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第一章 ヒロイン視点 悪役令嬢の断罪
16.ロザリーの言い分 2
しおりを挟むロザリーの頭を、大きな分厚い手でぽん、ぽん、と、軽く撫でながらおじさんは話した。
「実際、この子には才がある。考案するメニューや営業形態はとても斬新だ。
だが、いくら才があっても、任せるには早すぎたな。近くに良いものがあるなら、そこから学ばねばならん。
嫌がらせをして潰そうとするなど、人の道にもとる。謝りなさい」
ぐぐっと、ロザリーの肩に力がこもる。
何か、言いにくいことらしい。
なに。ごめんじゃないの?
黒いどろどろは、また私の中から出てこようと頑張り始めた。
やっぱり、こいつは、はんせいなんかしないぞ。
やっつけないと、いつまでもおんなじだぞ。
さあ、きずつけろ。にくめ。うらめ。これまでの分だ。いやな気分にさせるんだ。
「……でも!私の居酒屋は、もっと大きくなって、このお店も吸収合併して、この子もやとって」
……やとって?
黒いぐるぐるが動揺した。私を、雇う?あなたが?
「今、説明したろう。材料が贅沢過ぎるんだ。
居酒屋が大きくならないのは、この店のせいではない。他国から取り寄せる香辛料がいくらすると思っている。
計算がまだできないから、仕方ないのかもしれないが」
……まだちょっと考えがまとまらない。
とりあえず、いざかやはメニューに問題があるんだ。うちのせいじゃない。
そうだ。嘘のうわさを流して、さかうらみして、うちをつぶそうなんて、わるいやつだ。
そうだ。あやまれ。あやまるんだ。
ロザリーは、目に涙を溜めながら俯いてる。
よし、もう少し。
さあ、負けを認めろ。罪を認めるんだ。そしたら、黒いものがあなたをやっつけてやるんだから。
そんないいところで、ニムルスがしゃべり出した。
「うーんと、なあ、ここの料理を食ってからにしないか?自分の家のメシ以外、あんまり食べたことないんだろ?」
くう、今あいつ謝ろうとしてたのに。
ロザリーは、なんかニムルスを見ている。
少し口角が上がった気がした。
何、自分がかばってもらってるとでも思ってる?
ニムルスを、ぎろっと睨んでやった。
ふっ、と、ニムルスは笑った。
くっ、ちっともこたえてない。
ぐぐっとぐるぐるしたものがこみ上げてきた。
今度は、何か真っ黒だけじゃない。
なんだろう、違うものが混ざっている。なに?よくわからない。
「お前だって、ロザリーが、親に言われて口先だけ謝ったからって満足すんのか?納得できんのか?
俺だったら嫌だな。女としては最低の噂だったんだぜ?上っ面だけで簡単に許したくはねえ。
そうだろ?」
すとん。
こころに、言葉が落ちてくる。
やっぱりこいつは胡散臭い。
その通りだ。私の心でも読んでるのか。
なんか、テーブルの下で私の手を掴んできた。
なんでか、振りほどけなかった。
こくん。頷く。
ニムルスは、ただでさえタレ目がちの目を更に垂れさせ、微笑んで私の手を離す。
ぐるぐるした黒い気持ちは、蓋がされたみたいにどこかに消えていた。
やっぱり胡散臭い。魔法でも使ってるのか。
ロザリーは、ぎゅっと口を引き絞った。
ねえ、あごにうめぼしできてるよ。
しわしわだよ。
ちょっとぶさいくだ。黒くない何かが少しひっこんだ。
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