。日没までまだ時間があったもの。あなた、お友達との約束の時間が迫っているように見せて、本当は私にアイスクリームを渡したかったの」
ぐっと言葉に詰まった。なんで、そんなこと分かるんだろう。頭がいいのは知っていたけど、見抜かれていたなんて、僕はダサすぎる。女の子に気を遣わせてはダメなのに。
「ど、どうして分かったんだい?」
気恥ずかしくて動揺してしまった。
「なんだ、やっぱりそうだったの」
……カマかけられたらしい。
俺は眉間を摘まんでしばらく立ち尽くしていた。なんなんだ、この人。
意外に思うだろう? 僕は今、初めて女の子に振り回されている。
「ごめん、それでもやっぱり、僕に買いに行かせてください」
「……なんていうか、エイベル君て生まれながらに奉仕体質なのね」
哀れんだように言われてしまった。
夏祭りの時よりは涼しくなってきた街を歩きながら、僕は制服姿の委員長の背中に声をかけた。
「なに?」
「ルシールって呼んでいいかな」
委員長が立ち止まる。
あれ……。
今度こそ怒らせたかな。僕はどうも人との距離感がおかしいらしい。男友達から言わせると、だから勘違いされるのだとか。
だけど僕は、男友達だって名前ですぐ呼びたくなるぞ? その方が親しくなれるだろう?
もちろん、それを嫌がる人も中にはいるだろうから、こうやって許可をもらうんだ。例えば、委員長のようにパーソナルスペースを重んじる人からは、確実に嫌がられる。
分かっているのに、委員長のことはどうしても名前で呼びたかった。委員長は皆の委員長だが、ルシールと呼べば、こう……なんていうか、僕の──。
「いや、ほらさ、恋人っぽっく見えた方がいいかなって……」
僕は沈黙に耐えられず、言い訳がましくそう言った。
銀縁の眼鏡を押し上げると、委員長は僕を冷たい瞳で見据えた。五秒くらい間が空いた。
「いいわよ」
いいのかよ! なんでそんな間を空けるんだ!?
僕は嬉しくて、小さく腰の横でガッツポーズしてしまった。なんかこう、野良猫が初めて近づてきてくれたような、そんな気分。
露店は夏祭りが終わって畳まれてしまっていたので、学院からは少し遠い店舗まで足を運んだ。
アイスクリーム屋は相変わらず大繁盛で、行列ができていた。僕はテラス席を指し示す。
「座って待っていて。買ってくる」
「なんでよ、私が並ぶわよ」
どうしてそんなこと女の子にさせなきゃならないんだ。僕は理解できなくてきょとんとした。
「今日は私がご馳走するから」
「な、とでもない、僕が」
「エイベル君」
ひやっとした声がして僕は固まった。眼鏡の奥の瞳が光る。
「わたし、借りを作るのは嫌なの」
えぇええ、だってあれは彼女のために買ったわけじゃないのに。
「委員長」
「ルシール。自分で呼んでいい? って聞いたのよね」
「あ、うん。ルシールさん……ルシール。僕は自分の好きなクッキー&クリームを買って、約束に遅れそうだったから君に押し付けただけだよ。だから君にご馳走してもらうのは悪いよ」
くすっとまた笑われた。今日二回目だぞ、委員長の笑顔は。ドクドクと心臓が高鳴る。破壊力がすごい。この控えめな笑顔を見たことがあるのは、もしかして僕だけなんじゃないのか?
「それは嘘よね。日没までまだ時間があったもの。あなた、お友達との約束の時間が迫っているように見せて、本当は私にアイスクリームを渡したかったの」
ぐっと言葉に詰まった。なんで、そんなこと分かるんだろう。頭がいいのは知っていたけど、見抜かれていたなんて、僕はダサすぎる。女の子に気を遣わせてはダメなのに。
「ど、どうして分かったんだい?」
気恥ずかしくて動揺してしまった。
「なんだ、やっぱりそうだったの」
……カマかけられたらしい。
俺は眉間を摘まんでしばらく立ち尽くしていた。なんなんだ、この人。
意外に思うだろう? 僕は今、初めて女の子に振り回されている。
「ごめん、それでもやっぱり、僕に買いに行かせてください」
「……なんていうか、エイベル君て生まれながらに奉仕体質なのね」
哀れんだように言われてしまった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
234
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる