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これが女たらしか!

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 どうしても奉仕したくなるのかしら……気の毒な人だわ。私は哀れみを込めて列の方を見やった。

 けっきょく並んでいるエイベル君。女の子たちからいいように振り回されてきたのが、目に見えるようだ。でも、マメで優しいから苦にならないのだろう。

 私に向かって、嬉しそうに手を振ってくる。ご機嫌なワンちゃんみたい。うん、哀れむのはおかしいわね。女性に尽くすのが、生きがいなのでしょうから。

 どう表現すべきか。

 ……可愛い。

 そう思った瞬間、ズキッと胸に痛みが走った。

 本物の彼女になったら辛いだろうな、と容易に想像できてしまったからだ。

 博愛主義者の彼氏か……。

 やっぱり人間は欲張りだ。私もエイベル君を独り占めしたくなってしまうだろう。

 でも自分が誰かを好きになる気持ちって、なんだかいっぱしの女の子みたいでくすぐったいというか、悪い気持ちではない。

 今日は図書館で勉強だったけど、一応デートだからリップを塗って、髪はがんばってフィッシュボーンに編み込んだ。

 たぶん、彼には三つ編みと区別ついてないだろう。それでもいいの。オシャレしたくなる自分は大発見。エイベル君といる時だけ、私は可愛げのない鉄仮面じゃなくなる。

「期間は入試が終わって、卒業パーティーまで。ううん、合格発表までにしてもらおう。それまでは、私も楽しもう」

 自分に言い聞かせるように小さく呟いた時、エイベル君がアイスを持ってやってきた。

「はい」

 エイベル君は、クッキー&クリームを渡してくれる。

「本当に前と同じ味でいいの?」
「うん、あれが美味しかった」
「だって、他のは食べたことないんだよね?」

 戸惑ったように聞かれて、私は目を細めた。

「いいの、これで」

 だってエイベル君の気遣いの分、美味しくなったアイスだもの。他のより美味しいに決まっているじゃない。美味しさの半分は、優しさと空腹でできているって、昔のえらい人が言っていたもの。

「絶対に、これが一番美味しいの」
「じゃあ……お互い味見しよっか」
「え?」

 エイベル君は、自分のアイスを差し出す。私は目を丸くした。

「なにこれ、緑と赤が混じってる」

 興味深くてしげしげ眺めてしまう。綺麗。

「スイカだって」
「へー!」

 私はオズオズと受け取ると、スイカアイスを持ち上げ、さらに観察した。黒と白の粒粒がある。

「黒の粒々がチョコで、白の粒々はホワイトチョコだって」

 エイベル君が説明してくれる。

「偽物の種なのね」

 偽物、という自分の言葉が胸に刺さる。私と同じか……。

 気持ちを誤魔化すように、ペロッと舐めてみた。うわぁ、本当にスイカの味がする。すごい。

 感激して、エイベル君のなのにもう一口舐めてしまった。ふふ。冷たくて、甘くておいしい。

 ふと、彼を見ると真紅の瞳が見開かれている。私が首を傾げると、彼の瞳孔がきゅっと締まった。

「なんか、そのアイスが羨ましい。……僕も舐められたい」

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