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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
8.仕事が手につきすぎて
しおりを挟むなんだか胸がむかむかしたまま、リーナの家に行って掃除をした。
椅子を上げて、下を掃く。雑巾を絞って、床を磨く。それが終わるあたりで、ロザリーがやってくる。
「カイル、大丈夫?何か、顔が変よ?」
え、なんで。別に何も。
「何でもねえよ。そうだ、ありがとな。司祭様に怒られなくて済んだ」
今日の、居眠りの時のことだ。でも、今はあんまりロザリーの顔を見れない。
「……余計なことを言ったかしら」
ぶんぶん。頭を振って、否定する。
そのまま、無言で作業に没頭した。
やることがあるってのは、いい。嫌なことを忘れさせてくれる。
なんだよあいつら。
ザムはまだいい。正面からかかってきたんだから。
周りのやつら、なんで睨んでたんだ。俺、頑張ってんのに。なんだよ。
がしがしがしがし。テーブルを、カウンターを、拭きまくる。その頃には、俺の帰りに合わせてるのかカラムがいつもより早く見せに来ていた。もうディアスさんと雑談しながら一杯やっている。
エールを持って行ったロザリーと、少しひそひそと話している。あー……、と、ため息混じりに何か声を上げて、カラムはロザリーをぐしゃぐしゃ撫でた。
ロザリーは、まんざらでもないようだ。慣れってすごいな。
あんなに誇り高いかんじのお嬢様が、ごつい冒険者のおじさんに撫でられてにこにこしている。
素直に、笑ってる。
リーナがかわいい、か。うん、かわいいと思うよ。
半分は、俺が女の子にあんまりしゃべり慣れてなくて、それが更にリーナだから、ごめんって言えないのもあるかもしれない。
さらさらつやつやの、薄いピンクのまっすぐな髪の毛。動くとふわっと波立って確かにきれいだ。顔には、きれいな緑色の大きな瞳。鼻筋の通った整った容姿。白い肌に、丸めの顔に小さいけど程よく赤くぷっくりした唇。
でも、俺があいつにいいたいのは、かわいいとかそういうことじゃなくて。だから、謝りたくて。
そうだ、謝りたいんだよ。でもなんだか、先にばかにされるからいつもかっとなっちゃうんだ。
ていうか、あいつをなんとかできる奴っているのか?すごい力なんだぞ?
みんな、遠巻きにしてないで友達になればいいんだ。なんか頭のネジがだいぶ抜けてるみたいなリーナの頭の構造が、よくわかるから。
右手がぴりぴりする。
あいつが、あんなふうになったのは、俺のせい、なのか。
つらかったもんな。そうだよな。
「わん……カイル君!もういいわよ。暗くなるから、カラムに送ってもらってちょうだい。今日もありがとうね」
はっ、と、気づくと。俺は、店の壁まで磨き始めていた。
ここ、別に汚くないのに。
「ごめん、エリサさん。夢中になっちゃった。カラムさん、時間、大丈夫?」
「大丈夫さ。じゃあ、行こうか」
俺は、店にぺこりと頭を下げる。顔を上げると、店の全員がカラムと目配せして頷いてた。なんでだ。
リーナだけは、なぜかフライパンで素振りしてた。
最近お前そればっかな。
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