本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる

20.わんわん君、卒業の試練 最終課題

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「さぁ、私の番ね」

かたん、と、椅子に座るリーナの髪が、さらっとなびく。

男連中が、ちょっとざわつく。うん、リーナが強いのはみんな予選でわかったと思うんだ。ちょっと変なのも、わかったと思うんだ。なのに。

そういえばロザリーが、ひろいんほせい、って言ってたな。なんだかわかんないけど。
めんどくせぇなもう。


いや、でも、それは言い訳だ。
俺が、思いっきり殴った相手だ。この右手で。
だから、だよな。注目、されるよな。


いつものように、ぐっ、と、手を繋ぐ。
いつものように、右手がじくじくと痛み出す。
毎日繰り返された。いつも負けた。何も言えなくなった。毎日、言いたかったこと。

今度こそ。


「さあ、いくよ!レディー、ゴー!!」


ぐっ、と、力を入れて、気づいた。
リーナの手が、ふわっと傾く。あっという間に、机につきそうになる。

え。なんで。
リーナ、力入れて、ない?

「何やってんの?わんわん君って、嫌なんでしょ?」

にやにやしながら、手をぷらぷらさせてくる。
……勝てるくせに、勝たないつもりか?

ばかにするな!!


ぐいっ、と、反対側に手を引っ張る。
さっき、俺に司祭様がやったことだ。
リーナは慌てて、自分の勝ちを直前で止める。

その大きな目はもっと大きくなって、こっちを見ていた。

「しょうがねえだろ!俺は!おまえの机をかくした!ぼうりょくをふるったんだ!お前は俺をばかにする資格があるんだよ!俺は、お前には勝っちゃダメなんだ!!」

ぐいぐい。お互いに負けようとして手を引っ張り合う、逆腕ずもうになった。

リーナはいつでも、思い通りの結果が出せるんだろうけどな。
え?え??って、どうしたらいいのかわかんないみたいだ。

ちくしょう。絶対に勝つもんか。


「あ、やきいも!」

ふっと、リーナの後ろをわざと見てみる。

「え?」リーナが振り向くと同時に。

どん!



俺の負けが、決定した。



「……え?あれ?やきいもは?あれ?」

こんな夏になろうって時にやきいもなんて、大通りの出店くらいでしか売ってねえよ。


がたん。俺は、立ち上がって、リーナに向き直った。


「机のこと、殴ったこと、本当に、本当に、ごめんなさい!ごめん、なさい!!」


がばっ、と、腰から上が地面と同じ向きになるくらい、頭を下げた。

涙は、こらえた。半年以上、こっそり全部出た。
もう、出がらしだ。だから、がまんできる。



「……やきいも」

え?

「やきいも、ないの?」

あれ?
なんか、寒くない?

「あーあ。リーナにとって、焼き芋はすんごい大事なんだぞ。カイル、お前毎日焼き芋持って店に行けよ。リーナに殺されるぞ」


……なにそれ。

「……やきいも、毎日?」

こくこくこく!!
頷くしかなかった。リーナから放たれた冷気、本当に魔法の冷気なんだ。命が危ない。


「よぉし、わかった!カイルは、うちで焼き芋のメニュー開発ね!それで許してあげる!!」


どっ、と、笑いが起こった。そんなに焼き芋大事か。

「わかったよ……。焼き方はわかるから、大丈夫だよ。後は仕入先くらいかな」

「紅あずまじゃないと認めない!!」


ええー。種類の指定あるのかよー。

……あれ?リーナ?

その、緑色の大きな目から。
ぽろぽろと、何かが出てきた。

「やきいも、食べたいーーー!!カイルのばかーーー!!!」


うえぇぇん、と、泣きじゃくるリーナに、ハンカチ屋はやっぱりハンカチを貸していた。

俺は、リーナを泣かせた報復に、ニムルスからこちょこちょの刑に処された。


そのあとしばらく、こちょこちょは、クラスでブームになった。



それからリーナもニムルスも、他のみんなも。
もう俺をわんわん君とは、言わなかった。



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